権力闘争というパンドラの箱

画像の説明 周永康事件で習主席が開けた

中国の習近平国家主席が、長年の不文律を破り、最高指導者の1人だった周永康前中央政法委員会書記の党籍を剥奪し、逮捕する方針を固めた。反腐敗キャンペーンの一環と位置付けているが、権力闘争のにおいも強く漂う。今、中国政治の奥の院、中南海で何が起こっているのか。 

中国共産党中央が、汚職などの容疑で元最高指導部メンバーの周永康氏の党籍剥奪と逮捕、訴追することを決定した12月5日午後、中国の最高人民法院(最高裁判所)の周強院長は幹部を集めて緊急対策会議を開いた。間もなくして、最高裁のホームページに党中央の決定を支持する旨の声明が発表された。

これが波紋を広げる。周氏の身柄が司法機関に送られる前に裁判所が犯罪者のように扱う声明を出したからだ。10月末に閉幕した党中央総会で「法による支配の全面的推進」を趣旨とするコミュニケが採択されたばかりなのに、最高裁はそれを無視し、法律よりも党の決定を優先したことになる。

「中国の司法に絶望感を覚えた」「人治国家で裁かれる周永康はかわいそうだ」といった書き込みがインターネットには寄せられたが、ほとんどはすぐに削除された。

中国では警察、検察、裁判所などの治安、司法部門は全て共産党中央政法委員会の管理下にあり、周氏自身が、そのトップである政法委書記を2012年11月まで5年間務めた。共産党関係者は「周氏の直系の部署である最高裁がいち早く党中央支持の声明を出すことで、党が結束していることを内外にアピールする狙いがある。今の中国にとって政治的安定は何よりも優先される」と解説する。

習近平指導部への忠誠を示したのは最高裁だけでない。四川、山西、江西など10以上の省・直轄市と、中国石油など複数の国有企業からも、相次いで同様の声明が出された。いずれも周氏本人や腹心とされる元部下らが大きな影響力を持つ地域、部署、企業である。

建国から80年代まで続いた党内抗争の再現を危惧する声

しかし、党中央への忠誠をいくら誓っても、「周氏に近かった」と判断されれば最終的に「粛清される運命から免れない」というのが多くの党関係者の見方だ。

香港メディアなどによると、周氏の妻と2人の息子、その妻など一族はすでに30人以上が拘束。歴代秘書、運転手、たまたま一時的に部下になった官僚を含めると拘束者は500人を超えた。粛清は今も続いており、最終的に1000人を超える可能性があるという。

建国から80年代まで続いた
党内抗争の再現を危惧する声

1980年代に中央政府で要職を務めた党古参幹部は「古い政治手法による権力闘争が久しぶりに始まった。習近平はついにパンドラの箱を開けてしまった」と話す。

この古参幹部によれば、周氏の訴追について最後まで党内で慎重論が強かった。李鵬元首相や宋平元政治局常務委員など一部の長老は、かつての最高実力者、鄧小平氏の「刑不上常委」という言葉を引用して反対し続けたという。

「刑不上常委」とは最高指導部である政治局常務委員経験者の刑事責任は追及しないという意味だ。党内対立が89年6月の天安門事件を誘発したことへの反省から、鄧氏が直後に残した言葉とされる。以降、党内の不文律となった。

集団指導体制を取る中国では、党の最高指導部メンバーになれば、ほかのメンバーに干渉されない担当分野があり、人事も予算も思うように動かすことができ、そこで絶大な影響力を持つ。常務委員を失脚させようとすれば、必ず大きな抵抗に遭うし、担当分野で大粛清せざるを得なくなるため、社会の混乱を招く可能性が高い。

現職、元職にかかわらず常務委員は皆、大なり小なり経済問題を抱えている。温家宝前首相や曽慶紅元国家副主席など、家族の不正蓄財が欧米メディアなどに大きく報じられたケースも少なくない。

習主席主導の反腐敗キャンペーンの中止を求める動きが

1人でも失脚者が出れば、ほかの常務委員は「次は自分の番では」と疑心暗鬼となり、「やられる前に政敵を倒すしかない」と動き始める可能性がある。結果として、党内の権力闘争が一気に激化する。

事実、建国後から80年代まで、中国では激しい権力闘争が続いた。当時、政敵を倒すときの口実は「腐敗」ではなく、「反革命罪」だった。鄧氏が「刑不上常委」を言った89年以降、抗争は沈静化し、最高幹部の失脚は25年間も起きなかった。江沢民、胡錦濤の2人の元国家主席が鄧氏の教えを守ったことが最大の理由とされる。

それは習主席によって破られた。石油業界と治安部門に大きな影響力を持つ実力者である周氏を倒すことで、多くの利権を手に入れると同時に、習主席自身の求心力を高めたいという思惑もあった。

しかし、周永康事件以降、党内での緊張感が一気に高まり、15年夏に開かれる予定の北戴河会議に向けて、習主席主導の反腐敗キャンペーンの中止を求める動きが始まっているという。

「不安に感じる党長老は多いが、習派にとって反腐敗は政敵を倒す重要な武器。簡単に手放すはずがない」と語る共産党関係者。血で血を洗う党内抗争の再現を危惧する声が高まっている。

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