「中国スタイル」

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中国のカンファレンスでは誰も名刺交換をしない

ユーザ数11億2000万人、中国におけるスマートフォン利用者の90%がインストールしている、巨大SNSであるWeChat(ウィーチャット)。中国版のLINEのようなものだが、電子マネーとしての側面も注目されており、年間600兆円にものぼるという中国における電子決済を進め、キャッシュレス化を加速させている。日本でもマツモトキヨシなど多くの企業で導入され、いわゆる中国人の日本での爆買いを支えている。

名刺を交換せず、出会う人とはスマホアプリで名刺情報を交換する。今、中国人ビジネスマンに急速に広がっている名刺レス化の背景には、意外なお国事情があるようだ

日中両国でビジネスを展開し、現在は、日本の経営コンサルティング会社に所属するコンサルタントである私の目から見ると、このWeChat、実は別な側面で、グローバルビジネス習慣を劇的に変える、とてつもない破壊力を持っていると思える。

3月9日、上海市で開催された、カンファレンス「新商業進化論」に参加した。参加者は中国各地域から集まった経営者240人。

2年ぶりに中国へ出張する私は、名刺を300枚持参して、参加者と交流するつもりだった。

しかし、驚いたことに、名刺は1枚も使用しなかったのだ。参加者との交流を怠ったわけではない。むしろ、100人以上と交流している。

私は参加者に名刺を差し出そうとしたのだが、相手は名刺を出さない。その代わりに、スマートフォンを差し出す。一瞬、とまどった私の表情を見て、相手は、WeChatで名刺交換しましょうと言う。

スマホでの名刺情報交換が恐ろしく便利な理由

すぐに合点がいって、私もWeChatで交信をするために、スマホを取り出し、相手のスマホに近づける。一瞬の後には、お互いの名刺情報のバーコードを、お互いのスマホが読み取って、電子情報として収録される。

電話番号も、メールアドレスも、自動でリスト化される。直後から、電話帳にも掲載され検索できるようになるし、メールリストにも掲載されメーラーを立ち上げることもできるのだ。

はたと周囲を見回すと、誰も名刺交換をしていない。その代わり、笑顔で挨拶し合ったり、握手をし合ったりした後に、スマートフォンを突き合わせる光景があちこちで見られる。紙の名刺を1枚も持ってきていなかった、中国著名企業の経営者もいた。

それは、中国中央テレビコメンテーターも務め、日中の最新ビジネス事情には誰よりも明るいと自負している私にでさえ、異様とも思える光景だった。同時に、これがWeChat、つまりSNSが持つ、とてつもない破壊力であると震える思いがした。

日本では、新卒社員が入社する時期だ。企業では新入社員研修が実施され、ビジネスマナー研修ではまず、名刺交換の仕方の演習を行うだろう。しかし、それが不要になる日が来るということだ。その代わり、スマートフォンの突き合わせ方のマナー研修が行われるかもしれない。

日本では、紙の名刺情報を電子データ化するツールも普及し始めている。しかし、そもそも紙の名刺がなくなれば、名刺情報を電子データ化する必要もない。直接、電子データを交換すればよいだけなのだ。

印刷技術の後れが、SNS名刺情報交換を生み出した

そもそも中国においては、印刷技術の発展は、日本や他国に比べて後れている。印刷精度が高いとはいえないのだ。日本のような安価な価格で、コピーサービスを提供できる業者はいない。特にカラー印刷技術は後れており、中国ではいまだにコンビニではカラー印刷ができない。

しかし、中国は、これを逆手にとった。不得意な分野を攻略するというステップを飛ばしたのだ。

日本をはじめ他国においては、(1)印刷技術の発展、(2)紙の名刺の普及、(3)紙の名刺情報のデータ化、(4)名刺データ活用ーーという4つの段階を経てビジネス革新をしてきた。これを中国は、SNSの開発、名刺データ活用の2つのステップに短縮し、ビジネス革新をしてしまったのだ。私は、これを「二段飛びによるビジネス革新」と呼んでいる。

WeChatの破壊力は、それに留まらない。名刺情報を交換した者同士でグループを作れば、相互に情報をすぐに共有できる。ビジネスパーソン同士の情報共有のレベルは飛躍的に高まる。

電子マネー機能もあるから、お互いの商品、サービス、著書や開催セミナー参加などに費用を支払うことが格段に容易になる。ビジネスが加速することは間違いない。

また、メールの文面だけでなく、画像や動画、音楽なども同時配信することができる。これによって、コミュニケーションレベルも飛躍的に高まるだろう。

日本のビジネスパーソンの優れた点はたくさんあるが、コミュニケーションという点では、他国のビジネスパーソンに比べて優れているとは言えない。しかし、WeChatを日本人も活用すれば、その高い利便性が、日本人ビジネスパーソンのコミュニケーションレベルを大きく向上してくれるのではないだろうか。

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