「謝罪」

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「韓国社会では謝罪してはならない」朴槿恵大統領が受けた忠告は本当だった?

「韓国社会では謝罪してはならない」。韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領(65)は、友人の崔順実(チェ・スンシル)被告(60)の国政介入疑惑について謝罪する前、周囲からこう忠告されたことをインターネット番組で明かした。

忠告は杞憂(きゆう)に終わらず、謝罪を合図に疑惑の追及が拡大。自身は弾劾訴追で大統領権限を停止され、国政はまひ状態に陥った。同時に、慰安婦問題をめぐる日韓合意を覆そうとする動きが勢いづくなど、外国との約束や法をないがしろにする風潮も広がった。韓国は本当に謝罪してはならない社会なのか。

朴氏は1月下旬、韓国経済紙の主筆が運営する保守系ネット番組のインタビューに応じ、「謝罪してはならない」との忠告があったものの、演説草稿の作成で、崔被告の手助けを受けた部分についてだけ謝罪するつもりだったと振り返った。

だが、昨年10月25日の国民向け謝罪をきっかけに堰(せき)を切ったようにメディアが次々疑惑を報じていった。特に2014年の旅客船セウォル号事故当日、動静がはっきりしない「空白の7時間」問題が蒸し返され、事故当日、「祈祷(きとう)をしていた」「美容施術を受けていた」といった噂が拡散した。

朴氏へのバッシングは、水に落ちた犬を打つがごとく様相を呈した。

朴氏は「一度、風が作られれば、『それは違う』といくら話しても役に立たない。既に組まれたフレームの外の話は受け入れられない風潮がある」と語った。

朴氏と崔被告に関しては、どんな疑惑も真に受ける空気が広がり、朴氏が「向精神性薬を注射していた」といった噂も浮上。最近は、裸婦の絵に朴氏の顔をはめ込んだ風刺画を野党議員が国会に展示し、物議を醸した。沈むセウォル号を背景に、裸で横たわる朴氏のそばに注射器の花束を抱えた崔被告が立つ構図だ。

朴氏は、インタビューで「どんなにひどくとも、越えてはならない限度がある」と憤りを示した。

裁判官、憲法裁、米大使館…広がる標的

崔被告の国政介入事件を発端に非難が向かった先は、朴氏や崔被告一家だけにとどまらなかった。

韓国最大の財閥、サムスングループの経営トップ、李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長(48)に対する特別検察官からの崔被告側への贈賄容疑などでの逮捕状請求をソウル中央地裁が棄却したことで、担当した裁判官に対する個人攻撃がエスカレートした。

李氏には、出国禁止措置が取られているうえ、サムスン社屋にも複数回、家宅捜索が行われており、逃走や新たな証拠隠滅の恐れは低く、請求棄却は妥当な判断とみられた。

それでも、裁判官は「学生時代、サムスンの奨学金を受けた」「息子はサムスンへの就職が確約された」といった根も葉もないデマもネットで拡散。これには、さすがの地裁も「判事の名誉を傷付け、裁判の独立性を毀損(きそん)する恐れがある」と憂慮を表明した。

朴氏の罷免の可否を審理する憲法裁判所周辺では、弾劾推進派、反対派双方のデモが毎週のように繰り広げられた。最高司法機関に対するデモとは、他の国ではあまり見慣れない光景だ。

朴氏の退陣を求めるデモでも、サムスンの建物前で李氏役の人物を引き回すパフォーマンスが演じられ、参加者らは「李在鎔を逮捕せよ」などと叫んだ。

デモの最中には、米軍の迎撃システム「高高度防衛ミサイル」の韓国配備に反対し、米大使館の壁にレーザー光線で「NO THAAD」という文字が照射されたこともあったという。

外国公館の「威厳の侵害」に当たり、ウィーン条約に反する行為だ。

THAAD配備を含め、朴氏が決めた政策を「全否定」する風潮が強まるなか、大統領の「犯罪」に抗議するはずの人々による法の尊重をないがしろにした行為が歯止めなく繰り返されている。

韓国メディアにしても、デモこそが「民心」だと持ち上げ、朴氏の疑惑を拡散してきた当事者だけに、逸脱した行為をたしなめる論調は振るわない。

大統領選最有力候補までが法を度外視

釜山の日本総領事館前に昨年末、新たに慰安婦像が設置されたのも、崔被告の事件の余波といえた。

慰安婦問題をめぐる日韓合意の趣旨に明らかに反する行為にもかかわらず、朴氏の弾劾以降、「朴氏が一方的に決めたものだ」と日韓合意への風当たりが強まるなか、韓国政府は、すっかり腰が引け、対応を地元自治体に丸投げした。自治体は、公道上に無許可に設置したとして一時は撤去したものの、結局は抗議の嵐に屈した。

一時撤去した際には、最大野党「共に民主党」前代表で、次期大統領選の有力候補として支持率トップに立つ文在寅(ムン・ジェイン)氏(64)が、撤去を「親日行為だ」と痛烈に非難した。

総領事館前の像設置は「THAAD」文字の照射同様、ウィーン条約に反するばかりでなく、そもそも国内法にも違反している。弁護士出身で、大統領を目指そうとする政治家が、政治的イデオロギーのために平気で法律を度外視した主張を行う。これが韓国政界の現実だ。

そして、野党や世論は「日本政府の心からの謝罪がない」「被害者が納得していない」と慰安婦問題についての再協議を要求する。存命の元慰安婦の7割以上が日韓合意に基づく支援金を受け取る意思を示しているにもかかわらずだ。

ここでいう「謝罪」は、政治的主張をねじ込みたい側に都合よく解釈されている。

国政介入事件での朴氏の謝罪にしろ、日本政府の謝罪にしろ、結局は受けとめる側の政治的「正義」が満たされるまで永遠、批判や根拠が伴わないない中傷が続くことになる。逆に足をすくわれたり、攻撃する口実に利用されたりしている側面も否めない。

政治的イデオロギーを前に法が軽んじられ、謝罪し、それを受け入れるということが容易でない社会だとすれば、あまりに切ない。

産経

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