「事情あり」

画像の説明 背に腹は代えられず
首脳会談に応じた中韓

11月1日と2日の両日、日本・中国・韓国の首脳がソウルに集まり、約3年半ぶりの三ヵ国首脳会談が行われた。

元々、三ヵ国首脳会談は2008年から12年まで定例的に開催されていた。その後、わが国と韓国との間で、李明博(イ・ミョンバク)前大統領の竹島上陸や天皇謝罪要求などの問題が発生した。また、中国とは尖閣諸島をめぐる問題が顕在化し、日中韓三ヵ国の関係が悪化したこともあり首脳会談は開催されていなかった。

その間、安倍首相は中国・韓国に対して開催を提案したものの、韓国からは慰安婦問題、中国からは領土問題を理由に両国に拒否されてきた。

しかし、ここへ来て中国経済の減速が鮮明化し、それに伴い韓国経済にも減速の兆候が見え始めている。両国としては対日の建前は別にして、わが国との関係を修復し経済的なメリットを取ることを考えたのだろう。

TPPが当初の予想よりも早期に大筋同意に至ったことも、中韓両国において無視できないファクターになっている。TPPによって太平洋を取り巻く12ヵ国が、より自由な貿易圏を創設し、しかも同一のルールに基づいてビジネスを進めることが可能になる。

それは、自国内の大規模な過剰生産能力を抱える中国にとって、無視できないマイナス要因だ。また、貿易依存度の高い韓国も、TPPでわが国に先を越された危機感はあるはずだ。

中国・韓国両国が背に腹は代えられず首脳会談開催に踏み切ったことは、それだけ両国の経済問題が顕在化していることを示しているとも言える。

舞台裏では露骨に中国優先だった韓国だが経済失速で産業界からは疑問の声

今回の首脳会談の裏舞台で、議長国を務める韓国が露骨に中国寄りのスタンスを取ったことはあまり報道されていない。

今年9月、韓国政府が提示した会議日程では、10月31日午後と11月1日午後にそれぞれ二国間協議が行われる予定だったようだ。ところが、同国政府が中国側の日程要請を認めたため、10月31日はすべて李克強首相の公式訪問による中韓協議に充てられ、その後、中韓首脳による晩餐会を行うことになった。

その結果、わが国政府が要請した2日の日韓首脳の昼食会の機会はキャンセルになった。背景には、韓国政府が懸案としている慰安婦問題で、日韓政府の具体的な歩み寄りが見られないと、国内向けにアピールができないことがあると見られる。

輸出が生命線である韓国経済にとって、中国が最も重要な輸出先であることは間違いない。足元で景気減速が続き、韓国の産業界の一部から朴槿恵(パク・クネ)政権の経済運営に疑問の声が上がり始めている。

そうした状況を考えると、朴政権が経済面では中国重視、安全保障面では米国重視という都合の良いダブルスタンダードを取るのはわからないでもない。また、慰安婦問題などで日本に対する強硬姿勢を見せつけることは、政権に対する支持率を保つ有効な手段なのだろう。

しかし、ダブルスタンダードを取り続ける韓国に対しては、米国が徐々に厳しい見方をし始めている。それは、南シナ海の人工島の問題が顕在化した場合、韓国に対して“航行の自由”に賛成するよう要請が出されたことでも明らかだ。

また韓国経済は、中国経済の減速の影響を受けて成長率の鈍化に直面しており、同国の一部産業界からは、「破棄した日本とのスワップ協定を再開すべき」との意見も出ている。

中韓が“日本叩き”を行う背景に成長の鈍化

中韓が“日本叩き”を行う背景 成長鈍化で政権の求心力維持に苦慮

足元で中国経済の減速は一段と鮮明化しており、習近平主席も6%台の経済成長を唱え始めている。その背景には、リーマンショック後、4兆元の大規模な景気対策を打った後遺症=過剰設備・過剰債務の教訓がある。

また、かつて2ケタ成長を遂げてきた中国経済の高成長期が終わり、徐々に安定成長期にランディングする姿を現している。つまり、潜在成長率=経済の実力が着実に低下しているのである。

問題は、経済成長が低下する中で、いかにして国民の支持を維持することができるかだ。13億人の人口を持ち、しかも国内に多数の民族を抱える中国の共産党政権は、本当に一党独裁体制を保つことが可能だろうか。

中国の経済専門家である友人にヒアリングしてみた。彼は、自分の友人の金持ちが国外に出た話を淡々としてくれた。最後に、「中国人の中には、自国を信用しない人もいる」と言っていたことがとても印象的だった。

経済成長が鈍化している中国にとって、国民の支持を保つためには、領土を拡張し近隣国に強硬姿勢を示すことは重要なアピールになる。特に、かつて戦火を交えた日本を標的にして叩くのは、共産党政権に対する求心力をもたらすことだろう。

一方、韓国も同様の国内事情を持つ。韓国経済は一時期の高成長期を過ぎ、近年、成長率の鈍化が鮮明化している。また、少子高齢化が加速して人口構成が崩れる中、サムスンを中心とする財閥がGDPの多くの部分を占めている。

その中で、朴政権が求心力を維持するために、わが国を厳しく攻撃することは大きな効果を上げるだろう。慰安婦問題という国際社会でも受け入れられやすい材料を持ち出して、国際世論を味方につけることができるとなおさらだ。

両国とも関係改善を図らざるを得ない
わが国はしたたかに対応すべし

わが国を目の敵にして国内世論の求心力を維持してきた中韓両国も、景気減速による国民の不満の高まりに歯止めをかける必要がある。そのためには、自国経済の立て直しを図らねばならない。その意味では、わが国経済が役に立つ部分は多い。

韓国政府が露骨に対日強硬姿勢を続けたこともあり、わが国国民の間の嫌韓意識が少しずつ高まっている。かつて人気を博した韓流ドラマはほとんど目にすることがなくなり、サムスン社製のスマートフォンからサムスンの文字が消えた。そうした状況に対して、韓国の産業界では懸念が強まっている。

一方、中国に関しても、厳しい大気汚染などの対策として、わが国が持っている公害対応の技術が必要になるだろう。それ以外にも、わが国企業の高い技術を中国企業が必要とするケースは多いはずだ。それは、爆買いと呼ばれる、中国人観光客の買い物を見ても明らかだ。

そして中韓両国にとって、見逃せないファクターはTPPだ。元々、中国は知的財産権や国営企業の問題があり、TPPに加盟することが難しかった。しかし、同じ旧共産国であるベトナムがTPPに加盟し、環太平洋経済圏の中に入ることになった。それは中国にとって、一種の衝撃だったかもしれない。

一方、今までFTAなどで進んでいた韓国は、中国重視の姿勢からTPPに乗り遅れた。わが国がTPPに参加したことで、特定の分野で韓国製品の競争力が低下するのは間違いない。

韓国国内のメディアでは、TPP不参加がかなり大きな問題として取り上げられている。同国がTPP参加に名乗りを上げるのは時間の問題と見る向きが多い。

そうした状況を総合的に考えると、中韓両国は、国内世論を意識して対日強硬姿勢を取り続けるだろうが、一方で、経済関係の改善を図ることになると予想する。名を捨て身を取る行動になると見るからだ。

わが国は、そうした両国に対して冷静で、したたかな大人の対応をすればよい。

南シナ海の人工島の問題などで決して中国に譲歩することなく、「是は是、非は非」でメリットが取れるスタンスを維持することが大切だ。

今までの両国の態度を見れば、「話せばわかる」は通用しない。

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