「国際世論がどこまで盛り上がるか」

画像の説明 常設仲裁裁判所(オランダ、ハーグ)は10月末、、南シナ海における領有権問題に関してフィリピンが中国を相手取って起こした仲裁手続きについて、同裁判所に管轄権があるとの判断を示した。

このとき中国政府は「何ももたらさない」としてこの判断を受け入れていない。

こうした中国の主張には、フィリピン当局者だけでなく、一部の外交関係者および専門家も賛同しておらず、常設仲裁裁判所が最終的にフィリピン政府に有利な裁定を下せば、中国は外交・司法面での強い圧力にさらされる可能性があると述べている。

司法専門家によれば、管轄権をめぐる審理における中国側の主張に対して同裁判所が詳細に反駁(はんばく)していることから、フィリピン政府が勝利を収める可能性はかなり大きいという。最終的な裁定は2016年半ばに予定されている。

外交関係者・専門家によれば、こうした裁定が下れば、特に地域的な会合の場において中国の重荷になるという。南シナ海の紛争に国際裁判所が初めて介入することになり、中国政府としても無視しにくくなるからだ。

フィリピン政府が2013年に常設仲裁裁判所に申し立てを行ったときにはほとんど注目を集めず、その後ももっぱら、航路をめぐって展開される緊張の添え物のような扱いを受けていたが、一部のアジア・西側諸国が仲裁裁判所によるプロセスに対して表明する支持は強まりつつある。

ある専門家は、もし主要な論点について中国に不利な裁定が下されれば、2国間会合や国際的なフォーラムにおいて、西側諸国が中国政府に対する圧力を維持する協調的な立場を取るようになることが予想される、と指摘する。

「他国は中国政府を批判するための材料として裁定を利用するだろう。だから中国はこの問題でひどく動揺している」と語るのは、東南アジア研究所(シンガポール)の南シナ海専門家、イアン・ストーリー氏。

ワシントンの戦略国際問題研究所の安全保障専門家ボニー・グレーザー氏も「ここに都合の悪い真実がある。中国側は、(仲裁裁判所による裁定を)無視し、拒絶することなど簡単だという素振りを見せてきた。しかし実際には、彼らは国際的な代償を払わざるをえなくなると思う」との見方を示した。

<提訴は「無意味」と中国は主張>

フィリピン政府は、国連海洋法条約(UNCLOS)で認められた200カイリの排他的経済水域(EEZ)に含まれる南シナ海で開発を行う権利に関する裁定を求めている。

同条約は主権問題を対象としてはいないが、島嶼(とうしょ)・岩礁などを起点として主張可能な領海・経済水域の体系を大枠で定めている。

実質的に南シナ海全域に関する権利を主張している中国は、国連海洋法条約を批准しているとはいえ、今回の審理に参加することを拒否し、この件に関する常設仲裁裁判所の管轄権を否定している。この水域の各部分については、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、台湾も権利を主張している。

法律の専門家によれば、中国に不利な裁定が下された場合、法的な拘束力は持つものの、裁定を執行する機関が存在しないため、政治的圧力以上の効果については予想できないという。

常設仲裁裁判所からのコメントは得られなかった。

中国外務省は1日、中国に対して課されるいかなる決定も中国政府は承認しないとの主張を繰り返した。同国は11月24日、この裁判について「南シナ海における中国の領海主権を否定しようとする無益な試み」だとしている。

オーストラリア国立大学のマイケル・ウェスリー教授(国際関係論)は、中国はいかなる裁定にも拘束される気はないだろうと語る。

「南シナ海問題は中国の考え方を示す典型的な例だ。中国は、現実には(大規模な)紛争のリスクを引き受けることなく、この地域における米国の優位を拒否・排除し、中国がその立場を引き継ごうとしている」と同教授は話す。

<国際的な関心の高まり>

外交関係者の多くにとって、この裁判は、年間5兆ドル(約613兆円)もの海上貿易が経由する航路に関して、中国に国際的な法規範を受け入れさせるうえで重要である。

ベトナム、マレーシアなどこの海域に関して領有権を主張する国の他にも、日本、タイ、シンガポール、オーストラリア、英国など、常設仲裁裁判所による裁定を遵守するよう中国に要請した国は多い。

米政府は同裁判所での審理プロセスを支持しているし、ドイツのメルケル首相も10月に北京を訪問した際に、南シナ海での紛争の解決に向けて国際司法に委ねるよう中国に示唆した。

オーストラリア・日本両国の外務・防衛大臣は11月22日にシドニーで行われた協議後に、南シナ海で領有権を主張する国々が仲裁を求める権利を支持すると述べた。

仲裁プロセスへの参加を拒否することにより、中国は自らの主張を公式に擁護する機会を失ってしまった。中国の地図では、東南アジアの中心部の海にまで広がる「九段線」として中国の主張する領海が示されている。

フィリピン政府はこの「九段線」の合法性、またその内部での中国の行動について異議を唱えている。

フィリピン政府は、自国EEZ内での海域開発の権利について裁定を勝ち取ることにより、この海域内の複数の暗礁・岩礁から中国が撤退せざるをえなくなることを望んでいる。

外交関係者と石油産業筋によれば、最終的な裁定はエネルギー産業のために働く国際弁護士の精査を受けるのではないかという。フィリピンおよびベトナム近海の紛争海域に関する権利についても明示されるか確かめるためだ。

ベトナム政府はフィリピン政府の申し立てを支持する意見を常設仲裁裁判所に提出しているが、まだ自身では中国を相手取った訴えを起こしていない。ベトナム政府にもコメントを求めたが回答はなかった。

インドネシアの安全保障部門トップは先月、同国政府が「九段線」をめぐって中国政府を提訴する可能性があると発言している。

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