「緊迫してきたぞ」

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米軍によるシリア攻撃が6日の米中首脳夕食会でトランプ大統領から習近平国家主席に直接伝えられたことは、中国側に衝撃を与えた。北朝鮮攻撃の「警告」であることは明らかだったためだ。

■中国=協力合意したが

仮に事前通告があったのなら、中国は「すでに複雑なシリア情勢を一層悪化させる」として反対を表明したはずだ。しかし、発射ボタンが押された後では、会談決裂を避ける上でも米側の措置を受け入れるほかなかった。

ティラーソン国務長官ら米側は、会談で米中首脳が北朝鮮の核開発に懸念を示し、開発阻止に向けた協力強化で合意したと発表した。ところが、首脳会談を伝えた国営新華社通信などの中国メディアは、北朝鮮核問題に具体的に触れなかった。「米との妥協」が中国国内で反発を招くことを懸念したためとみられる。

米国によるシリア空爆は、今後の北朝鮮への武力行使を暗示する動向として中国世論にも大きな衝撃を与えた。

中国のインターネット上では7日午後から「中国人民解放軍瀋陽戦区の医療・後方支援部隊が国境の鴨緑江付近に向かった」との情報が拡散している。瀋陽市内とみられる町中を軍の車列が移動する映像も出回ったが、当局は関連の情報を削除している。「北朝鮮からの難民流出に備えるための演習だ」と指摘する声がある。

「北朝鮮への『斬首』作戦は一触即発の状態を招く」。

ネット上では緊迫化する朝鮮半島情勢への懸念が広がり、「北朝鮮が攻撃されれば中国は支援する義務がある」などと米国に反発する声が多く寄せられている。

中朝国境の丹東市の鴨緑江にかかる「中朝友誼橋」。地元の関係者が産経新聞に証言したところによれば、以前は1日400台以上のトラックが北朝鮮に渡ったが、いまは半分ほどに激減。7日、橋周辺には警察の特殊部隊の装甲車が警戒し緊張感が漂う。

■北朝鮮=「発射待機状態」

米トランプ政権内で持ち上がる対北先制攻撃論に、中国よりも過敏に反応したのは、北朝鮮である。

「いま一度警告しておく。わが軍の攻撃手段は米本土まで射程に収め、常時、発射待機状態にある」

北朝鮮が日本海に弾道ミサイルを発射した5日、朝鮮労働党機関紙、労働新聞は論評でこう警告した。実施中の米韓合同演習の目的が「北の首脳部除去」や核・ミサイル施設への先制攻撃にあるとも非難した。

北朝鮮外務省が3月末に平壌駐在の各国外交官を集めた異例の説明会でも、米韓演習は対北「先制攻撃」が目的だと批判した。

特に北朝鮮が問題視するのが米特殊部隊を韓国に引き入れ、演習で展開する「最高尊厳を狙った特殊作戦」だ。今回の演習で2011年に国際テロ組織、アルカーイダの指導者だったビンラーディン容疑者を殺害した米海軍特殊部隊が投入され、有事に金正恩党委員長を含む北指導部を排除する訓練も実施していると韓国メディアが報じたことへの反発のようだ。

北朝鮮メディアは、「死の白鳥」と呼ばれる米B1B戦略爆撃機やF35Bステルス戦闘機の韓国上空の展開について「いつ、何回出撃させた」かを詳細に報じ、米国を牽制(けんせい)している。だが、韓国軍関係者は「事実と異なる」と否定し、逆に探知能力の限界を露呈させた。

■米国=ミサイル施設への先制攻撃

5日、米ニューヨークのマンハッタンで開かれた「2018年の世界ビジネス」と題する銀行家の集まりでは、著名な企業弁護士が「心地が悪いですね」と北朝鮮問題を懸念していた。ウォール街などビジネス界でも最近、北朝鮮問題が「リスク」として認識されている。

一部の投資家の間では、「人民元と連動した通貨を売り、米ドルを買う」という売買がみられ始めたそうだ。「有事」にいたる前段階として、「北朝鮮と関係のある中国企業との金融取引を禁止する制裁が発動されるかもしれない」(米投資家)という読みだ。

マクファーランド米大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)が英紙フィナンシャル・タイムズに「北朝鮮がトランプ政権1期目の終わりまでに核弾頭搭載ミサイルで米国を攻撃できるようになる可能性が高い」と表明したことは、トランプ政権の北朝鮮に対する危機感を表している。

一方、北朝鮮に武力行使する場合、日韓を巻き込んで地域紛争に発展することをさけなければならない。そのため、核・ミサイル施設への限定的な先制攻撃とする公算が大きい。地下深くの核関連施設は破壊が難しく、ミサイル関連施設への攻撃を優先。米艦船からの巡航ミサイル「トマホーク」、戦略爆撃機や戦闘機からの衛星誘導爆弾(JDAM)による精密攻撃が中心になるとみられる。米情報企業ストラトフォーの分析では、米軍は約600発の巡航ミサイル発射が可能で、シリアでの59発とは比較にならない。

■韓=政治空白で危機感

ソウル南郊、米空軍の烏山(オサン)基地で4日、A10攻撃機の前でダウンジャケットの男性が生中継していた。

「ここから非武装地帯(DMZ)まで戦闘機に乗って数分。北朝鮮によるさらなる核実験はいつでも起こり得る状況です」

米3大ネットワークの一つ、NBCの看板キャスター、レスター・ホルト氏だ。トップニュースとして「トランプ政権は対北先制攻撃論も排除しないとしている」とも伝えられた。

米メディアが大物キャスターを投入した事実を韓国各紙が衝撃をもって報じた。米国と北朝鮮が対峙(たいじ)する最前線に置かれている現実を突き付けられたからだ。韓国はいま“大統領不在”という政治的に不安定な時期にある。朝鮮日報は社説で「国の運命を左右しかねない重大問題がひそかに検討される中、当事者のわれわれが状況を知り得ないとすれば、異常事態と言わざるを得ない」と警鐘を鳴らした。

■日=在韓邦人退避計画

米側から攻撃を受けた北朝鮮が韓国への報復攻撃をすれば、6万人近くに上る在韓邦人の保護が課題となる。日本政府は独自の退避計画を作成するとともに、米軍の協力を得て邦人の安全確保を図る。

「邦人退避の問題は以前から取り組んでいる。『とりあえずは大丈夫だ』というのが答えだ」

政府高官は7日夜、産経新聞の取材に対しこう語った。政府は1993年の北朝鮮核危機を受け、94年までに関係省庁が検討を重ね、朝鮮半島有事の際の邦人退避計画を作成し、その後も更新を重ねている。

在韓邦人の民間定期便での退避が困難であれば、自衛隊の航空機や艦船とともに、政府チャーター機・船舶を活用する。

海上自衛隊関係者は「韓国に近い対馬(長崎県)に輸送艦『おおすみ』を待機させ、ヘリコプターでピストン輸送することはあり得る」と語る。ただ、日本単独での退避支援には限界がある。米軍に依存しなければならないケースが想定され、昨年3月に施行された安全保障関連法により米軍との連携強化を図る。

朝鮮半島情勢が「重要影響事態」と認定されれば、自衛隊は米軍への後方支援を行える。

日本政府関係者によると、米第3海兵遠征軍司令部(沖縄県うるま市)では、韓国国内の米国人の人数が毎朝報告され、退避方法を確認するという。しかし「日本ではそこまで詰めた準備はしていない」(自衛隊関係者)のが実情だ

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