「銀行」

画像の説明 企業同士のなれ合いを助長すると批判されてきた株式の持ち合いだが、今その解消への期待がにわかに高まっている。

その中心にいるのが、解消が進まない元凶とされてきた銀行だ。ガバナンス改革の一環で解消への積極姿勢を打ち出しているのだ。ただ、その裏では銀行が抱えるさまざまな事情が浮かび上がる。

「みずほはよくあそこまで踏み込んだな」。6月1日、3メガバンクグループの一角、みずほフィナンシャルグループ(FG)が公表したある文書を見て、銀行界はざわついた。ただ、その言葉には単純な驚き以上に皮肉も込められていた。

「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」。みずほFGが公表したその文書には、今の株式市場で最大の関心事へのメッセージが込められていた。政策保有株、いわゆる持ち合い株に対する方針だ。

「意義が認められる場合を除き、保有しないことを基本方針とする」

持ち合い株に関しては、三菱UFJFGも三井住友FGも削減の方向を示している。ただ、みずほFGの「原則持たない」という方針はひときわ強さを放った。

そんな持ち合い株をめぐる動向が今、銀行界に限らず注目の的だ。背景には、安倍政権肝いりの「コーポレートガバナンス・コード」(企業統治指針)の適用がある。企業が成長と企業価値向上のために実践すべき指針として、政府の成長戦略の一環で作成された。この中で持ち合い株は、保有の合理性を説明するよう書かれている。

株式持ち合いは戦後に始まり、安定株主対策として日本中に広がったが、「物言わぬ株主」を生み出し、日本企業の資本効率を落としている元凶だと批判されてきた。

それが、新たな指針の適用で解消が一気に進むと期待されているのだ。中でも、昔から持ち合い株を多く保有する銀行が解消に向けて積極姿勢を打ち出していることは、株式市場から大歓迎された。

ただ、すでに3メガの持ち合い株は縮小傾向にある。2002年3月期と15年3月期の保有株式残高(取得原価ベース)を比べると、三菱UFJFGは9.2兆円から2.8兆円、三井住友FGは5.4兆円から1.7兆円、みずほFGは7兆円から2兆円弱に減っている。

これは株価急落で銀行の財務が傷み、融資ができないという事態を避けるためだ。保有株の資本コストに見合った収益が得られているのかが厳しく問われ、持ち合いは難しくなりつつある。

とはいえ、銀行の営業現場の事情を知れば、さらに持ち合い解消が進むとは、にわかには信じられない。

本部と現場の乖離に“裏技”使った抜け道、ボトルネックが散見

銀行といえば融資を盾に「優越的地位の濫用」ができるほど取引先に対して強い印象があるが、持ち合い株の売却交渉において、それは当てはまらない。銀行はメインバンクの立場や融資などの取引を維持、拡大するために取引先の株を保有してきたからだ。

中でも、みずほFGの立場は弱い。03年、深刻な資本不足に陥ったみずほFGは、1兆円もの増資を親密取引先に引き受けてもらう“荒業”を強行したからだ。さらに09年に5300億円、10年に7500億円の増資を断行し、みずほ株は大幅に希薄化。金融危機の中で業績不振による株価下落も重なり、「奉加帳増資」に付き合わせた取引先に多大な迷惑を掛けた。

冒頭のみずほFGに対する銀行界の「皮肉」とは、そのみずほFGが、持ち合い解消に向けて3メガで最も強い意思を表明したということに対するものだったのだ。

本部と現場の乖離に“裏技”使った抜け道
ボトルネックが散見

そんな中で持ち合い解消を進めてきた銀行だが、「売れるところはもう売ったというのが正直なところ」(メガバンク関係者)だ。

そして、持ち合い解消の方針を掲げる本部と現場の温度差は広がる一方だ。企業としては銀行に、都合のいい「物言わぬ株主」でいてもらいたい。そこへ株の売却交渉を持っていけば「他行に取引を奪われそうになった」(メガバンク営業担当者)なんてことも起きる。

口には出せないが、「売却交渉を本部がやってみろ」という不満を抱えている銀行の現場担当者は多い。銀行OBが何人もお世話になっている企業ならなおさらだ。「どの口が持ち合いの合理性なんて言うんだ」(別のメガバンク営業担当者)というのが本音だ。

また、「持ち合い株を保有し続けるために、本部が求める収益性を達成できるよう取引の拡大をお願いします」という、解消と逆行するセールストークを使う営業現場もあるという。

さらに、かつて地方銀行の中には、規制の関係で子会社の株を自分では持てなくなった際に、持ち合いの“裏技”を使って乗り切ったところもあるという。子会社の株を2行で持ち合うとばれてしまうので、地銀数行でつくったグループ内で循環持ち合いをするという“密約”を結んだというのだ。

このように、持ち合い株の解消は、銀行ならではの事情や本部と現場の乖離、抜け道などさまざまなボトルネックが存在する。株式市場の期待は高まる一方だが、羊頭狗肉に終わるリスクも大きいことを忘れてはならない。

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