「檜舞台」

画像の説明 中国は1970年代、米ソを第一世界、日欧を第二世界、アジア・アフリカ、中南米などを第三世界と分類し、自らを第三世界のリーダーに位置付けていた。

この旧来の枠組みをまだ踏襲しているとすれば、現在の中国は旧ソ連に代わり、第一世界入りし、米国のカウンターパートナーになろうとしている訳である。確かに産業の各分野においては1位2位企業が組めば、その支配力は万全となる。

しかし国家間の関係は、ただのマーケットシェア争いではない。しかし中国人はそう思っている気配が濃厚にある。有利、不利、以外の理念が抜け落ちているのだ。

■米中首脳会談の新聞報道、米国はパートナー

今回のG20、地方紙の扱いはあまり大きくない。国際面(普段1~2ページ)にG20報道に1ページを追加した体裁が数日前から続き、一面トップを飾ったのは9月4日(日)付けが初めてだ。見出しは、「G20杭州首脳会議本日午後開催」という至って平凡なものだ。しかし内容は平凡ではない。報道とは何か、宣伝とは何かを考えさせてくれる教材だ。

G20における中国の貢献について1ページを割き、2ページ目は、習近平-オバマ会談に当てられている。その米中首脳会談報道(新華社配信)を詳しく見てみよう。

習主席はまず44年前、杭州の西湖国賓館において、中米双方のリーダーが集い、「上海公報」を達成し、両国関係が正常化したことを指摘した。そして2013年、カリフォルニア州パームスプリングスでの会談以来、我々は双方の共同努力下、中米新型大国関係の建設に、多くの実在の成果を得てきた。双方の貿易額、投資額、人員の往来は史上最高となっている。

また双方は、気候変化への対応、投資協定交渉、建立両軍互信、ネット犯罪の取締り、アフリカのエボラ熱対応、イラン核問題の進展、などの成果によって、中米関係の戦略的意義と全世界への影響を十分に展示した。またこれは、中米の共同利益は大きく、中米の合作が如何に両国と世界の大事であるかを十分説明している。

習近平-オバマ会談分析「中国は米国とは対立していない」とのイメージ戦略(写真=Thinkstock/Getty Images) (ZUU online)© ZUU online 習近平-オバマ会談分析「中国は米国とは対立していない」とのイメージ戦略(写真…
習主席は、中米は両国関係の正確な発展方向を把握していると強調した。不衝突、不対抗を堅持、相互尊重、相互利益の合作を深化、中米関係穏定健康発展の持続を図っていく。

まるで中米による新大国関係が、すでに中国のリードで世界を支配しているかのようだ。もちろん国民にそう思わせる意図である。

■米国とは対立していないと念押し

このあと記事は個別の問題に触れる。台湾独立、チベット独立問題と南シナ海問題をピックアップしてみよう。

台湾独立やチベット独立問題に対する中米両国の立場に触れたあと、「中国は人権の促進と保護を高度に重視している。公民の宗教信仰の自由は法により保障されている」と続く。

南シナ海問題では、領土主権と海洋権益を断固守る、といつもの主張の後に、「中国は、アセアン国家とともに和平穏定を維持する。米国には南シナ海の和平と穏定に、建設性作用を発揮してもらいたい」とある。

荒唐無稽な部分や本音の部分が混在していて面白い。またオバマ大統領の主張もこれらと大差ない中国流表現で彩色されている。

「中米関係史上重要な意義を持つ杭州において習主席と再会できたことは大変うれしい」と始まる。米国は中国の発展を歓迎し、その平和維持事業に貢献していく。双方は重大な国際問題について深い意見交換を行った。そして紛争地区への対応、世界的挑戦課題のどちらにおいても、協調と合作を強化することで同意した。これは世界和平、穏定、繁栄に積極作用するだろう--などと歯の浮いたような文字が並ぶ。

ここでも日本とは違い、米国と中国は対立していないと国民に念を押すことが目的だろう。米国に抱きついて中国の利益を極大化しようというマーケットシェア争いの最終局面だ。人類の未来に対する高邁な理念などどこにもない。

■盛り上がりを欠くSNS

SNS「微信」には習近平主席が各国首脳を次々に迎えるシーンを中心に、歓迎演芸会のバレー、などがアップされた。しかし盛り上がりは欠いていた。習主席にとっては昨年9月3日の抗戦勝利70周年軍事パレードで、重量級来賓がたった2人(プーチン大統領、朴槿恵大統領)しか参加しなかったことに対する1年越しの雪辱戦である。来賓を鷹揚な態度で出迎える図柄は、儒教的檜舞台だ。

しかし国民にとっては毎週CCTVで放映している図と変わらない。今回の相手は顔も名もよく知られたVIPとはいえ、図柄そのものは見飽きたものだ。

SNSが興奮するのは希少性の高い珍しい図柄である。国民が最も反応したのは、昨年の軍事パレードだった。また直近では、リオデジャネイロ・オリンピックにおける、中国女子バレーボールチームの金メダル獲得だった。G20も中米首脳会談もインパクトではこれらに及ばなかった。

南シナ海問題を表出させないため、地球環境問題、過剰設備問題で妥協を強いられた、などという論調は中国では出ない。米国との蜜月を国民に見せ、国際会議のホストを堂々と勤め上げた。国内的にはうまくいったのである。

そして国内を説得できた、ということは中国では政治的成功を意味する。簡単である。現代中国に深遠なところを探しても無駄骨に終わる。

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