「自信」

画像の説明  「軽は日本の道路事情にあっている」「トヨタも認めてくれた」「コンパクトカーも出していく」・・・。

ダイハツ工業の三井正則社長は、11月28日、大阪大学豊中キャンパスで学生らに向け、軽自動車の役割や物作りについて熱く語った。トヨタ自動車傘下で、今年8月に同社の完全子会社になったダイハツ工業にとって、2013年に就任した三井社長は実に21年ぶりとなる生え抜きの社長だ。1975年にダイハツ入社後、主に生産技術畑を歩み、九州工場(ダイハツ九州)の立ち上げにも携わるなど、物作りのスペシャリストだ。

三井社長は講演で、ダイハツの前身が大阪高等工業学校(現在の大阪大学工学部)の学者や技術者が中心となり、当時輸入に頼っていたエンジンを国産化すべく大阪で「発動機製造」を設立したことにまず触れ、「109年ぶりの里帰りだ」と話し、阪大生らの心をつかみながら「軽」の必要性を唱えた。

軽自動車市場は燃費データ不正問題や軽自動車税の増税影響もあり、足元で冴えない。さらに日本独自の規格で“ガラパゴス”と言われることもあるが、三井社長は「日本の新車販売の3台に1台は軽自動車だ。日本の経済成長を支えてきた自負が私たちにはある」と強調。

そのうえで、「日本の一般道路の85%は幅が3.8メートル以下の市町村道。ほとんどの道はセンターラインもない生活道路で、そうした狭い道にジャストフィットしているのが軽自動車だ」と説明し、地方の狭い道路をいくつもスライドに映し出した。

ガソリンエンジンで低燃費を実現

そして、話は5年ほど前に発売した軽自動車「ミライース」にさかのぼる。低燃費と低価格が強みの軽自動車だが、環境意識の高い顧客はハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)へ移行し始めていた。

そこへダイハツがHVやEVに続く「第3のエコカー」と銘打って投入したのがミライースだ。ガソリン車でありながら、当時燃費30キロを実現し、価格も80万円を切る値頃感が受けて大ヒットした。

三井社長は「価格は当時、ホンダのハイブリッド車のインサイトが159万円だったので、その半額となる79万5000円を一番安いグレードにしようと決めた。この車が当時、価格だけでなく燃費競争に火を付けた。エンジンでもここまでできるんだと、どうしても示したくて発売した」。

続けて裏話も披露。「7年前にモーターショーでコンセプトカーを出したときは、安くできると思い3ドアで計画していた。だが、それはユーザー目線ではない。やはりドアは5枚にして118万円の価格を決めたが、それでは売れないと考え、すべてのプロジェクトをキャンセルしひっくり返して造り替えた」と明かした。その後、ミライースの技術は海外にも飛び、今では東南アジアでも次々とヒットを出すまでになったという。

生産を担当したのはダイハツの生産子会社であるダイハツ九州。三井社長の古巣だ。業界も注目する最新鋭の工場で、コンセプトは「シンプル、スリム、コンパクト」だ。組み立て工程数を大きく減らし、生産ラインの長さを半分にするなど、生産コストを大幅に引き下げて低価格化を実現した。三井社長は「車種ごとに必要だった専用設備をなくし、ひとつのラインに何車種も流すことができる。汎用ロボットを多く使用し、プログラムを組み替えるだけで対応できる」と話した。

小さい車作りはダイハツが担っていく

低価格の車を造る生産技術への自負は高い。三井社長は「最近トヨタに認められてきた。小さい車を作る点ではダイハツにかなわないと。小さい車については国内も新興国もダイハツが担っていく」と強調。

今後は軽から上のコンパクトカーも狙う方針だ。三井社長は「軽からストレッチして1リッターカーを作った方がより良品廉価にできるだろうと思う。大から小ではなく、より小さなものからコンパクトカーを作る。トヨタに認められたのでフィールドを広げていきたい。今後世界で増えていく車の半分は小型車になるとの見方がある。われわれの出番だなと思う」と話した。

実際、最近発売した新型小型車「トール」はダイハツが軽自動車の技術を駆使して企画、開発したコンパクトカーで、トヨタ車全4チャンネルにもOEM供給している。三井社長は「お客様に選んでもらえる選択肢を増やす意味で、軽自動車の技術を使ってトールを作った。軽だけにしがみつくのではなく、車づくりの源泉である軽を守りながら、その技術でどこまで1リッターや1.3リッターにストレッチしていけるかだ」という。

一方、2年前に発売した軽スポーツカー「コペン」はダイハツの夢であり挑戦だという。「スポーツカーを単に作りたかっただけではなく、これまでの常識、ダイハツを変えたかった。軽くて丈夫なフレームを造って、中身は頑丈に、外側は樹脂で自由に作れる車だ。スマホのカバーのように着せ替えできる」。

また電気自動車や自動運転などの次世代技術について学生からの質問に答えた。

電気自動車については、「研究している。お客様が選ばれるものを安く速く提供するのが使命」と応じ、また自動運転については、「ダイハツだけだと時間もカネもかかるので、トヨタと一緒にやっていこうとしている。機能を限定して安く提供するのがいいと思っている」とした。

最後に求められる人材として、「社会がどんどん変化している中で、今興味を持っていること以外にも広い視野や世界に興味を持った方が技術者としての幅も広がる。これしかやりたくないという学生は多いが、それよりも変化に敏感になることが、タフでグローバルな人になると思う」とエールを送り、拍手を浴びた。

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