「なぁ~るほど」

画像の説明 砂漠だらけのイスラエルが
「水不足」を歓迎する「おいしい理由」とは?

地球温暖化は、新たなビジネスチャンスだ――そう信じてビジネスを展開する人・企業・国家の中でも、もっとも現実的で利益第一主義的な人々といえば、おそらくイスラエルとなるだろう。

『地球を「売り物」にする人たち』で著者マッケンジー・ファンク氏は、水不足という必要にかられて生まれた海水淡水化技術、そしてそこから発展した人口雪製造技術を追跡し、地球温暖化によって生まれた新しい「マーケット」と、それを狙う人々の姿を明らかにしている。

雪解けのアルプスに
「雪」を売り込むイスラエル企業

「雪」がグローバル産業になった、と言われると驚かれるかもしれない。だが、冬季オリンピックが近づく度に雪不足が嘆かれることからもわかるとおり、雪への「需要」は年々深刻度を増している。それとともに、「マーケット」としても規模が拡大しているという。アルプスの氷河ピッツタールを訪れたファンク氏はこう語る。

イスラエルの淡水化エンジニア、アヴラハム・オフィールは、飲料水を得る方法を模索しているうちに、高性能の人工雪製造機を発明した。今や彼の製造機は融解の進むアルプス山脈で使われている

人工雪製造は10億ドル規模のグローバル産業になった。今やオーストリアのスキー場の半分近くでは、雪製造装置(スノーキャノン)が人工雪をまき散らしている。これには、1平方メートル当たり約470リットルの水が必要になる。アルプス山脈全体では、人口170万人の都市ウィーンよりも多くの水を使う。これは、単位面積当たりにして、典型的な小麦畑の水使用量に匹敵する。

だが、従来の人工雪製造では、ヨーロッパの池や湖からどれだけ水を持ってきても、アルプス山脈のスキー経済を維持することはできない。その維持には、氷点下の温度と70パーセント未満の湿度、最小限の風という、完璧な条件が必要とされるが、少なくともピッツタールでは、もっとも必要とされるときにこの条件がそろうことは、もはやめったにない

「雪」をアルプスに提供している企業こそ、IDEテクノロジーズをはじめとした、イスラエルの海水淡水化技術を有する企業だ。彼らが手掛けるプラントは、水不足という「課題」を抱える地域で稼働している。そんなイスラエルの加熱する「水ビジネス」に関して、印象的なシーンをご紹介しよう。

将来の水不足を「潜在的市場」と呼ぶ
イスラエルの環境工学教授と対峙して

テルアヴィヴで私は、水関連のほかの起業家たちと次々に会った。それぞれ独自のテクノフィクス(ハイテクによる問題解決)を売り物としていた。イスラエルは、ある人の言葉を借りれば、「新規事業を始めたばかりの(スタートアップ)国家」だが、これは別の傾向の表れでもあった。輸出可能な水技術は、イスラエルやシンガポール、スペイン、オーストラリアといった、もっとも水が不足して、気候変動によって窮地に追い込まれている国から、もっとも勢いよく生まれ出てくるように見えるのだ。

イスラエルでは、従来の、人工降雨のための雲の種まき業者は依然として多いものの、ある研究者グループは、ネゲヴの約810万平方メートルの区域を黒い吸熱性の素材で覆い、人工的にヒートアイランドを生み出し、対流性降雨を誘発させることも提案した。

私は高層ビルの立ち並ぶダウンタウンで、ホワイトウォーター社という企業のエグゼクティブたちに面会した。この企業の創立者は、以前、ドミノ・ピザがイスラエル市場に浸透するのを手伝ったことがあった。

同社はベンヤミン・ネタニヤフ首相と緊密なつながりがあり、そのアプローチはいかにもイスラエルらしく、国家の水の供給を汚染とテロリストの攻撃から守るのを助けるというものだった。

イータン・バー博士という、痩せてはいるが強靭そうで、ものに取りつかれたような、ネゲヴ・ベン=グリオン大学の環境工学教授だった。

彼は旱魃と闘う新しい方法の特許を取ったばかりで、その方法は一見するとあまりに革命的(かつ、利益志向)に思えたので、この年もっとも降雨量の多い日となるその日、私たちはテルアヴィヴ・シェラトン・ホテルのロビーで会った。博士は、イツハク・ガーショノウィッツとリーヴァイ・ウィーナーという、2人のマーケティング担当者を連れていた。ほとんど開口一番、「ご承知のとおり、必要は発明の母ですから」とウィーナーは言った。

バー博士は深く腰掛け、自分の発明品の仕組みを熱っぽく説明した。「空気中の水分を捕まえて水に変えます。このプロセスは聖書の時代にさえ知られていました」。冬の初めにユダヤ人は「テフィラト・ゲシェム」という雨乞いの祈りを唱えた。

だが、乾季の初めの過越祭(すぎこしのまつり)のときには、「テフィラト・タル」という露を乞う祈りを唱えた。露は神からの贈り物と考えられていたからだ。「イスラエル南部では、空気中の水分が凝縮した露に、灌漑をすべて頼っていた古代の畑が見られます」とバー博士は続けた。

「地球が二酸化炭素の影響を受けていることを信じる人もいれば、信じない人もいるでしょうが、つまるところ、気温はしだいに上昇しており、そこからは2つのことが言えます。水温が上がっているので、海からの蒸発が増えること。そして、気温が上がっているために地球の湿気が凝結できないことです」。

かつては「1年365日、ほぼ毎日のように雨が降っていた」熱帯の国々では、雨季にはもはやそれほど雨が降らなくなってしまった。「まるで、スモッグの中を歩きまわっているようなものです。湿気はあるのですが、雨が降らないから。こうした事実は誰もが知っています」

バー博士は、自分の考案した箱が古代の神のようにこの問題を解決する、と言う。空気を吸い込んで水を吐き出すのだそうだ。

博士は手順を概説してくれた。まず、乾燥剤の表面を通過するように空気を吸い込む。すると乾燥剤は、水蒸気は吸収するが、汚染物質は吸収しない。次に乾燥剤を熱し、前よりずっと少ない空気の入った容器の中に水分を発散させる。最後に熱を取り除き、先ほどの過程で再利用する。水蒸気は冷めて凝結する。「それだけの話です」と博士は言った。

「じつにシンプルです。単純そのものです。これは、空気から水を濾し取るフィルターです。それだけのことですよ」。あとは出資者さえ見つければいいそうだ。

「先ほどリーヴァイは、必要は発明の母と言いました」と彼は続けた。「けれど私は……」

「そうは思わないのですか?」とガーショノウィッツが尋ねた。

「そう、そうとは思わない」とバー博士が答えた。「市場のニーズこそが発明の母だと私は思います。もし市場があるとすれば、それは水の市場です。自然はわれわれの味方をしてくれています。われわれにとって、自然こそが最高のPRです。

なぜかと言えば、水がないからです! キプロスをご覧なさい。ギリシアでも同じです。コートジヴォアールでは、もう雨が降りません。それも、砂漠地方のことを言っているのではないですよ。以前はたっぷり水があった場所のことを言っているのです」。ガーショノウィッツとウィーナーが熱心にうなずく。

「2020年には」とバー博士は続けた。「世界の人口のおよそ3分の1が、淡水をしっかり確保して利用することができなくなります。世界の水の消費量は1日1人当たり50リットルから100リットルです。ですから不足人口を考えて、それを25億倍してみてください! それだけ必要になるのです。潜在的市場は、と訊くのなら、それがその潜在的市場なのです!」

水を人工的につくりだす技術には、人工雪製造機であろうと、海水淡水化装置であろうと、莫大なお金(と電力)がかかる。そんなお金を、本当に世界じゅうの人たちが(貧しい地域に暮らす人たちも)支払えるのだろうか。『地球を「売り物」にする人たち』で、マッケンジー・ファンクは、丁寧に事実を述べた後、さりげなくこう指摘することを忘れない。

それほどの代償を払うにもかかわらず、淡水化が世界を救いうると主張する人は誰もいない。また、どんな人工雪製造機であれ、世界の全氷河を救うことはできない。

淡水化や人工雪製造機が救いうるのは豊かな地域だけであり、世界の残りは悲惨な運命を免れえないのだ。

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