「狂気」

画像の説明 米大統領選、韓国の政治混乱など続々と大ニュースが登場した11月の国際面に、ある記事が掲載された。

「元ポト派幹部 終身刑確定」「200万人虐殺 国家犯罪断罪」「カンボジア 特別法廷二審判決」

見出しを読んだ途端、私の頭に浮かんだのは、10年ほど前にカンボジアの地方都市で見た頭蓋骨の山だった。

カンボジアでは1975年、ポル・ポト率いる武装勢力が政権を掌握し、極端な共産主義政策を推進した。その思想は独特かつ異常で、貨幣制度や学校教育、さらに宗教、家族までも否定。都市住民を農村に移住させ、強制労働や虐殺を繰り返した。

特に知識層は敵視され「眼鏡をかけていただけで殺された」という。政権崩壊までわずか4年間で、病死や餓死も含め当時の人口の約4分の1が犠牲になったとされる。

私が訪れたのは、カンボジア西部の都市バタンバン郊外にある大きな洞窟だ。20メートルほど上部に開いた穴から、人々を洞窟の底に突き落として処刑していたという。

金網のオリに、犠牲者たちの乾いた頭蓋骨が数十個、無造作に積まれていた。虐殺の悲劇を伝えるためらしい。カンボジアでは至る所に、こうした虐殺の痕跡が残っている。

ポル・ポトは潜伏中に死亡しており、今回判決を受けたのは当時のポト派の最高幹部だ。死刑のないカンボジアで終身刑は最高刑。これでカンボジアの負の歴史に一つの区切りがついたともいえる。

しかし、法廷でもなぜ虐殺が起きたのか、誰が指示したのかなどという問いへの明確な答えは示されなかった。

そもそも、ポル・ポトの名前さえ知らなかった一般の民衆たちが、どんなメカニズムで虐殺の加害者になり、被害者となっていったのか。

カンボジア大虐殺は現代史の深い謎の一つだ。その解明は今後も続けられる必要がある。

人間は時として、とんでもない集団的狂気に取りつかれる。その危うさを忘れてはならない。骨の山が私たちに警告している。

コメント


認証コード5502

コメントは管理者の承認後に表示されます。