「借金踏み倒しの懸念も…」

画像の説明 人民元の国際通貨化は中国に改革促す「トロイの木馬」となりえるか 

国際通貨基金(IMF)が11月30日、通貨危機などに備えた「特別引き出し権(SDR)」の構成通貨に人民元を加えると決定した。元はドルやユーロなどと並ぶ国際通貨として金融市場で信認を高めることになる。

経済分野で影響力を強め、米国主導の既存秩序の切り崩しに動く中国の「歴史的な瞬間」(中国紙)となったが、欧米メディアはそろって、さらなる市場改革を促す契機にすべきだとの論調を打ち出している。

「全ての側面で異質」

SDR入りにより、ただちに貿易などで元決済が拡大するわけではないとの見方で専門家はほぼ一致している。1日付の英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は、元が世界の「エリート通貨」の仲間入りを果たしたことは「経済大国化した中国を象徴する」と評した。

そのうえでFTは、「中国経済改革の旅路」における「一里塚になる」としたIMFのクリスティーヌ・ラガルド専務理事(59)の言葉を引用しながら、採用が改革の完結を意味するのではなく、あくまで改革を促進させる契機になるべきものだと述べる。

ドルや円など他のSDRの4通貨は、全て外国為替市場で完全変動相場制を採っている。しかし中国では、政府が市場にコントロールを及ぼす管理変動相場制だ。8月の制度改革で外為市場での元の変動幅はやや高まったとはいえ、域外との資本勘定取引は規制されたままだ。

市場の法の支配に重きを置く他の4通貨の国・地域に対し、中国は「全ての側面で異質」(FT)なのは確か。今回の決定は、「自由な資本市場」という本来はSDR通貨に求められる要件について、将来の達成を“前借り”した判断だったといえそうだ。

WTO加盟の狙いと類似

FTは「IMFの決定は、習近平指導部内で、改革派の信用を守旧勢力に対して高める」として、SDR採用の成功が、政権内の路線闘争で改革派を勢いづかせる可能性を示す。

投資週刊誌バロンズ(電子版)は1日、2001年の世界貿易機関(WTO)への中国加盟のエピソードを紹介。加盟を推進した改革派の当時の朱鎔基首相(87)が、WTO加盟に、輸入障壁引き下げなどの改革を指導部が飲み込まざるを得なくなる「トロイの木馬」とする狙いを込めたと解説し、今回の採用も改革を後押しすると期待する。

元のSDR採用が国内政治に及ぼす影響に触れたFTに対して、1日付の米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、中国が置かれたマクロ経済の側面から効用を述べる。

08年の金融危機後、膨大な投資を成長エンジンとしてきた中国だが、かつての高成長率は影を潜め、投資依存から、消費や生産性向上を重視する方向にかじを切る必要性に迫られている。

WSJは、中国政府がそのために、民間部門の活発な競争につながる自由な資本市場の「規律」を受け入れる必要性を強調する。先進国入りを果たす前に停滞期に陥る「中所得国のわな」に直面する中国は、開放的な市場運営による金融部門の競争力強化のため、「銀行の融資判断への政府干渉をなくすことが不可欠だ」と述べる。

「借金」踏み倒し懸念も

市場自由化へ慎重に歩みを進める半面、依然として政府統制を手放さない中国指導部の姿勢を危ぶむのが、元IMF幹部(中国担当)だったエスワー・プラサド米コーネル大教授だ。

2日のインターナショナル・ニューヨーク・タイムズ(NYT)への寄稿でプラサド氏は、元のSDR採用により、海外投資家が中国の金融市場で資金の出し入れを次第に増やしていくと予想する。ただ、プラサド氏は、今夏の政府による株式市場と外国為替市場への介入が投資家を混乱させ、金融市場の「ボラティリティー(変動幅)を大きくした」と指摘。SDR採用によって元の資金需要が増大し、市場が不安定化する負の側面に懸念を示した。

プラサド氏は、政府の市場介入ではなく、「真の市場自由化につながる改革を幅広く実施するとの政府の約束」が重要だと述べ、さもなくば元のSDR採用は、中国と世界経済に良い影響を及ぼさないという。

中国政府は元のSDR採用にあたり、資本市場の自由化という“借金”を背負っている。

バロンズは、WTO加盟後の中国で、国営企業などの諸改革が期待されたほど進展していないことも認める。人民元のSDR採用後、改革を促す「トロイの木馬」が動き出すのか、自由化が停滞して「借金踏み倒し」となるのか、習指導部の経済・市場運営の行方が注目される。

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