「変われぬ銀行」

画像の説明 飛ばし復活、使命忘れた銀行 「慈善事業じゃない」手数料優先 担保に固執、欠如する顧客目線

お金は世の中を血液のようにめぐり、その流れを良くする銀行は「心臓」に例えられる。しかし、先進国では人口が伸び悩み、銀行の存在意義が厳しく問われている。成長性のある企業を見抜く「目利き力」は低下し、お金の貸出先が見つからない。

コーポレート・ガバナンス(企業統治)の崩壊はとどまらず、国内外の巨大銀行では不正が続く。「変わらない銀行」の今を追う。

「飛ばしが復活した」
11月下旬、強い寒気が流れ込んだ東京都内で取材に応じた、ある大手銀行員はこう明かした。

飛ばしとは、決算対策のために評価損を抱える株式や債券を一時的に第三者に転売すること。かつては証券会社を中心に多くの上場企業が手を染めていたが、平成3年に粉飾決算の一つとして金融商品取引法で禁じられた。

それから四半世紀。借金で首の回らない中小企業の再生を主力取引銀行が「官公庁お墨付きの組織」(金融関係者)に丸投げする手法が、一部のバンカーの間で密かに「飛ばし」と呼ばれるようになり、それが横行し始めたという。

丸投げ先は、中小の再生を後押しするため都道府県に設置された「中小企業再生支援協議会」。協議会の再建計画に基づく債権放棄であれば、発生する損失を課税所得から差し引く「無税償却」が可能になる。

金融機関は債権放棄に応じやすくなる上、面倒な再建計画の策定も免れる。銀行版「飛ばし」は公に認められた制度のため、金融庁も黙認せざるを得ないが、銀行が自ら中小企業を再生しようとしない姿には眉をひそめる。

中・四国地方に本社を置く従業員100人弱の中小製造業がこのほど民事再生法を申請した。

かつては利益を確保し、主力行である地方銀行の提案で中国進出も果たした。事業を拡大し売り上げを伸ばそうともくろんだが、その後の業績低迷で資金繰りが悪化。中国工場建設の過大な出資もかさみ、債務超過に陥った。

「自己責任の部分もあるのですが…」。担当者は言葉を濁しつつ、安易に銀行の提案に乗った悔しさもにじませた。

大手銀行の融資担当者は、この地銀が中国進出を持ちかけたのは「成長支援とは別の目的もあったのでは」といぶかる。

長引く低金利で利ざや(貸出金利と預金金利の差)の縮小が深刻化する中、融資に力を入れても銀行のもうけはごくわずかしかない。このため、本業の貸し出しよりうまみの大きい手数料ビジネスに注力しがちだ。

たとえば、この中小企業の場合、本社と中国工場の間で円と人民元をやりとりしなければならない。相場変動に伴う損失を小さくするには、将来いくらで決済するかを決めておく「為替予約」が不可欠だ。銀行は取引先企業の為替予約業務を引き受け、手数料をもらう。

前出の融資担当者は「銀行には、取引先企業から5年かから10年分の手数料が一気に入る仕組み。もうかる商売だ」と解説。この地銀の真の目的は為替予約の手数料ビジネス拡大だったのはないか、とみている。

「保険会社や証券会社から手数料が入る生命保険、投資信託を売ってこい」

九州の有力地銀でも、上司からこんな指令が飛ぶようになった。取引先企業が苦しいときこそ親身になって支えるのがバンカーの崇高な使命のはずだが、この地銀の担当者はこう言い放つ。

「手間ひまを考えれば非効率。銀行は慈善事業じゃない」

「自分のネイルサロンが持ちたいの」。その夢をかなえるため、ホステスは愛人である中小企業社長の悪事に加担までしていたが、1人の銀行員がネイルサロンの立地まで深く考える彼女の「経営者」としての資質を見抜く。

改心するならば開業資金を融資すると口説き、ホステスは愛人とたもとを分かつ。

平成25年に大ヒットした人気テレビドラマ「半沢直樹」の1シーンだ。ここで描かれたのは銀行員の「目利き力」だろう。

目利き力を生かして創業を後押しし、長期的な視点に立って企業や地域の成長を支える-。今、金融庁が銀行に求めているのもそんな姿だ。

「地方銀行でも(顧客の経営課題解決など)ソリューション営業に力を入れている銀行がある。かつて経営が悪かったり、恵まれなかったりした銀行が、企業や地域をよくしようと真剣に取り組んでいる」

金融庁の森信親長官は10月中旬、日本記者クラブの講演で期待感を示した。

バブル崩壊後、金融システムの安定を旗印に厳しい審査や行政処分を連発して「金融処分庁」とも揶揄(やゆ)されたが、ここ数年は、銀行が顧客重視のビジネスモデルに転換するのを後押ししている。

麻生太郎金融担当相も「『金融育成庁』に転換しなければいけない。イメージだけでなく、実質そうしていくべきだ」と求める。

少子高齢化や長引く低金利で、「利ざや」(貸出金利と預金金利の差)を稼ぐ従来の銀行モデルは限界に近づいている。

金融庁の試算では、9年後には地銀の6割超が本業の貸し出し業務などで赤字になる。銀行が役割を果たせなくなれば、政府が目指す地域活性化やデフレ脱却も難しい。

『日本型金融排除』。金融庁は10月に公表した金融行政方針で、銀行が担保にこだわるあまり、将来性のある企業にお金を貸さない事例をこう定義した。異例のレッテル貼りで痛烈に批判した背景には、変わろうとしない銀行へのいらだちが垣間見える。

「担当者が相談に乗ってくれない」
「形式的な審査で融資してもらえなかった」
企業の恨み節は今も金融庁に聞こえてくる。
このため、金融庁自ら銀行と企業の実態調査に乗り出し、融資審査で担保の有無を重視しすぎていないか、事業再生の支援に取り組んでいるか、などをヒアリングする。

地方の“殿様”として君臨してきた地銀の数は30年前と同じ64行のままだが、再編・淘汰(とうた)は必至だ。

森長官は銀行再編について「単に持ち株会社をつくって2つの銀行をぶら下げるだけならコストが増えるだけ」と牽制(けんせい)する。

2つの銀行が1つになる合併を回避してまで人事ポストを守ろうとする地銀への不満は根強い。

コメント


認証コード3475

コメントは管理者の承認後に表示されます。