日立、「英国1兆円高速鉄道」の次に狙うもの

画像の説明 現地生産も始まり欧州大陸進出へ歩を進める

鉄道車両がクレーンで吊り下げられ、工場構内からゆっくりと港へ向け運ばれる。日立製作所の笠戸事業所(山口県下松市)の従業員が大勢でその様子を見守る中、船に積み込まれた。日立の交通システム社社長の正井健太郎氏は「世界市場に向けた大きな出発点」と感慨深げに語った。

日立は1月7日、英国の大規模プロジェクト、都市間高速鉄道車両置き換え計画(IEP)用の鉄道車両の出荷式を行った。笠戸事業所から船で神戸港へ運ばれ、大型船に積み直しを行った後、今月20日頃英国へ向け出発。英国には3月に到着する予定だ。その後、車両の復元作業を行って、走行試験用の各種測定器などを搭載し、4月から乗務員の訓練を兼ねた走行試験を開始する。

IEPは2012年7月に日立が英国から獲得した大型案件だ。13年7月の追加受注分を含めて合計866両の車両製造と27年半にわたるメンテナンス事業を総額57億ポンド(約1兆円)で受注した。2009年に優先交渉権を獲得してから出荷するまでに6年間が経過した。笠戸事業所で76両が製造され、残りの790両は現在建設中の英国北東部のダーラム州の工場で製造される。英国の工場は今年夏頃に竣工し、2016年には生産を開始する。

日立はIEPより前、05年にはロンドンと英仏海峡トンネルを結ぶ高速鉄道CTRLを受注し、納入した実績がある。この時は国内で製造した車両を英国まで運んでいた。日立の鉄道事業にとって現地工場で本格的に生産するのは初めての試みだ。正井氏は「(今後は)現地の車両は現地で製造する。このIEPからそのポリシーでスタートする」と述べ、基本的には現地で生産し、足場を築いていく方針を示した。

2014年10月にはエジンバラ~グラスゴー線(予定)の近郊車両、234両70編成と長期保守契約の優先交渉権を獲得するなど、英国での大型案件が続く。だが、日立にとって英国は欧州進出の足掛かりに過ぎない。正井氏が「英国でビジネスの基礎や地位を築きつつある。英国の工場をベースとして欧州大陸にビジネスを進出させたい」と話すように、日立が次に狙うのは鉄道車両の置き換えが多く見込める欧州大陸だ。

ただ欧州にはすでに鉄道ビッグ3(仏アルストム、加ボンバルディア、独シーメンス)が足場を築いており実績も数多くある。欧州大陸に基盤を作るにはM&Aで規模を拡大させる必要もある。日立は現在、イタリアの防衛大手フィンメカニカとの間で、その傘下にある鉄道信号のアンサルドSTSと車両事業のアンサルドブレダの買収に向け交渉しているとみられる。

車両から電装品、保守の技術を持つ日立が、次に欲しいのは利益率のよい信号だ。信号といっても単純なものではなく、列車間隔を調整し、運行管理なども行う。アンサルドSTSの買収によって、同社が持つネットワークや技術を生かし、規模拡大を狙う。買収が成功すれば、現在の鉄道事業の売上高約1700億円が4000億円以上になり、2倍以上の規模に膨らむ。

2014年末にも買収結果が出るとの観測もあったが、結果はまだ出ていない。英国で鉄道案件を次々と獲得し、欧州で存在感を発揮しているだけに買収が実現すれば欧州大陸でのビジネスが進むことは間違いない。

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