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「経済影響」

画像の説明 軽視できない天津爆発、中国と原油安で日本は岐路に

8月20日、中国の景気減速に天津港爆発事件が追い打ちをかけ、経済的な混乱が長期化するリスクが顕在化してきた。写真は16日、中国・天津市で発生した大規模爆発事故の現場を上空から撮影

中国の景気減速に天津港爆発事件が追い打ちをかけ、経済的な混乱が長期化するリスクが顕在化してきた。原油価格も6年5カ月ぶりの低水準に下落し、中国減速と原油安がリンクする構図が出来上がりつつある。

日本経済にとって、原油安のメリットと景気・物価の下押し圧力のどちらが強くなるのか。政府・日銀は的確な判断を下せるかどうか、その力量が問われる局面に差しかかろうとしている。 

<軽視できない天津港機能停止の影響>  

中国の景気減速は、世界中の市場関係者が織り込む「事実」として認識され出した。7月の輸出は前年比マイナス8.3%と4カ月ぶりの落ち込みとなり、輸入も同マイナス8.1%と縮小傾向が継続。中国商務省は19日、今後数カ月で中国の輸出が減少する可能性は否定できないとの見通しを示すとともに、中国の貿易は厳しい状況と不透明性に直面しているとの見解を公表した。

そこに天津港爆発事件が発生し、さらに影響の深刻化と長期化が懸念され出した。国土交通省が作成した2012年の「世界の港湾取扱貨物量ランキング」によると、天津港は4億7700万トンで、上海、シンガポールに次いで世界3位。

日本の名古屋(15位)、千葉(23位)、横浜(31位)を合わせても4億7600万トンと天津港に及ばない。その港湾の機能停止は、各方面に影響を及ぼすと予想される。

例えば、トヨタ自動車<7203.T >の場合、2つの現地合弁工場での生産停止を22日まで延長する方針を19日に明らかにした。中でも注目されるのは、新たに合弁会社「四川一汽トヨタ」の長春西工場(吉林省長春市)の稼働を20―21日に停止すると決めたことだ。

事故現場に近い天津港で通関業務に遅れが出ており、日本から輸入している部品が届いておらず、生産ができないための対応という。ただ、トヨタは22日には再開する予定としている。

通関業務の再開が仮に大幅に遅れる事態になれば、トヨタだけでなく日本企業の生産に大きな影響が出るだけでなく、米欧各社の生産や販売にも打撃となる可能性が出てくる。

第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏は、事故発生現場が、上海を中心とする「長江デルタ」、香港・広州周辺で深圳を含んだ「珠江デルタ」に次ぐ、3つ目の経済圏として中国が重視してきた天津・北京の「京津経済圏」の中心に位置する先端開発ゾーンであると指摘。

日系企業だけではなく、欧米企業も多数進出し、港湾や他の物流システムが復旧するのに時間がかかれば、日米欧やアジアにおける供給網(サプライチェーン)にも打撃が及ぶことになると懸念する。

そのうえでサプライチェーンに打撃が生じれば、2011年の東日本大震災や2015年の米港湾ストのように、当初の見通しを超えて企業の生産活動を下押しする要素になることを警戒するべきだと述べている。

私は8月の中国輸出・輸入データがこの影響を受け、かなりの規模で下振れするリスクがあると予想する。それは日本企業の現地生産減少や日本からの輸出減少として、マイナスの影響が波及することを意味する。

<原油30ドル台のシナリオ>

一方、米原油先物CLc1は19日に一時、1バレル40.15ドルと約6年5カ月ぶりの安値を付けた。直接のきっかけは米エネルギー情報局(EIA)が発表した週間在庫統計で、市場在庫が予想を上回って大幅に増加したことだ。

だが、根底には中国経済の減速によって、世界の原油需要が早期に回復を見込めないという「構造問題」がある。

マーケットでは、40ドルを割り込んで30ドル台での推移が長期化するとの見通しが台頭してきた。需要サイドでも、イラン産原油の市場への流入やサウジアラビアの増産観測、米シェールオイルの増産見通しなど、価格を押し下げる要因が目白押しとなっている。

中国経済の減速がしばらく継続するようなら、原油価格の下値模索も連動して進む公算が大きくなっていると指摘したい。

<分岐点に差しかかった日本経済>

その場合、どういう影響が日本経済に波及するのか──。中国経済の減速長期化は、日本の輸出・生産に下押し圧力がかかり続け、日本経済の需要サイドを冷え込ませる要因になる。

7─9月期からの景気反転と10─12月期以降の回復加速を展望してきた政府・日銀にとって、このシナリオ実現はかなりのショックになるに違いない。

また、仮にゼロ近辺の成長率が続くなら、需給ギャップのプラスを通じて物価を押し上げるメカニズムに力が入らなくなるリスクも出てくる。

そこに原油価格の下落で日本の消費者物価(除く生鮮、コアCPI)がマイナス幅を拡大し、マイナスで推移する時間が長期化した場合、日銀が重視する期待インフレ率に影響を与える可能性も出てくる。

一方、原油価格の下落は、企業や消費者にとってはコスト圧縮効果をもたらす「福音」となる。また、原油以外の商品価格にも値下げ圧力がかかり、企業には原材料コストの圧縮、消費者には食料品価格の値上げ圧縮につながる。

このプラスとマイナスの効果が、全体としてどのような影響を日本経済に与えるのか、政府・日銀の「判断能力」がこれから試されることになる。

もし、マイナス効果を過小評価する事態に陥れば、国内景気の落ち込みが予想以上に大きくなり、コアCPIのマイナスが長期化することも予想される。

他方、マイナス効果を過大評価し、プラス効果を抑制的にみて、マクロ政策対応を実施した場合、その政策が「やり過ぎ」となって、市場の思わぬ混乱を生む可能性もある。

私は、マイナス効果が先に表面化すると予想する。その際に中国減速の影響が、今の想定よりも巨大化するリスクを念頭に置くべきだと考える。プラス効果は後から来るが、先行したマイナス効果で空いた経済的な「穴」が大きくなれば、後からきたプラス効果でその穴を埋め切れないことも想定しておくべきだと考える。

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