北米襲う「キャトルショック」…食肉や皮革暴騰、

画像の説明 「シェール革命」でカウボーイも消えたダブルパンチ

北米で畜産・関連業界がパニックに陥っている。ここ数年の記録的な干ばつで牛の飼育頭数が激減しているためで、経営難に陥る業者が後を絶たない。「シェール革命」で労働者が石油業界や製造業に流出する動きも顕在化し、「『キャトル(牛)ショック』がやってきた」(ブルームバーグ)と伝える米メディアさえあるほど。輸出も伸び悩み、日本など世界への影響も拡大しそうだ。

吉野家も悲鳴

「もはや企業努力では補えない。苦渋の決断だ」

平成26年12月17日から牛丼を大幅値上げした吉野家。記者会見で顔をしかめた河村泰貴社長が恨み節を向けたのが、同社の予想を超えるスピードで進む「米国産牛肉の高騰」だった。

牛丼などに使われる米国産牛バラ肉(ショートプレート)の価格は、25年の9月には1キログラム当たり500円台で推移していたが、急ピッチで切り上げ、1年後の26年9月には1000円の大台を突破。記録的な高値圏で推移している。

肉牛農家が減少していることに加え、ここ数年の相次ぐ干ばつで餌となる牧草が不足し、牛の飼育頭数が過去最低水準にまで落ち込んでいるためだ。

とくに被害がひどいのが米国で牛生産量が最大のテキサス州。州内の半分近い地域でこの3年間はほとんど雨に恵まれず、大地はひび割れ、牧草が次々と枯れた。米メディアによると、牧場の規模を縮小したり、牛の売却や処分に追い込まれる畜産農家が続出しているという。

そもそもここ最近、畜産農家は子牛の生産を縮小する傾向にあった。干ばつで飼料となるトウモロコシの価格がやはり高騰していたためだ。そのトウモロコシの価格は12年のピーク時からは下がりつつあるが、牧草不足の深刻さが帳消ししてしまっている状況だ。

外食業界も同様だ。米国人が大好きなステーキのレストランやハンバーガーなどのファストフード店と、その店に牛肉を卸す業者は悲鳴を上げている。

シカゴでメキシコ料理店を何店舗も展開するブリトーチェーンのシェルソン最高経営責任者(CEO)は、米紙ウォールストリート・ジャーナルに対し、「レストランの選択肢は限られている。利益の縮小を甘受するか、値上げで顧客に負担を強いるか。あるいは顧客の望む価格に合う商品構成を考えるかだ」と指摘する一方で、「パニックになっている人もいる」と不安を訴える。

畜産農家だけではない。牛皮はバッグや靴、高級車の内装などの材料になる。つまり皮革業界も経営が厳しくなっているのだ。

「この2年は悲惨としかいいようがない」。犬用の首輪などを製造しているオーバーン・レザクラフターズ(ニューヨーク州)のダンジェイ社長は、ブルームバーグの取材に顔をこわばらせる。材料に使う皮革の価格は足元で1フィート(約30センチ)あたり8・25ドル(約972円)前後と、2年で83%も跳ね上がった。その結果、同社として過去最大となる10%の値上げで価格転嫁せざるを得なかったという。

また、とくに上質の牛革には代替となる材料がなかなか見つからず、業者は追い詰められている。老舗ブーツメーカーのウルヴァリン・ワールド・ワイドは、自社製品の多くで、皮以外の素材や、皮とほかの素材の混合について、見直しを進めている。

皮革業界にとってつらいことに、供給が難しくなる一方で、「シェール革命」で好調な米経済を象徴する新車やブランド品の販売の伸びに伴い、皮革への需要は伸びていることだ。ブルームバーグは、米国民の2014年の皮革製品への支出額は約215億8千万ドルと、少なくとも14年ぶりの高水準に膨らむとの調査会社の予測を示している。

世界的な原油安を引き金に、ロシアなど原油収入に頼る新興国経済の変調が「逆オイルショック」として世界を揺さぶっているが、ブルームバーグは、米国はオイルショックならぬ「キャトルショック」に初めて襲われ、皮革各社が頭を抱えていると指摘した。

牧場から人も流出

そのシェール革命は、「ダブルパンチ」となって畜産業界を襲っている。ブルームバーグは、カナダで、カウボーイや牛肉処理施設で勤務する人々が石油業界へ次々と移っていると伝えた。

カナダ各州の農場や牧場の大半がある大平原(の油田)でエネルギー投資が拡大して、カナダ国内の原油生産が過去最高水準に増加。ガソリン価格が3年ぶりの安値水準をつけている。これにより、リグ(掘削装置)やパイプ操業関連の労働者の給与が畜産業を上回り、人材流出を引き起こしているというのだ。アルバータ州政府が13年に行った調査によると、畜産業界で勤務する労働者の年収は平均4万4870カナダドルなのに対し、石油業界は7万3105カナダドルで6割超も上回った。

サスカチワン州で牧場を営むティム・スチュワートさんは4千頭の牛を飼育しているが、ブルームバーグに対し、「労働者を見つけるのは不可能だ」と嘆き、牧場の売却も検討しているという。

世界的に指摘される異常気象で干ばつが近年増えている。2015年も干ばつが北米を襲うようなら、畜産業者や関連業界は、一段と深刻な打撃を受けるのは必至で、日本など世界各国もその余波を受けそうだ。

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