「専守防衛」

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「専守防衛」一辺倒では日本は有事に自滅を避けられない

防衛白書によれば、日本の基本防衛政策は「専守防衛」となっている。簡単にいえば「相手から武力攻撃を受けた場合に、初めて防衛力を行使する」という政策で、日本の平和憲法を象徴する言葉の1つといってもいいだろう。

しかし、軍事の専門家に言わせれば、この専守防衛は、かなり問題の多い政策なのだという。

実は「法律」ではなく「政策」専守防衛の成り立ちとは

最新兵器が使用される最近の戦争では、戦闘開始から30分で大勢が決まるとも言われる。そんな中、「先に攻撃されない限り、こちらからは何もできない」という「専守防衛」のような防衛政策のみでは、有事にたいへんな目に遭う

中学校の教科書にも載っている日本の基本防衛政策「専守防衛」。平成28年度版の防衛白書によれば、「わが国は、日本国憲法のもと、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にはならないとの基本方針に従い、文民統制を確保し、非核三原則を守りつつ、実効性の高い統合的な防衛力を効率的に整備する」とされており、専守防衛に関しては「憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢」と書かれている。

その基本方針は主に3つ。「相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使する」「防衛力行使は自衛のための必要最小限にとどめる」「防衛力の整備(自衛隊の総員や装備品など)も自衛のための必要最小限に限られる」というものだ。

ただし、この専守防衛は憲法などで規定されている法律というわけではない。週刊誌などの見出しの中には、「専守防衛」を誤解しているケースも見受けられるのだが、これは「非核三原則」などと同じく日本国憲法の趣旨に則した「政策」であって、法律とは異なるものである。

現在の専守防衛の方針は、1972年に総理大臣だった田中角栄が「専守防衛ないし専守防御というのは、防衛上の必要からも相手の基地を攻撃することなく、もっぱらわが国土及びその周辺において防衛を行なうということでございまして、これはわが国防衛の基本的な方針であり、この考え方を変えるということは全くありません」と答えた国会答弁がベースとなっている。以降、現在の安倍内閣に至るまで、この解釈が基本概念として用いられてきた。

戦闘開始から30分で勝敗が決まる専守防衛では負け戦必至

しかし近年、「専守防衛」をめぐっては、さまざまな議論が起きている。挑発的なロケット発射実験を繰り返す北朝鮮や、中国国籍の船舶による度重なる領海侵犯、竹島をめぐる韓国との領土問題などが報じられるたびに、その“限界”が指摘されてきた。

「専守防衛のような防衛政策を採っている国は世界中を見渡しても日本以外にありません。それも当然で、先に攻撃されない限り手を出せないのだから、最近の中国による尖閣諸島周辺の領海、領空侵犯行為のようにやられ放題になってしまう。もちろん国際法上、領海侵犯した漁船に武力を行使することは認められているし、現にパラオやアルゼンチンは中国の違法漁船を撃墜しています。しかし、現実にはそのような手段を取れない日本が中国に尖閣諸島を奪われるのは時間の問題かもしれません」

こう語るのは、防衛問題の専門家で警鐘作家の濱野成秋氏だ。

「昨年は安保関連法案が施行されたことで、左翼メディアが大きな声を上げましたが、本質的な問題は専守防衛では日本を守ることは不可能だという点にあるんです。最新兵器が使用される最近の戦争では、戦闘開始から30分もあれば大勢は決着してしまいます。平和時には耳障りのいい専守防衛ですが、防衛出動一つさえ国会審議を経なければならない日本では、ひとたび攻撃を受けた時点で、ほぼ“負け戦”の結果にしかならないんです」(同前)

専守防衛の看板は、今のところ“弱腰日本”の看板でしかなく、他国から舐められてしまう結果になっているという。では、専守防衛を維持しながら、防衛に実効力を持たせる方法はあるのだろうか。

日本を守るには報復攻撃の条項の付記を

「私は専守防衛なる言葉を残存させたうえで、『報復攻撃』のあり方について、付記として、きっちり明文化する案を提唱したい。専守防衛は平和憲法の精神に合致するから国民合意ができているし、自衛隊のPKO派遣もやりやすい。

侵攻とは考えられないから、国民も納得し、反戦デモも生じない。しかし、今の専守防衛だけでは、有事には自滅する危険性がある。だから報復攻撃の条項を付け、そのうえで報復攻撃を含めた日米安保条約の徹底的改正をすべきでしょう」

実際、北朝鮮をはじめとする近隣諸国の動きに対し、専守防衛の解釈を拡大する議論が活発化しており、2006年には当時の麻生太郎外相をはじめとした閣僚が「(ミサイルが)日本に向けられる場合、被害を受けるまで何もしないわけにはいかない」として「先制攻撃論」を提唱。読売新聞がこれを支持する社説を掲載したこともあった。

さらに昨年7月には「積極的平和主義」を掲げる安倍政権が、臨時閣議によって従来の憲法解釈を変更し、限定的に集団的自衛権の行使を容認することを決定。今後は、自衛隊法や武力攻撃事態法などの改正が進められる可能性も高まっている。  

そんな状況の中、この4月には米政府が原子力空母を朝鮮半島近海に派遣するなど、北朝鮮に対する強硬姿勢を打ち出している。米国は同盟諸国に対して、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した場合には迎撃する態勢が整ったと通知し、厳戒態勢で備えるよう要請したとも報じられている。

これに対し日本も海上自衛隊のイージス艦3隻を日本海に展開させるなど、国際情勢はキナ臭さを増している。日本の防衛政策は、大きな転換期を迎えているようだ。

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