「別離?」

画像の説明 朴槿恵大統領は国民にいよいよ北朝鮮との対決の“覚悟”を求めた

北朝鮮は1月6日に核実験、2月7日に長距離弾道ミサイルの発射を行ったが、これについての韓国の対応は、北朝鮮が核ミサイル開発をやめない限り一歩も引かないという、これまで見たことのない、断固たるものであった。

従来の朴大統領の対北朝鮮政策は、「地道に信頼を積み上げていけば、関係が改善し、統一に向けた基盤が醸成される」という淡い期待のもとに進められてきた。そのため、前回の核実験の折には、中国の抵抗に遭い、緩やかな国連制裁でお茶を濁さざるを得なかった。しかし、今回は北朝鮮の崩壊も辞さず、根本的解決策を見出す勇気を国民に求めたのである。

もともと韓国は建前上、統一を目指すとしてきたが、多くの国民は、実際には自国が負う統一コストが膨大になれば、現在の繁栄が脅かされるとの懸念を強く抱いていた。

さらに北朝鮮の崩壊については、日本のわれわれが地震に対して抱くような感情、すなわち“いずれ起きることは避けられないかもしれないが、今は起きないだろう”という思いを抱いている。北朝鮮の崩壊やそれにより大量の難民が排出される混乱は韓国にとって悪夢ともいえるものである。

しかし、朴大統領には、“これまでのやり方や善意では核兵器開発をやめさせることはできず、いずれ金正恩は核ミサイルを実戦配備する。そうなれば北朝鮮は韓国や国際社会に対し取り返しのつかない脅威になる。一刻の猶予もならない”との思いがあるのであろう。

それを示す発言は、2月16日の国会における演説で行われた。朴大統領は、「政府は北朝鮮に対し、核兵器開発では生き残ることはできないこと、それが逆に体制の崩壊を早めるという事実を身に染みて悟らせ、また、自ら変わるしかない環境を作り上げるため、強力かつ実効的な措置をとっていかねばならない」と述べている。朴大統領が「体制の崩壊」に言及したことで、韓国のマスコミは、“ルビコン川を渡った、これで朴政権が存続する限り北朝鮮との関係改善はなくなった”と論評した。

ただ、韓国の主要マスコミも、この大統領発言に先立ち、中央日報が「運命の瞬間に近づく大韓民国」と題する時評で「今や北朝鮮という悲劇は最終章に向かっている」と論じている。

また、これまで北朝鮮との経済交流の窓口になってきた現代グループ傘下の峨山政策研究院の咸在鳳(ハム・ジェボン)院長も「政府は北の非核化だけでなく政府交代まで視野に入れ」重い対価を支払わさなければならないと主張した。韓国全体のムードが現在の北朝鮮、特に金正恩体制下の北朝鮮に危機感を抱き、同国に対して毅然たる対応を求めるようになってきている。

中国に裏切られた韓国と北朝鮮に愚弄された中国

中国の習近平国家主席は、北朝鮮への制裁の強化を求め対応を協議したいとする朴大統領の電話会談にさえ応じなかった。やっと電話会談が実現したのは、北朝鮮が核実験に引き続きミサイル発射を予告した後の2月5日であった。しかも、その際の習主席の発言は、「関係国が冷静に対応し、対話の正しい方向を堅持するよう求める」「朝鮮半島に核はあってはならず、戦乱も起こしてはならない」というものであり、北朝鮮の挑発行動を制止しようとする意図をあまり感じさせなかった。

そもそも韓国の外交が、中国に傾斜していると批判されながらも、経済ばかりでなく安全保障関係においても同国との関係を重視してきたのは、北朝鮮に対する影響力を行使してもらいたいがためであった。現に、朴大統領は米国の反対にもめげず、中国が行った抗日戦勝70周年記念の軍事パレードに独裁国の首脳に交じって参加した後、「中国と速やかに朝鮮半島の統一論議を始める」と期待を込めて語っていた。北朝鮮の核実験後の中国の対応は、韓国の期待を全く裏切るものであった。

中国は北朝鮮の核実験やミサイル発射には一貫して反対の姿勢を堅持し、中止するよう働きかけてはいた。しかし、今回北朝鮮は中国に事前に通告することなく核実験を行い、ミサイル発射の予告は武大偉・朝鮮半島問題特別代表が平壌訪問中に発表するなど、中国をあざ笑うかのようなやり方をとった。加えて、この核・ミサイル実験は韓国を日米から離間しようとする中国外交の阻害要因となり、日米韓の結束を強固にする副作用をもたらした。中国にとって北朝鮮の行動は許せないものであり、強い怒りを覚えたに違いない。

しかし、それでも中国は北朝鮮を見捨てることはできないでいる。それは、同国が崩壊すれば、中国は在韓米軍の駐留する韓国と国境を接することになり、安全保障上の脅威が増すからである。また仮に、崩壊までは至らないまでも北朝鮮が混乱し大量の難民が発生すれば、中国の東北部、特に、朝鮮族の多い地域が不安定になる懸念があるからである。

そもそも韓国がそのような中国に、北朝鮮への対応で協力を求めるのが間違いである。韓国はその点にもっと早く気づくべきであったのである。

国連制裁は開発資金を奪う効果あり問題は中国が用意する“抜け穴”

3月2日(現地時間)採択された国連の北朝鮮制裁決議は、(1)北朝鮮に出入りする全ての貨物の検査、(2)石炭、鉄、鉄鉱石は国民の生活に影響が及ばない範囲で輸入禁止、(3)金、レアアース、チタンなどの鉱物資源は輸入を全面禁止、(4)航空機燃料の供給を禁止(北朝鮮国外での民間航空機への給油除く)、(5)全ての武器の禁輸、(6)制裁対象リストに16人の個人、12団体を追加、というこれまでになく厳しいものとなっている。

今後は中国がどのくらい制裁を履行するかが鍵である。中国は北朝鮮の貿易の9割(韓国との取引を入れれば7割)を占めている。

中国が、このような厳しい制裁決議に同意したことは非常に重要である。特に、石炭などの北朝鮮からの輸出は年間1000億円を超え、これが核・ミサイルの開発資金になっていたと考えられている。北朝鮮はこれまでたびたびの中国の制止にもかかわらず開発を続け、同国をあざ笑うような態度で実験を行った。中国はこのたび初めて、北朝鮮に対し、行動で核・ミサイル開発の停止を求めたと言うことができる。

しかし、中国が北朝鮮の崩壊や混乱を望んでいないことは変わらないであろう。そこで、石炭等の輸入に関し「国民の生活に影響が及ばない範囲で」と条件を付けている。また、中国は北朝鮮が輸入する石油の大半を供給しており、これは年間50万トンに及んでいた。これも対象を人道目的は除き、航空機やロケット燃料に限定している。しかも、その供給はパイプラインを通じて行われ、それをチェックすることは事実上不可能である。

このように中国は様々な抜け穴を用意している。ただ、北朝鮮が引き続き核・ミサイル実験を行おうとする場合に、より強力な抑止力を得たことは間違いないであろう。中国がそれをいかに活用するか、制裁の実効性をいかに確保するかが問われている。

米韓の強い決意が中国を動かした南北朝鮮の緊張は一気に高まる

中国がこのように強固な対北朝鮮制裁決議に応じた背景には、米韓を中心とし、日本をはじめとする国際社会の強い意思が働いたものと考える。特に、韓国と米国は高高度迎撃ミサイル(THAAD)の配備交渉を開始した。これは北朝鮮のミサイルに対抗するためとは言え、中国はそのレーダーが自国内の監視を強化するものとして極度に警戒している。

また、本年の米韓合同軍事演習には、30万人の兵員、核を搭載可能なB52爆撃機を含む昨年より45機多い軍用機、空母ジョン・C・ステニスや原子力潜水艦も参加する。特に今年は朝鮮半島有事を想定した「5015作戦」が初めて適用され、敵の核・ミサイル施設への先制攻撃や、核兵器を使う兆候がある場合に特殊部隊が承認権を持つ人物を排除して核兵器の使用を防ぐ演習が行われるようである。

これまでの経緯からして、中国は今回のような米韓の強硬な反応は予想していなかったであろう。中国が北朝鮮の核・ミサイル実験への米韓の強い危機感を読み誤ったことも、その米韓のよりいっそう強硬な反応を招いたものと考える。そして中国が最終的に国連の北朝鮮決議に同調したのも、米韓等の強い結束がもたらしたものと考えられる。

韓国は、米韓が連携した対応以外でも、開城の工業団地の全面中断という措置に出た。同工業団地を通じてはこれまでに616億円が北朝鮮に渡っており、昨年だけでも130億円が提供され、その大半が核・ミサイル開発の責任を担う労働党指導部に入ったと把握されている。

それ以上に重要なことは、同工業団地は韓国と北朝鮮との間に残された最後の窓口であり、これを閉鎖することは、すべての門戸を閉鎖するということだ、ということである。これによって韓国と北朝鮮は同一民族としての連帯を失い、体制同士がぶつかり合う関係になったということでもある。韓国の対北宣伝放送の強化と合わせ、南北朝鮮の緊張は一気に高まったと考える。

これらの動きに北朝鮮はどう応えるのであろうか。金正恩政権は、核・ミサイルの開発が体制の存続のため必要不可欠との認識を抱いている。特に、中国などこれまで同国を庇護してきた国を遠ざけ、核・ミサイル開発の成功に自己陶酔している金正恩の様子は不気味にさえ思われる。

北朝鮮はどう反応するのか万一の事態にも備えておく必要

北朝鮮の中枢で何が起きているかは外部の者には一切知られていない。金日成が死亡した時には、夜中に金日成の別荘からヘリが飛び立ったとの情報を後で知ったが、北朝鮮のテレビから荘厳な曲が流れるまで韓国では誰もその死を知ったものはいなかったようである。また、死去した日には李明博大統領は京都で野田総理(いずれも当時)と日韓首脳会談を行っていた。

金正恩は伯父で実質的なナンバーツーであった張成澤をはじめ、玄永哲・人民武力部長、李永吉・総参謀長を次々に処刑した。また、金養建・朝鮮労働党統一戦線部長は交通事故で死亡したが、北朝鮮で要人が交通事故死した場合には暗殺が疑われる。朝鮮戦争を知る軍の幹部は金正恩の冒険主義を苦々しく思っていたかもしれず、その幹部を粛清したということに危険を感じるのは私だけであろうか。実際、金養建の後任には軍の強硬派である金英哲がついている。南北朝鮮関係の窓口に強硬派を据えるということは、関係改善の意図はないということを意味している。

今般の国連安保理制裁によって、核・ミサイル開発の資金が窮屈になってくることは避けられないであろう。そうした時に北朝鮮がどう反応するか。自分が気に入らない伯父や軍の幹部を粛清してきたように、自分に敵対する者には強硬に対応することしか知らないのが金正恩であろう。

また、日米韓をはじめ国際社会の圧力に屈したとなれば、国内で強権政治を続けることに支障を来たそう。特に、今年の5月には36年ぶりに朝鮮労働党全党大会を開催し、人事を含め体制を一新しようとしている矢先である。金正恩としては自分の権威を高めることにこだわっているはずである。

一つの可能性はテロであるが、警戒態勢がしっかりしているためか、最近では韓国国内ではテロは起きていない。ただ、ラングーンにおいて韓国の大統領を爆死させようとした事件や、金賢姫と高齢の男が大韓航空機を爆破した事件などが思い浮かぶ。日本も決して安全ではないかもしれない。

また、最近では、2010年に韓国の軍艦「天安」が北朝鮮の魚雷で爆破された事件、延坪島への発砲事件などがあった。2月28日には「重大声明」を発表し、韓国大統領と米本土を攻勢の対象とすると宣言した。3月3日には日本海に向けて6発の「新型大口径放射砲」(ロケット弾)を発射しており、さらなる核実験長距離弾道ミサイル発射による挑発も考えられる。北朝鮮がどのような手段で出てくるか予断は許さない。

同国に対し毅然とした姿勢で対応するのと同時に、万が一の事態にも備えておく必要がある。ただ、国際社会が弱みを見せればつけこむのが金正恩であろう。金正恩が強く出た時には、迎え撃つ側も強く出ざるを得ない。当面は緊張状態が続くであろう。

そして北朝鮮があくまでも対決姿勢を貫く場合には、体制崩壊へと繋がる可能性すら否定できないであろう。

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