「税金が遊びの金に」

画像の説明 市民の怒り

日本屈指の温泉地、大分県別府市。2月26日、市庁舎の会議室で、大野光章福祉保健部長は表情を崩さず、正面に立つ県の監査担当者に軽く頭を下げた。
「今後は指摘事項を十分に理解した上で、生活保護行政を行ってまいります」

同市は25年以上前から、職員に年1回、市内のパチンコ店と市営競輪場を巡回させ、生活保護の受給者を発見した場合は文書で立ち入らないよう指導している。従わない場合には、医療扶助を除き支給を停止してきた。

待ったをかけたのは厚生労働省である。生活保護法にパチンコなどを直接禁止する規定がないことを理由に「支給停止は不適切」との見解を昨年12月、県に伝達。県は国の指針に基づいて監査を行い、この日、市側に是正を求めた。

「受給者が昼間からパチンコをしている」。昨年末の市議会で市民の苦情が取り上げられた。市当局が支給停止措置を公表したことで、その是非をめぐる論争がわき起こった。

同市内で商店を営む男性(65)は憤る。「自分の納めた税金が、他人の遊ぶ金に消えている。こんな不当な話があるか。誰も止められないなんて、ばかにしている!」

これまでに200件超の意見が市に寄せられた。「国と県に屈せず、市独自のやり方を貫くべきだ」。その8割以上が停止措置を支持する内容だった。

一方、人権派弁護士らが今月9日、同市に提出した意見書では逆の見方が示されている。生活保護法は、行政の指導について受給者の自由を尊重し、最小限度にとどめなければならないとしており、市の停止措置は受給者の「自由」を侵害し違法、という理屈だ。

生活保護費は年間約3兆8千億円(平成27年度実績)。17年度からの10年間で1・5倍に拡大し、厚労省は37年度に5兆2千億円に上ると試算。現在約5兆円の防衛費を上回る規模となる。支出を膨張させている最大の理由が高齢化だ。受給世帯は昨年末時点で過去最多の約163万4千世帯。半数の約80万5千世帯は構成者が65歳以上のみの「高齢者世帯」(18歳未満の未婚者と同居を含む)で、その9割は1人暮らしだ。

別府市は日本の縮図だ。昨年10月の巡回で発見された25人のうち15人は65歳以上。多くは単身者だった。

「パチンコしか行き場がない。それ以外、生活に刺激がないんだ」。停止措置を受けた60代の男性は、市の担当者にこんな心中を語った。この男性のように社会から孤立化し、パチンコなどにおぼれる高齢受給者は少なくない。

国はそれを「黙認」してはいないか。逼迫(ひっぱく)する財政事情の中で、浪費を許さない地域住民の感情は根強い。ジレンマに立たされた自治体は別府市だけではない。

長野恭紘市長(40)は言葉を強めた。「生活保護法の条文には、パチンコを『だめ』とする根拠はない。

だが、『良い』という根拠もない。今後は、国で議論を深め、結論を示してもらいたい」

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