2018年11月1日よりタイトルをWCA(世界の時事)に変更しました。
「やっぱり・・・・だね」
中国マネーに「拒否権」、米が巨額買収に監視強化…日本の“だだ漏れ”に懸念
国境を越えたM&A(企業の合併・買収)が国際化の象徴かのようにもてはやされる日本。しかし、その風潮は甘い見方かもしれない。
米国では、安全保障の観点から、海外企業による米国企業へのM&Aに対して監視の目をひからせているのだ。
背景には、M&Aの主役が強い同盟関係にある英国のファンドなどから、中国企業を中心とした新興国マネーに変わったきたことがある。技術流出に伴う軍事転用やスパイ行為が米国を脅かす恐れはないのか。命獲りになりかねないM&Aに米当局は神経をとがらせている。
M&Aに拒否権持つ米国
最近、中国企業による米国企業への巨額投資案件が次々、ストップしている。
今年2月、中国の半導体大手、紫光集団はデータ記憶装置大手、米ウエスタン・デジタルへの出資を断念すると発表した。
紫光は2015年9月、38億ドル(4245億円)を投じてウエスタン・デジタル株の15%を取得する資本提携を発表したが、半年足らずで、白紙撤回を余儀なくされた。
横やりを入れたのは、対米外国投資委員会(CFIUS)。財務省や国防総省、商務省など各省庁の代表らで構成する対米直接投資にかかわる安全保障問題を扱う特別な機関だ。
CFIUSに買収の可否を決める権限はないが、国家安全保障上、問題があると判断した場合は、大統領にM&Aを認めないよう「拒否権」発動を勧告できる。
このため、CFIUSから審査の通告を受けるなど「疑い」を持たれた段階で、資本提携をあきらめてしまうのが通例になりつつある。拒否の勧告に至らなくても、投資条件の変更が求められることがある。
紫光が出資を断念したのも、CFIUSが審査に着手するとの情報を得たためのようだ。
ウエスタン・デジタルはコンピュータに欠かせないハードディスク駆動装置を手掛ける世界的な企業。IT技術に卓越した同社に中国企業の関与が強まることをCFIUSが警戒した可能性がある。
オランダ系会社にも関与
今年1月には、電機大手フィリップス(オランダ)が傘下に置く、自動車向け照明などを手掛ける米国子会社ルミレッズの買収問題にもCFIUSが関与した。
ルミレッズは、人工知能やロボットのような超最先端のハイテクを扱う企業ではない。しかし、売却先が中国系ベンチャーファンドだったことでCFIUSに目を付けられたようだ。
そもそも、買収される側の米子会社の親会社のフィリップスは、米国企業ではない。それでも、睨みをきかせてくる当局の姿勢には、中国マネーに対する警戒感の強さがにじむ。
CFIUSが公表した報告によると、2012~14年までの3年間で審査件数は358件。このうち対象国でトップだったのが中国で68件にのぼり、5分の1を占める。英国は中国に次ぐ2位(45件)で、カナダ(40件)が続く。日本はそのあとの4位(37件)だ。
巨大化したチャイナマネーは、優良な資産を求めて、着実に中国の外に物色の手を広げている。
中国企業の投資にハードル
CFIUSは、業種にかかわらず、すべての海外企業とのM&Aを審査対象にできる。どんな案件が米国の安全保障の琴線に触れるかも曖昧で、それが不可解な投資に対する牽制力にもなっている。
「米国に拠点を置く企業に中国人取締役がいるだけで、CFIUSの懸念を招くことがある」
米ウォールストリート・ジャーナルは今年1月、専門家のコメントをこう紹介した。CFIUSの審査件数で、2012年以降、英国をしのいでトップなった中国。買収が成立しない可能性を考慮して、中国系ファンドは「プレミアム」(上乗せ)の支払いを求められるようになったという。
国家の安全にかかわるエネルギーや放送など約20業種が投資を審査対象。しかし、米国と異なり、あらかじめ、どの業種や事業が審査対象になるかはある程度、予測できる。審査で中止勧告が出たのは、2008年の英投資ファンドによる電源開発(Jパワー)株の買い増しの1件のみ。どんな企業が審査されたかも、明らかになっていない。
海外企業による投資の届け出件数は674件(2014年)で、5年前の約2倍になり、日本への投資が活発化している様子がうかがえる。
日本経済の発展につながるインバウンド投資を歓迎するムードは強いが、国益を損なう投資が紛れ込む恐れはないのか。気を引き締める時期が来たのかもしれない。