「凄い」

画像の説明 造ったそばから車が売れていくーー。「スバル」ブランドの自動車メーカー、富士重工業は絶好調の米国市場で贅沢な”悩み”を抱えている。

2014年に新型モデルに刷新した主力のSUV(スポーツ多目的車)の「アウトバック(日本名:レガシィ アウトバック)」は、発売直後から品薄状態が続く人気ぶり。富士重工業の吉永泰之社長によれば、4月の米国販売は約1万2500台(前年同月比17.6%増)だったが、全米のディーラーの在庫は4400台。つまり、たった10日分の在庫しかなかった。スバル全車種の平均在庫日数は20日強だから、アウトバックは極端に少ない。

「まったく足りないと言われている」

契約を済ませて納車を待つ日本のユーザーと違い、米国のユーザーは店舗にある車をその場で購入して乗って帰る習慣がある。売れ筋の在庫が不十分だと販売機会の損失につながりかねない。現地のディーラーからは「まったく足りないと言われている」(吉永社長)のだという。

アウトバックとセダンの「レガシィ(日本名:レガシィB4)」の2車種を造っている米国工場の能力は年間20万台で、ここから米国内とカナダに供給される。ただ、両車種の米国での月間販売台数は発売以来、1万5000~2万台弱で推移しており、年間20万台を超える水準だ。残業や休日出勤で可能な限り生産を増やしても、十分に在庫を用意できていない。

同社が5月8日に発表した2015年3月期決算は、売り上げ、利益ともに2ケタ増を達成。米国の販売台数は前年比約2割増の52万7000台と、7期連続で過去最高を更新した。この7年間で3倍近く増えている。2016年3月期は米国で5%増を見込み、カナダと合わせた北米の販売計画は60万台。中期経営計画で掲げている目標を4年も前倒しで達成する勢いだ。

そこで今回、米国工場の生産能力増強を決断した。従来、2016年末までに現在の年20万台から年32.8万台に引き上げ、さらに2020年度までに年40万台程度に増やすことを視野に入れていた。だがそれを2016年末までに年39.4万台へ引き上げる。2016年に受託生産を終えるトヨタ自動車のセダン「カムリ」の製造ラインを転用して新たに「インプレッサ」の米国生産を始め、レガシィとアウトバックの供給も増やす。

「工場は一度構えたら、後でそう簡単に変動させられない」と生産能力の増強には慎重な考えを示してきた吉永社長© 東洋経済オンライン 提供 「工場は一度構えたら、後でそう簡単に変動させられない」と生産能力の… 吉永社長は常々「供給が需要に少し足りないくらいがちょうどいい」「在庫の山ができてインセンティブ(販売奨励金)を増やして売るわけにはいかない」と、供給能力の拡大には慎重だった。それだけに、今回の前倒し増強は”大胆”な決定にも映る。

ただ、5月8日の決算会見では、「供給過剰にならないように計算した上での決断。2015年は新型車が1つもなく心配していたが、予想外に好調を維持しているのは大きい。2016年以降はインプレッサを皮切りに新型車が相次いで出てくる」(吉永社長)と自信を見せた。

むしろ懸念は、インプレッサの生産を米国に移管した後の国内生産だろう。「フォレスター」など他車種の北米輸出は続くが、次に重視する日本や中国での売れ行きが芳しくない。2016年3月期は日本が11.4%減の約14万台、中国も7.7%減の5万台と前期実績を下回る計画で、今後の巻き返しが重要な課題といえる。吉永社長も「この先の舵取りは難しい。北米と中国、国内のバランスをどう取るべきか考えている。国内工場の操業度低下は避けたい」と語っている。

「ヘルメットをかぶっていく」

もっとも、全体で見れば2016年3月期も業績は過去最高を更新する計画だ。営業利益率は16.6%を見込んでおり、円安効果が大きいとはいえ、世界の自動車メーカーでもトップクラス。収益の牽引役は、今や販売台数の6割近くを占める米国が担っている。

今月中旬、吉永社長は米国で開催される全米ディーラー大会に出席する。「ディーラー側にはスバル車のために投資する意欲がいくらでもある」(吉永社長)というだけに、米国工場の能力増強は、品薄に泣くディーラーに対する”誠意”ともいえる。

「(供給増を急かす)ディーラーにたたかれるといけないからヘルメットをかぶっていかないと」吉永社長がこんなジョークを飛ばせるのも、思い切った決断を下したからこそだろう。

スバルの米国シェアは3%を少し超える程度。逆に言えば、アクセルを踏み込めば拡大の余地は十分にある。今後、設備過剰に陥ることなく「足りない」とせっつくディーラーからの要望にどこまで応えていくのか。好調が持続すればするほど、追加投資の判断がより難しくなりそうだ。

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