「国防の現実」

画像の説明 トランプ大統領誕生で懸念される日米同盟、米軍の撤退で防衛に穴はあかない

トランプ大統領の誕生で、日本の外交や経済、日米安保はどんな影響を受けるのか。日本政府はどう対応すべきなのか。安保分野について、軍事評論家の田岡俊次さんに寄稿していただいた。

ドナルド・トランプ氏は国際問題に関する無知を露呈する言辞を連発してきたが、日本の安全保障問題については「在日米軍の駐留経費を100%日本に支払わせる。条件によっては米軍を撤退させる」と言う。

●米軍は日本の傭兵に?

だが、本来、「在日米軍の地位に関する協定」の24条では、日本は施設、区域(土地)を無償で提供するだけで、それ以外のすべての経費は「合衆国が負担する」はずだ。ところが、米国はベトナム戦争後、財政難に陥ったため、日本は1978年から根拠のない「思いやり予算」で基地従業員2万3千人の給与や電気・水道料金、基地の建物の建て替えなどを負担、のちには「特別協定」として定着させた。

今年度予算では特別協定による負担は1521億円だが、それ以外に沖縄などの民有地の地代、周辺対策費、漁業補償、建物などの建設、沖縄の米海兵隊の一部のグアム移転のための「米軍再編経費」などがあり、日本政府の支出は計5954億円に達する。

在日米軍の人員は、5万2千人(艦船乗組員含む)だから、1人当たり1145万円の給付だ。さらに米軍に無償提供している国有地の推定地代は、地方自治体などに貸す場合の安い地代で計算しても年間1658億円になる。それを含むと日本の負担は7612億円に達する。

米国が出す在日米軍の経費は55億ドル(約5800億円)だが、その大部分は駐留米軍人の人件・糧食費だ。もし日本が100%負担するなら、米軍将兵が日本から給料をもらって傭兵化し、自衛隊の指揮下に入るのか、という話になる。実際には、「特別協定」が昨年12月に改定され、日本の負担が若干増えた。この協定は5年間有効だから、日本側は変更を拒否するのが筋だ。

●防衛は自衛隊の責任

「日本は米軍に守られている」との漠然とした印象を多くの日本人も米国人も抱いているが、現実には直接日本防衛に当たっている米軍はゼロだ。

横須賀、佐世保を母港とする第7艦隊の艦艇は西太平洋、インド洋全域で米国の制海権を確保する任務を持ち、アラビア海などに出動する。沖縄の海兵隊は第7艦隊の陸戦隊で、揚陸艦に乗って各地を巡航している。

沖縄の嘉手納と青森の三沢にいる米空軍の戦闘機計約60機は日本の防空には関与せず、中東などに交代で派遣されることも多い。

「日米防衛協力のための指針」

英文では、「日本は日本の市民と領域を防衛する一義的責任(プライマリー・リスポンシビリティ)を有す」とし、「米軍は支援、補完をする」と定めている。

自衛隊は、防空、ミサイル防衛、日本周辺での船舶の保護、地上攻撃の阻止、撃退などで一義的責任を負い、「必要があれば自衛隊が島の奪回作戦を行う」としている。自衛隊が「一義的責任を負う」と明記しておけば、米軍は何もしなくても責任を問われない仕組みだ。

だが、これでは日本で「何のために米軍に基地を提供し、莫大な補助金を出すのか」との疑問が出るから、邦訳では「一義的責任」を「主体的に行う」とごまかしている。これはすでに自衛隊が日本防衛に責任を負っている実態の追認でもあり、米軍が去っても防衛に大穴が開くわけではない。

トランプ政権が、「もっと金を出さないと米軍は撤退する」と言うなら、「結構なお話ですな」と応じるべきだ。もしそうなれば沖縄の基地問題は解消し、約6千億円の米軍関係経費の支出もなくなる。

北朝鮮の核・ミサイル開発は、第2次朝鮮戦争がもし起こった際、もっぱら韓国軍、米軍の基地を狙うためと見られ、米軍が日本から去れば、限られた数の核弾頭を日本に向けて使う意味はなくなる。

現実には、米国が世界的制海権を保持するために不可欠な横須賀、佐世保両港や岩国の海軍航空基地などを放棄することは考えがたい。

真珠湾も艦船の修理能力は乏しいからだ。日本が「退去するならどうぞ」と言えば、相手は「ぜひ置いてほしい」と下手に出るしかない。

もしトランプ氏が「退去するぞ」と脅すならば、それは日本が「トランプ」(切り札)を握る好機となる。だが、外務省や安倍首相にその度胸があるかは疑わしい。

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