「金利」

画像の説明 世界の「金利水没」のなかで「浮き輪」のように突出する米国

12月16日、米国FRBによる政策金利の引き上げが見込まれる。利上げは2006年以来、約10年ぶりの大きな転換を意味する。FRBの関係者はイエレン議長をはじめ年内の利上げを強く示唆するコメントを行っていただけに、今回の利上げは既定路線とみていい。ただし、ここでは今回の利上げをめぐる環境がかつてない状況にあることを、米国国内要因と海外要因から考える。

まず、国内要因としては、ゼロ金利、しかも量的緩和にまで至った状況からの、初の利上げであることだ。海外要因については、下記の図表1、「世界の金利の『水没』マップ」のなかでその特異性を考えてみよう。

欧州の北の諸国は軒並み長期ゾーンまで水没状態が続き、日本も中期までが水没している。今回の論点は、世界の多くの国々が水没するなか、米国は水没せず、世界の海で「浮き輪」のように浮き出ていることにある。

今回の利上げは市場参加者が未体験のものに

世界水没のなか、世界の運用者が生き残りをかけて「運用難民」として「浮き輪」に殺到する結果が、米国長期金利低下につながった。同時に、その圧力が米ドルの上昇圧力になっている。

米国が今回、政策金利であるFFレートを引き上げることは、図表1では米国の短期ゾーンの引き上げ、先の喩えでは、「浮き輪」を高くすることを意味する。

世界がこのように「水没」するなかで米国だけが利上げをするのもかつてない。市場では今日、グローバル・ダイバージェンス「global divergence」とする米国と日欧の金融政策較差がキーワードになるが、それだけにとどまらない意味をもつ。

今回の利上げは市場参加者が体験したことがないものになる

戦後から1970年まで:利上げ5回、平均利上げ幅 1.75%
1970年代以降:利上げ8回、平均利上げ幅 4.1%

今日、多くの市場参加者が1970年代以降の自らの体験をベースに抱くコンセンサス的利上げ幅は4%程度で、FRBの政策金利の先行き予想もこうした過去のバイアスに影響を受ける。

一方、1970年代に至る前、大恐慌後の傷跡を背負い、インフレが定着する前の1970年前までの利上げ幅は2%程度であった。筆者は今回の環境について、今日の市場参加者が体験したことにない70年代以前の環境に類似すると考えてきた。

米国が沈んだら「世界沈没」だ
利上げによる成長減速は許されない

1970年代以降、インフレ期の利上げは常に、インフレ懸念を消すために、果断に決断し、連続的に引き上げる姿勢によってインフレマインドを抑制することが不可欠であった。同時に、過熱した経済をあえて減速させることが求められた。今日も、米国の国内要因としては潜在的に生じうるインフレの芽に予防的に対応する側面はある。

ただし、先の「水没マップ」で海外環境を振り返れば、いま、米国が「浮き輪」ということは米国しか回復地域がないことを意味する。ここで米国の成長が鈍化したら、本当に「世界水没」になってしまう。今日の世界は、米国を減速させることが許されない状況にある。

今回のFRBの利上げは今年の金融市場の最大のイベントだが、その話題の中心は最初の利上げではなく、むしろ、その後のペースがより重要である。そのペースは誰もが体験したこともない従来とは異なる遅いものになるのではないか。

「運用難民」が押し寄せるなか米国長期金利も上昇しにくい

たとえ、米国が利上げで「浮き輪」を持ち上げても、長期ゾーンには金利低下圧力がかかる。米国国内要因で考えれば、米国長期金利は3%以上になるとみるのが自然だ。しかし、信用リスク上、リスクフリーの金利が世界のなか3%以上で放置されることは、先の「水没マップ」上は「運用難民」のなかで許され得ないのではないか。

また、金利格差による「運用難民」が押し寄せることで生じるドル高圧力のなか「浮き輪」が耐えられるか、すなわち米国経済が持続的で持ち続けられるかも問われることになる。もし、米国の利上げによるドル高に米国経済が耐えられないと判断されれば、その後の利上げ継続も困難になる。

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