「交渉はへたくそ・・・サラリーマン役員ばかりだから」

画像の説明 3月30日13時半、シャープの取締役会は始まった。

主な議案は、台湾・鴻海精密工業によるシャープ買収の是非で、鴻海が要求している「出資額を当初合意額からの1000億円減額」を受け入れるかどうか、だ。

シャープにとっては、手にするキャッシュが減れば投資余力も減り、再建の道のりは当然厳しくなる。しかし、もう鴻海以外に選択肢はない。

1カ月前は買収に手を挙げていた産業革新機構も交渉からの撤退を表明。シャープが最終決定をできずにいた1カ月のうちに、機構案の中で統合相手として挙がっていたジャパンディスプレイや東芝は、それぞれ工場再編や事業売却を決めた。独自路線を歩み始め、シャープとは訣別した。

2時間20分の議論の末、取締役13人による決議が行われた。賛成11人・反対2人――。

賛成多数でシャープは鴻海の要求を飲むことを決定した。鴻海をパートナーに選んだ2月の取締役会決議では、意見が割れながらも円満買収とするために”全会一致”の体裁を採ったが、今回は生え抜きで技術畑の会長・水嶋繁光氏と経産省出身の半田力氏は、反対の姿勢を押し通した。

ただ、2人の抵抗も空しく、鴻海の取締役会でも同日、シャープの買収が決議され、ようやくシャープの鴻海傘下入りが正式に決まった。

値切った金額は約1000億円

「3888(億円)という数字は台湾人にとってめでたい数字だ」。

最終的に決定した出資額について、鴻海の幹部は3月30日に台湾で開いた記者会見で満足げにこう語った。

それもそのはず、当初予定されていた鴻海による総額4890億円のシャープへの出資額は、液晶パネル事業の収益悪化や中国・日本市場における販売不振を主因として、3888億円に値切られたからである。

同様の理由でシャープは今2016年3月期業績予想の下方修正も発表。

3月31日に支払期限が迫る5100億円のシンジケートローンは、銀行が契約延長に応じたため、最悪のシナリオである経営破綻は免れたものの、今期は1700億円の営業赤字に転落する見込みとなり、綱渡りの状態は続く。

結局、鴻海の交渉術に、シャープが屈服した形となった。ただし、これで万事解決とならない可能性も、浮上している。今回の契約内容変更に、2月の合意内容にはなかった、ある条項が盛り込まれているのだ。

新たに追加された条項は、「シャープの事情によって契約が終了した場合や、鴻海に責任がない事情が原因で2016年10月5日までに出資が実行されない場合は、シャープは鴻海に対し、シャープのディスプレー事業を購入する権利を与える」、という旨のもの。

つまり、契約が破談になっても、鴻海に責任がない破談であれば、ディスプレー事業だけは鴻海が手に入れることを可能にする条項だ。この条項によって、「シャープのさらなる業績悪化や株価下落を理由に、鴻海が今後出資を見送ったとしても、ディスプレー事業だけ買収、その他事業を切り捨てる手段ができた」(業界関係者)、という見方が広がっている。

鴻海最大の関心事が液晶や有機ELなどのディスプレー事業であることは、これまでの交渉経緯からも明白だった。

鴻海はすでにグループ内に液晶子会社を持つが、品質面でEMS(電子機器受託製造サービス)事業で最大顧客である米アップルのお眼鏡にかなわず、子会社製造のディスプレーはアップル製品にほぼ採用されていない。

一方、シャープ製造のディスプレーはアップルの「iPhone」にも搭載され、信頼度はお墨付きだ。鴻海には、シャープの液晶事業を手に入れることでアップルとの取引を増やし、関係をより強固にする狙いがあった。

ただ、2月時点では出資額の4800億円弱のうち、3000億円をディスプレー事業(液晶1000億円・有機EL2000億円)、1800億円はディスプレー事業以外に充てるとするなど、その他事業でも協業を図る姿勢が見て取れた。

削るのは太陽電池などその他事業

しかし、今回の変更では、太陽電池事業の再編・処分の可能性が明記されて、ディスプレー事業以外への出資額の割り当ては3割強減らされる。反面、ディスプレー事業への出資額の割り当ては1割強の減額にとどまるなど、濃淡がより鮮明になっている。

そこに前述の条項が追加されたため、鴻海はシャープの家電や複写機事業について切り離す道を作った、という観測が広まっているのだ。

シャープは買収先選びに際し、事業ポートフォリオをまるごと買収することを条件として掲げ、それに応じた鴻海を選んだ経緯がある。

その前提を覆す今回の条項は、一連の買収劇がこれで幕引きではないことを示唆しているのかもしれない。

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