「政策」

画像の説明 誰もいない教室のドアに取り付けられたさびた南京錠、ちらばる白紙の卒業証書、そして、ほこりまみれで人けのない静かな廊下――他県よりもいち早く一人っ子政策を進めた中国東部の江蘇省(Jiangsu)如東(Rudong)県では、近い将来、同国に訪れるであろう高齢化社会がすでに顔をのぞかせている。

児童の数が減少し続けている如東県では、教育施設の規模を縮小し、かつては、にぎやかだった工業中等教育校の8階建ての校舎も今はがらんとしている。

如東県は、中国共産党指導部が一人っ子政策を全国的に推進するのを前に、避妊手術や人工妊娠中絶、そして女性に対する極めて個人的な検査を自発的に行ってきた。

規制を厳格に施行したことで如東県は当局に称賛され、政府が政策を施行・管理する上での「模範県」となった。

しかし現在の中国は、労働人口の減少と急速な高齢化に直面しており、政府は出産を奨励するために規制を緩和しはじめている。

それでも、如東県でこの政策を推進してきた約1世代前の人々は、自分たちの実績を今も誇りにしている。

「私たちの県の学校には子どもが2人以上いる教師は一人もいませんでした」と、現在、廃校になったこの学校で女性職員の健康診断を担当していた元医師の男性は話す。

ガラスの破片が散らばり、雑草がコンクリートの割れ目から生えている廃校の運動場で取材に答えたこの男性は、「如東県は中国の家族計画の模範であり、この学校が如東県の模範なのです」と付け加えた。

中国は、国の繁栄の鍵を握る要素として一人っ子政策を長らく擁護してきた。「若者の大半が国外や上海(Shanghai)のような大都市で働く機会に恵まれるようになったのも、一人っ子政策のおかげです」と元医師の男性は政府の考えを代弁するように話した。

しかし、中国の専門家は、中国の労働人口――昨年末に政府が発表した労働人口の推定は約9億1500万人――は、2030年までに約4000万人減少するとみている。国連(UN)の試算によると、2000年には60歳以上の人口は世界で20%、中国で10%だったのに対し、2050年までには中国で同30%に急増するとされている。

■「超高齢化」の波

国営メディアによれば、人口100万人のうち、65歳以上の割合が5分の1を占める如東県は、国内初の「超高齢」地区に分類されることになる。最近では、高齢者向けの教育施設も新設された。中国では近年、高齢者が外国語からITスキルまで何でも学べる専門の大学が多数作られてきた。ここもその1つだ。

上海の北方数時間の距離にある如東では、若い世代の多くが子どもを自分の親に預け、仕事のために町を離れるという。

大学の周辺では、1日の授業が終わると、孫を出迎える祖父母の姿が数多く見られる。校門で孫を待っていたワンさんと名乗る男性は、「孫の面倒を見るのは、この国の高齢者全員の義務ですよ」と話し、「私の子どもは、家族を養うために働くことで忙しいですから。大変ですが、今の中国ではどこでも同じような生活を強いられています」と続けた。

中国紙・南方週末(Southern Weekly)が報じたところによると、大学進学のために如東県を離れ、卒業後に故郷に戻る若者は全体の3分の1しかいないという。多くは、卒業と同時に他の町で就職するためだ。

一人っ子政策の代償は、地元社会と個々の家庭にも重くのしかかる。

中国では伝統的に長男が一家の大黒柱となり、通常は核家族で夫側の両親を養う。しかし、9年間に息子を病気で亡くしたというザンさんは、現在、亡くなった息子の妻からの仕送りで生活している。女性は化粧品の販売をしているが、1か月の収入はわずか2000人民元(約4万円)。この収入でザンさんへの仕送りと自分と娘の生活費を捻出しなければならないのだという。

「うちの台所は火の車ですよ」と、如東県の農村地帯に住むザンさんは、亡くなった息子の昔の写真を眺めながら、眼鏡の下の涙を拭った。

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