「人類史上最悪のバブル」

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北朝鮮が国家ぐるみで関わった金正男(キム・ジョンナム)暗殺事件は、いまだ世界の大きな関心を集めている。

そこで注目されているのが、中国の出方である。北朝鮮の核実験による国連安全保障理事会の制裁強化をうけて、中国は北朝鮮からの石炭輸入を年内一杯禁止する処分を行った。これに対して北朝鮮は反発している。北朝鮮への各国の経済制裁が本当に実効性を持つならば、同国の経済失速はさらに鮮明になるだろう。他方で、東アジアの経済や安全保障のリスクを考える上で、中国経済の動向も大きな関心事であることは疑いない。

中国経済は潜在的なリスクを抱えたまま、現時点では「安定」した状態にある。2016年の実質経済成長率も、6%台と国家目標の範囲内に落ちついた。もちろんGDP統計の真偽をめぐる議論は今も識者の間で沸騰中だ。ただ経済成長率が高いか低いか、その正確な数値は度外視しても、中国経済が短期的なリスクに直面していることは明白である。そのリスク自体、短期的には中国政府の財政と金融双方の政策スタンスに大きく関わっている。

2014年夏に筆者は人民日報の国際版である『環球時報』に、中国の「バブル」についての“楽観的”な見通しを書いた。バブルの破裂、つまり不動産価格の急激な破たんからの経済の大失速は当面にないだろう、という見立てである。この“楽観的”な見通しがうけたのか、中国当局の意見を代理する人民日報の国際版にかなり大きく採用された。

その後、AIIBへの参加についても寄稿するように要請があったが、日本は参加すべきではない、という原稿を書いた。ただしこれは中国の国策に背いたようで(笑)、現時点でその原稿がどうなったのか、一切音沙汰がなくなっている。筆者としてはとんだムダ働きであった。だが、かの国の報道姿勢の一端を知ったのはいい経験である。閑話休題。

ところでその論説ではバブル破裂を回避するためには、積極的な経済政策を行うべきだと指摘した。特に金融緩和政策を行うべきだというのが趣旨であった。そして財政政策(公的部門主導の不動産投資の過熱)はその中身こそが、中国のバブルを生み出しているので、抑制していくべきだ、という主張だった。日本の経験からいえば、90年代初めのバブル崩壊とその後の経済失速は、金融の超緊縮とその後の維持に原因があったことを教訓としている。

だが、中国の経済政策は筆者の親身な(?)アドバイスとは真逆の方向に傾斜していった。

一つは財政政策の拡大である。これについては中国当局が、エコカー減税(自動車取得税を10%から5%へ引き下げ。現行は今年度末まで“減税”延長、税率は7%に)、公共事業の増加で対応した。これらは日本でも、リーマンショック後の対応策として政府がとったものと同じである。エコカー減税も規模は縮小しているが継続中であり、また公共事業も継続中である。問題はこの公共事業の中身である。

「人類史上未曾有の土地バブル」

北朝鮮が国家ぐるみで関わった金正男(キム・ジョンナム)暗殺事件は、いまだ世界の大きな関心を集めている。そこで注目されているのが、中国の出方である。北朝鮮の核実験による国連安全保障理事会の制裁強化をうけて、中国は北朝鮮からの石炭輸入を年内一杯禁止する処分を行った。これに対して北朝鮮は反発している。北朝鮮への各国の経済制裁が本当に実効性を持つならば、同国の経済失速はさらに鮮明になるだろう。他方で、東アジアの経済や安全保障のリスクを考える上で、中国経済の動向も大きな関心事であることは疑いない。

中国経済は潜在的なリスクを抱えたまま、現時点では「安定」した状態にある。2016年の実質経済成長率も、6%台と国家目標の範囲内に落ちついた。もちろんGDP統計の真偽をめぐる議論は今も識者の間で沸騰中だ。ただ経済成長率が高いか低いか、その正確な数値は度外視しても、中国経済が短期的なリスクに直面していることは明白である。そのリスク自体、短期的には中国政府の財政と金融双方の政策スタンスに大きく関わっている。

2014年夏に筆者は人民日報の国際版である『環球時報』に、中国の「バブル」についての“楽観的”な見通しを書いた。バブルの破裂、つまり不動産価格の急激な破たんからの経済の大失速は当面にないだろう、という見立てである。この“楽観的”な見通しがうけたのか、中国当局の意見を代理する人民日報の国際版にかなり大きく採用された。

その後、AIIBへの参加についても寄稿するように要請があったが、日本は参加すべきではない、という原稿を書いた。ただしこれは中国の国策に背いたようで(笑)、現時点でその原稿がどうなったのか、一切音沙汰がなくなっている。筆者としてはとんだムダ働きであった。だが、かの国の報道姿勢の一端を知ったのはいい経験である。閑話休題。

ところでその論説ではバブル破裂を回避するためには、積極的な経済政策を行うべきだと指摘した。特に金融緩和政策を行うべきだというのが趣旨であった。そして財政政策(公的部門主導の不動産投資の過熱)はその中身こそが、中国のバブルを生み出しているので、抑制していくべきだ、という主張だった。日本の経験からいえば、90年代初めのバブル崩壊とその後の経済失速は、金融の超緊縮とその後の維持に原因があったことを教訓としている。

だが、中国の経済政策は筆者の親身な(?)アドバイスとは真逆の方向に傾斜していった。

一つは財政政策の拡大である。これについては中国当局が、エコカー減税(自動車取得税を10%から5%へ引き下げ。現行は今年度末まで“減税”延長、税率は7%に)、公共事業の増加で対応した。これらは日本でも、リーマンショック後の対応策として政府がとったものと同じである。エコカー減税も規模は縮小しているが継続中であり、また公共事業も継続中である。問題はこの公共事業の中身である。

「人類史上未曾有の土地バブル」

中国が保有する外貨準備はドル(米国債)が中心である。したがってドルを売って人民元を買う。そうすると必然的に外貨準備残高は減少する。実際に中国の外貨準備は3兆ドルを割り込み減少傾向は緩むことはない。他方で元安圧力は依然として継続している。外貨準備残高の減少は、これは短期金利の上昇圧力にもなっている。政策金利こそ据え置きの構えだが、市場での短期金利への圧力は高い。

消費や投資にかかわる中期から長期金利は、短期金利によって決まるので、この上昇圧力は民間消費と民間投資を低迷させる要因になる。この民間需要の不足分を埋めるために、先ほどのバブル誘発型の公共事業に依存しているのがいまの中国経済のありようである。バブルを維持するためにバブルを生み出し続けることが国家的必然なのだ。このバブルは逃げ切ることができるのか。つまりソフトランディングが可能なのだろうか。

筆者はこの点についてきわめて懐疑的である。いまの中国経済はざっくりいえば、過去のソ連経済と似ている。ソ連経済は消費を抑制した、投資中心の経済であった。しかし投資の中身といえば軍事支出という「非効率な公共事業」であった。アフガニスタン戦争や核開発競争の過熱化、旧ソ連の軍産複合体の権益などで、この非効率的な軍事支出によってソ連経済の経済成長は抑制されていたのである。

中国も軍拡に傾斜しているが、それに加えてバブル維持のためのムダな公共事業を拡大している。中国の消費はそのため抑制されている。このような歪んだ経済構造は、旧ソ連の場合では維持が不可能であった。中国はどうだろうか。成長が抑制されることで、やがて「中所得国の罠」に陥るのではないか。いや、もう陥っているのではないか。バブルのつけは、やがて中国版「失われた20年」につながるかもしれない。

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