「豊洲・地下水」

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豊洲移転中止は絶対あり得ない!地下水「基準」問題の真相

重要な石原氏「地下水発言」「基準」こそ混迷の要因だ

3月20日、都の百条委員会に石原慎太郎氏が出席した。豊洲への移転を決めた責任を認める一方、当時の都庁幹部が重要局面では知事の了解を得ていたと証言していることについては「担当者に一任し、記憶にない」とした。

ただ、豊洲移転は、青島都政からの引き継ぎであったことを明らかにした。また、地下水に厳しい基準を課したことは認めたが、小池都知事にはその基準にとらわれずに豊洲への移転を決断してほしいとも述べた。

マスコミは「新しい事実が出なかった」と、石原発言を非難するが、筆者は、この石原氏による地下水発言こそ重要だと思う。これまでマスコミは、地下水から「基準」以上の有害物質が検出されたという記事を報道してきた。この「基準」こそ、豊洲問題の混迷の主たる要因だからだ。

そのカギは以下のとおりだ。これまで、東京都の専門家会議の主張は明確であり、豊洲の地下水から環境基準を超える物質が検出されたが、安全性に問題はないという。

ただし、一般の人はこれに困惑する。「基準」以上なのになぜ問題にならないのか。その理由は明白だ。

混迷の要因は地下水の基準報道はあくまでも「環境基準」

それは、マスコミが報道している「基準」とは、あくまでも「環境基準」であって、「安全基準」ではないのだ。
環境基準は、環境基本法で定められた、人の健康の保護及び生活環境の保全のうえで維持されることが望ましい基準である。

地下水を飲まないのなら大きな問題ではない

具体的に地下水の環境基準は、そのまま飲めるほどきれいなものである。もちろん、それが望ましいのはいうまでもない。環境基準はあまりにハードルが高いので、実際にはそれを満たしていない所は都内では多い。

筆者は東京の山手出身であるが、筆者の周りでも50年程前までは井戸水が飲めた。ところが、有害物質が指摘されはじめ、都より井戸水から水道水に変更するように指導された。今では、23区内で井戸水を使うのは珍しくなっており、湾岸地区で井戸水を使うところはないだろう。

具体的に、東京の地下がどうなっているのかの一端は、東京都のホームページに出ている。そこには、状況調査の結果、土壌の汚染状態が指定基準に適合しない土地については、要措置区域または形質変更時要届出区域として指定された結果が出ている。都内の至るところで指定されている。その中には、築地も豊洲もあるが、そこでの環境基準は満たしていないだろう。

地下水を飲まないのなら環境基準は大きな問題ではない

筆者は、この表をラジオ番組で紹介したが、一緒に出ていたアナウンサーの自宅の近くにも環境基準に適合しない汚染場所があったと驚いていた。筆者の自宅近くで開発された場所も載っており、多くの人が、身近の場所が指定されていると思う。いうまでもないが、通常は何もしなくてもいいが、問題があっても適切な対策をすれば、安全基準を満たしその地上では安全に生活もできる。

環境基本法の環境基準を超えたらすべてダメかというと必ずしもそうではなく、土壌汚染対策法が最終的なよりどころとなる。

土壌汚染対策法では、有害物質について「地下水摂取リスク」と「直接摂取リスク」を管理するとされている。たとえば、ベンゼンでは地下水摂取リスク基準は環境基準と同じ数値であるが、直接摂取リスク基準は定められていない。

また、シアンの地下水摂取リスク基準は環境基準と同じ「不検出」であるが、直接摂取リスク基準では一定量は許容されている。ヒ素の地下水摂取リスク基準は環境基準と同じ数値であるが、やはり直接摂取リスク基準では一定量は許容範囲だ。

要するに、土壌汚染対策法では、地下水を飲まなければ、環境基準をクリアしなくてもいいわけだ。さらに、直接摂取リスク基準は、土壌汚染が存在すること自体ではなく、土壌に含まれる有害な物質が人体の中に入ってしまう経路(摂取経路)が存在していることを問題とするので、この経路を遮断するような対策を取れば問題ないとなる。この対策のキモは、コンクリート等により物理的に遮断すること、つまり封じ込めである。幸いなことに、豊洲市場には十分な地下空間(地下ピット)が存在する。そこで厚いコンクリート工事を実施して建物内の安全を確保するのが最善手であろう。

このため、専門家が「環境基準を満たさなくても、安全基準を満たせば安全性に問題ない」と言うわけだ。

事実、小池都知事も、おそらく地下で環境基準を満たしていないところもあると想定される築地市場においても「コンクリートで遮蔽しているので安全」と言っている。豊洲でも同じロジックにより、安全といえるだろう。

科学的見地で「安全」ならば「安心」を得るのが政治家の役目

「安全」という観点から見れば、新しい豊洲市場のほうが古い築地市場よりはるかに安全である。例えば、築地市場は開放系になっており、外から物質、生き物が中に容易に入ってくる。このため、ねずみ等も多く不衛生という意見が多い。また、耐震性から見ても、豊洲市場のほうが安全である。

これに対して、小池都知事は、豊洲市場は「安全」であるといいながら、「安心」でないという理由で、豊洲移転にストップをかけている。科学的な見地から「安全」であることが確保されたら、都民から「安心」を得るように努めるのは政治家の役目だろう。また、それはマスコミの責務でもあるだろう。

こうした点から、小池都知事とマスコミは、築地市場と比較しても豊洲市場が「安全」であることを広く都民に知らせるべきである。その上で、「安心」を得られるようにすべきだ。

以上は、「安全」性の観点から見て、豊洲市場が築地市場より優れているということであるが、経済的な観点からも、豊洲市場のほうがいいといえる。

「そもそも論」として、ある事業について、中止するのがいいのか、継続するのがいいのかを意思決定する際、経済学の「サンクコスト」概念が役に立つ。投下した資本のうち、事業の撤退や縮小を行っても回収できない費用のことをサンクコスト(sunk cost=埋没費用)という。それまでにどれだけコストをかけたかを気にしても仕方ない。その後にかけるコストと得られる便益を対比させ、その後のコストが大きければ中止、便益が大きければ継続となる。

サンクコストは膨らむ一方豊洲移転中止はあり得ない

サンクコストを築地移転に適用してみよう。都議会に提出された資料によれば、豊洲市場の整備費(コスト)は、3926億円(2011年2月)、4500億円(2013年1月)、5884億円(2015年3月)と、時を追うごとに膨らんでいる。その内訳を見ると、建設費は990億円→1532億円→2752億円、土壌汚染対策費は586億円→672億円→849億円である。

もっとも、今の時点で豊洲市場はほぼ完成しているので、これ以上、コストをかける必要はない。その便益は、一定の安全基準を満たせば、少なくとも4000億円以上、普通は6000億円以上であろう。有害物質の出たとしても、コンクリートで遮蔽するなどにより、安全面で問題なくすることは今の技術で可能である。安全対策費用で6000億円を超えない限りは、サンクコスト論から、豊洲を利用するという結論である。

ということは、今の段階で豊洲移転中止はあり得ないわけだ。これはわざわざサンクコスト論を使わなくても、今の豊洲市場に安全対策を施して使わないのはもったいないという常識でもわかる話だ。

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