「日本にお金を送れない」

中国は去年の経済成長率が26年ぶりの低い水準にとどまり、経済の減速が鮮明になっています。

こうした中で、通貨・人民元を外貨に換えて資金を海外に移す動きが加速していて、この結果ドルに対する元安の勢いが強まっています。中国経済の新たなリスクになっている資金流出について。

消えた36兆円
「36兆円」。中国の外貨準備高が去年1年に減少した額です。外貨準備高は各国が為替介入や外貨建ての借金返済に備えて保有する資産のことで、中国は世界一の規模を誇っています。

ただ、このところ急速に残高を減らしています。ピーク時(2014年6月末時点)に日本円で451兆円あった外貨準備高は、おととし末には376兆円となり、さらに去年末には340兆円にまで減りました。わずか2年半の間に4分の1を失ったことになります。(※1ドル=113円で計算)値下がりが止まらない人民元

中国の外貨準備高が減っているのは、人民元の値下がりが続いているからです。元のドルに対する為替レートは去年12月には8年7か月ぶりの安値水準となり、去年1年間だけでおよそ7%下落しました。

日本では、円安になれば輸出がさかんになり景気がよくなると言われています。しかし、中国政府が警戒するのはむしろ、元安が続くことで輸入品の物価が高騰し、庶民の暮らしを圧迫しかねないという点です。

このため、急速な元安を食い止めようと市場でドルを売って元を買う介入を続け、外貨準備高の大幅な減少を招いたのです。

人民元が“爆買い”に向かうのは・・・

では、なぜ元の値下がりが止まらないのでしょうか。
背景には、中国経済の先行き不透明感とアメリカの景気回復への期待感から、企業や個人がこぞって人民元を外貨に両替し、資金が海外に流出しているという事情があります。

その流出先の1つになっているのが、香港です。香港では人民元が値下がりに転じたおととし以降、中国本土の企業がこぞって不動産を買っています。

個人の間でブームになっているのは、ドル建ての保険商品の購入です。
元本が保証されることから、人民元の値下がりリスクが避けられると考えた人たちが先を争うように買い求め、去年、中国本土の人たちが支払った保険料の総額は、9月までだけで7200億円にも上りました。

上に政策あれば、下に対策あり

この事態に中国政府が手をこまねいていたわけではありません。
去年2月、中国本土の人が海外での買い物に使う「銀聯カード」で保険商品を購入する場合の支払いを、およそ57万円とする制限を厳格に適用することを決めました。

ところが、1回の支払いに上限があっても回数は制限されていなかったため、中国本土の人たちは、何度も支払いを繰り返す方法で、高額な保険商品を買い続けました。

すると中国政府は去年10月、カードを使った投資向けの保険の購入を一切禁止しました。保険の販売代理店によりますと、それでも本土の人たちは、家族や親族の複数の口座に分けて香港に送金したり違法な地下銀行を利用したりして、現金で保険の購入を続けているということです。

「上に政策あれば、下に対策あり」

中国には、政府が何か政策を実施しようとすれば、国民はその抜け道を考え出すものだという有名な言葉がありますが、まさにこの言葉のとおり、人民元の流出を食い止めたい政府と資産を守りたい個人の攻防が続いています。

資金流出に待った!規制強化する中国政府

ことしに入って中国政府は、元安につながる国境を越えた資金移動の規制と監視を一段と強化しています。例えば、個人が人民元を外貨に両替する場合、使用目的などを細かく申告することが義務づけられ、海外で不動産や有価証券、保険商品を買うための両替を原則禁止としました。

インターネット上の仮想通貨、ビットコインも標的にしました。ビットコインの取引所を運営する中国の会社に対し、当局の認可を持たずに外国為替の取引を行っていないか調査を始めたのです。

ビットコインは、規制に触れずに海外にまとまった資金を送ることができる手段として中国国内での需要が急速に高まっていたため、「抜け道は許さない」という当局の資金流出対策だとの見方が広がっています。

日本にお金が送れない!?
ただ、資金流出に対する規制や監視の強化で、企業の活動が影響を受ける例も出始めました。

中国で事業を展開する日系企業の間で今、波紋を呼んでいるのが、「中国から海外に送金できる人民元の総額は、海外から中国に送られた金額を超えてはいけない」という当局の指導です。

中国当局は公表していませんが、関係者によりますとこうした指導は、地域によって去年暮れごろから出されているということです。北京にある日系企業の駐在員は「本社への送金枠が足りずに困っている」と話し、実際のビジネスに支障が出ていると明かしています。

「流出は収まった」というけれど・・・

いわば力づくで資金の流出を止めにかかる当局。1月19日の記者会見では、「最近、国境を越える資金の流れが変化し、外資の間では流出より流入が増えてきた」(国家外貨管理局 王春英報道官)と述べ、資金流出の流れに歯止めがかかったと強調しています。

しかし、現場の駐在員や中国経済の専門家からは「資金の自由な出し入れが担保されないビジネス環境では海外からの投資は呼び込めない。資金を逃がしたくなる気持ちが強まるばかりだ」と厳しい見方も出ています。

トランプ政権が人民元相場にも影響か

今後の人民元相場の行方を見る上で注目すべきなのは、アメリカのトランプ大統領の政策です。

アメリカの経済と雇用を重視するトランプ大統領は、選挙期間中から中国を意図的に通貨を安くしている「為替操作国」だと批判しています。このため、批判をかわしたい中国当局は当面、元の買い支えを続けるとの観測が出ています。

ただ、元の値下がりを防ぐために外貨準備高がさらに減ることになると、経済の先行き懸念が高まって、結局は資金流出の流れが加速するというリスクも指摘されています。通貨の信認に対する“内なる圧力”と、アメリカの“外圧”の狭間で、元安の流れがどこまで続くのか、読みにくい相場展開が続きそうです。

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