「日米同盟」

画像の説明 戦後の日米関係を批判する用語に「対米従属」という形容句がある。

これは右派だけでなく左派にこそあって、ともに日米同盟を否定的に捉えた昔懐かしい表現である。

米大統領選の共和党の指名争いでトップを走るトランプ候補が、米紙ニューヨーク・タイムズで日米同盟に疑問をぶつけたことから、対米従属論が再び日米のメディアで語られるようになった。

かつて、戦後占領期から日本が独立する際、左派は共産主義陣営のソ連なども含めた全面講和を求めた。すでに米ソ冷戦がはじまっており、多数講和を選択しなければ早期独立は不可能であった。このとき、多数講和と日米安保条約を結んだ吉田茂首相に浴びせられた批判が、この「対米従属」である。

従属論を党綱領に格上げしたのは日本共産党である。

1961年綱領で、日本の地位を「半ば占領された従属国」と表現した。こうした認識は、旧社会党や新左翼運動にも引き継がれ、日米安全保障条約に反対する際のプロパガンダとして用いられてきた。

トランプ候補は日本が同盟国なのをいいことに、「非関税で米国に輸出して大もうけしたタダ乗り国だ」と批判した。

彼の対日観は80年代のまま止まっているらしい。その上で、米国の核の傘から出て、「自前の核兵器を持つことを認める」と混ぜ返したのは周知のとおりだ。

これを機に、日本では日米同盟を対米従属に置き換えて語る識者がでてきた。左派と現状維持派からの懸念で、「対米従属」を嫌う右派がトランプ発言を奇貨として、「対米自立」に向かう危険性を指摘する。
自立には(1)憲法改正(2)核武装(3)日米同盟の再検討-の3点セットがあるという。

しかし、還暦を超えて永続する同盟は歴史的にも珍しい。長持ちには秘訣(ひけつ)があり、日米外交・防衛当局者がときどきの国際環境の変化に柔軟に対応してきたからだ。

日米同盟は冷戦期にはソ連からの侵攻を防ぎ、最近でも東日本大震災で「トモダチ作戦」のありがたさが身に染みたはずだ。

まして日本は、軍事化した中国、核開発を進める北朝鮮、軍備を増強するロシアに接している。にもかかわらず、米軍庇護(ひご)下の65年で、経済力と安定性は享受できたが、自らの国を守る気概を失いつつあった。

対米自立には、自立・自存の防衛を固めた上で日米が双務性を高め、より強固な同盟を構築するとの考え方がある。

本来は日米安保条約を再改定すべきだと思うが、2015年改定の日米防衛協力のための指針(ガイドライン)は、そうした考え方の延長にある。

核についても、核開発ができる姿勢を維持することが抑止力につながる。

政治的コストのかかる「独自核」も考えられるが、「米国核」を共同管理するケースもあって選択肢は広い。

抑止力に重要なのは、核・非核を問わない自由な議論と能力を保持し、「核のオプション」を放棄しないことであろう。

まして、左派からの「対米従属を通じて戦争ができる国へ」という政権批判は、スローガン化していてまともな議論とはいえない。

むしろ、巨大中国の軍事的台頭を前に、日米同盟を基礎にアジア海洋国家との同盟の輪を広げるべきだろう。それらは、戦争を未然に抑止するためである。

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