中国に狙われ、のみ込まれるタイ…

画像の説明 「それでも日本は見捨てない」の楽観論も

今年末の東南アジア諸国連合(ASEAN)経済共同体(AEC)発足を前に、中国が東南アジア地域への影響力拡大に躍起だ。ASEANのなかでも中国と陸続きのメコン地域は、中国の権益と直結しており、莫大(ばくだい)な援助を手に進出スピードを早める。そのなかで、中国が今、ターゲットとしているのがタイだ。

メコン地域へ進出加速

その舞台となったのが昨年末、バンコクで開かれた第5回大メコン圏(GMS)首脳会議だ。GMSとは、1992年にアジア開発銀行(ADB)のイニシアチブで始まったメコン地域開発の枠組みだ。

今回の会議にはメコン川流域のタイと、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム(CLMV)各国首脳に加え、これまで閣僚クラスの参加にとどまっていた中国から李克強首相(59)が初めて参加した。

会議では、2014年~18年のGMS地域の投資枠組み実施計画を採択し、この計画に基づく交通インフラ整備、エネルギー開発、人材育成など92の事業に総額300億ドル(約3兆6000億円)を投資することなどを確認した。このうち、90%は鉄道や交通インフラ整備に関わるものだ。

会議で、李首相は、域内での鉄道や道路など交通を中心としたインフラ整備の資金として10億ドル、貧困削減のために4.9億ドルの援助と、ほかに特別貸付金100億ドルを約束。全体計画の大半を負担する姿勢を見せた。

ASEAN経済共同体の成功のカギは、各国間の連結性(コネクティビティ)の強化だ。つまり、域内各国の人や物の動きをいかにスムーズにできるかが重要となる。AEC発足まで1年となり、東西回廊、南北回廊といった経済回廊が貫くメコン各国の連結性の強化は、ASEAN全体はもちろん、メコンとつながっている中国にとって大きなメリットがある。

さらに中国としては、米国のアジア回帰政策と日本のアジア重視の姿勢を牽制(けんせい)するためにもメコン地域は是が非でも押さえたいところ。今回のサミットでの李首相の気前の良さは、そんな中国の思惑を見事に示している。

そのなかでタイは、地理的にも経済的にもGMSで中心的な位置を占める。今回、中国がタイのプラユット・チャンオチャ首相(60)との会談で、鉄道開発を中心に多額の支援を表明したのは、メコン地域を牛耳るうえでのタイの重要性を見据えたものだ。

鉄道建設で日本出し抜く

一方、タイ政府もこうした中国の姿勢を歓迎する。クーデター後、そのまま政権の座についたプラユット首相は、李首相との首脳会談で、タイ・ラオス国境のノーンカイ県から、中部サラブリー県ケーンコイを経由し、東部ラヨーン県マープタープット港までの南北縦断鉄道(734キロ)と、ケーンコイとバンコクを結ぶ新線(133キロ)の2路線の建設を中国の支援で進めることで合意した。タイの鉄道建設をめぐっては、日本も強い関心を持っており、昨年11月の日タイ首脳会談でも安倍晋三首相(60)が、鉄道建設への協力を提案したが、中国に出し抜かれた形だ。

GMSサミット終了後、北京を訪れたプラユット首相は、中国側に経済面でのさらなる協力を求めるとともに、タイが「地域のIT(情報技術)ハヴ(中心軸)になる」として、通信設備支援だけでなく、技術教育などの面での協力も要請。これに対し、中国政府は、通信大手のファーウェイ(Huawei、華為技術)が中心となって支援することを約束した。ファーウェイは人民解放軍から派生した企業であり、枢要な部分を中国に握られる可能性は否定できない。

タイ国内では、プラユット政権が中国寄りの姿勢を強めることへの懸念がある一方、タイが中国寄りの姿勢を強めても、長年、多額の投資を行ってきた日本は、タイを見捨てることはできないという楽観論があるという。しかし、タイの政情不安が続くなら日本からの投資が先細りになるのは確実だ。

タイがこれまで進めてきた「バランス外交」に立ち戻り、中国一辺倒の姿勢を修正しない限り、いずれ中国に飲み込まれてしまう可能性は高い。

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