「逆切れ」

画像の説明 スイスで開かれた「ダボス会議」。ソロス氏の発言に中国は激しく反応した

2015年の中国経済に関する当局の統計数字が1月中にほぼ出そろった。それらのデータに基づいて、過去1年の中国経済の実態を探ってみよう。

政府公表の15年の経済成長率は6・9%。1990年以来25年ぶりの低水準だが、問題は、この低水準の成長率でさえ、かなりの水増しがあろうと思われることである。経済の実態をより適切に反映できる「李克強指数」の2つ、「電力消費量の伸び率」と「鉄道貨物運送量の伸び率」をみると、15年、前者は0・5%増にとどまっており、後者に至っては11・9%減だ。

ならば、経済全体の成長率が6・9%もあるはずはない。もう一つ、対外貿易の関連数字を見てみると、真実はより明確になってくる。

15年の中国の対外貿易総額は8%減。そのうち、海外からの輸入総額は14年と比べて14・1%も減少した。海外からの輸入は当然、消費財と生産財の両方を含んでいる。輸入総額が14%以上も減ったことは、中国国内の生産と消費の両方が急速に冷え込んでいることを反映している。

結局、政府公表の経済成長率以外の、すべての統計数字を照らし合わせてみれば、15年の中国経済は事実上、0%成長に近い水準にあったことはほぼ断言できよう。

それでは、今年の中国経済はどうなるのか。

今月1日、国家統計局が発表した1月の購買担当者指数(PMI)は49・4で、昨年12月より0・3ポイント悪化した。新年早々の不吉なデータは、今年の中国経済の不安な先行きを表しているといえよう。

こうした中で、中国経済問題に関するひとりの外国人の発言が、中国国内で騒動を引き起こすこととなった。

1月21日、米の著名な投資家のジョージ・ソロス氏は世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で「中国経済のハードランディングは不可避」と発言し、アジア通貨の空売りをも宣言した。

2日後の23日、新華社がそれを取り上げて厳しく批判したのをはじめ、「ソロス発言」への中国メディアの一大批判キャンペーンがスタートする。25日、人民日報海外版は「中国を空売りする者は必ず敗れる」との論評を掲載。26日には新華社が再び、ソロス発言をやり玉にあげて、彼のことを「視力障害」だと揶揄(やゆ)した。

そして28日、人民日報は1面で署名記事を掲載し、ソロス発言に反論すると同時に、「中国経済は絶対ハードランディングしない」と宣した。29日、人民日報海外版も再度ソロス発言への批判記事を掲載したが、その中で「でたらめ」という罵倒までをソロス氏に浴びせた。

それでも気が済まないのか、今月3日、今度は国家発展改革委員会の徐紹史主任(閣僚級)が登場して、ソロス氏の「中国経済ハードランディング論」を徹底的に批判した。

このように、外国の一民間人の発言に対し、中国政府は国家の中核メディアと政府高官を総動員して、いわば「人民裁判式」のすさまじい批判キャンペーンを展開した。

その中で、共産党機関紙の人民日報までが、執拗(しつよう)にも「でたらめ」などのひどい言葉を持ち出して外国人の投資家に投げつけてきたのである。

このような恥も外聞もない「狂乱ぶり」は逆に、ソロス氏の「中国経済ハードランディング発言」が、中国政府の痛いところをついた証拠であろう。中国政府自身もソロス氏発言が真実だ、と分かっているからこそ、必死になってそれを打ち消そうとしているのだ。

コメント


認証コード2351

コメントは管理者の承認後に表示されます。