中国的漫画進化

画像の説明 海賊版・検閲にも負けず

中国の漫画市場が進化している。海賊版や検閲など独特の壁をはねのけながら育ち、いまはネット配信に期待がかかる。日本に逆輸入される作品も出てきた。

■一人っ子世代、「好き」が仕事

上海・虹橋空港近くの展示場。11月中旬に開かれた漫画やアニメ好きが集うコミックマーケット「魔都同人会」。コスプレ姿の若者もいきかう。ポスターやフィギュア、同人誌などを売る会場の一角に、サイン会でファンと向き合う女性漫画家ふたり組がいた。

彼女らの名は「NAVAR(ナバール)」。講談社が2012年5月から中国で発行する月刊漫画誌「勁漫画(チンマンホワ)」(8元=約150円)に、創刊号から「CARRIER 携帯者」を連載している。人間と異能者が共存する近未来社会を舞台にしたサスペンスだ。

「絵がとってもきれいで好み」。サインをもらって喜ぶ女子学生(22)は浙江省杭州の大学でアニメを専攻している。彼女たちからの刺激もあって、来夏からは日本へアニメを学びに留学するという。

本名、年齢、出身地は「秘密」だが、2人は「80後」(パーリンホウ、1980年代生まれの意)と呼ばれる改革開放後にうまれた一人っ子世代である。経済成長を享受しながら、「好き」を仕事にすることができた。

「ドラえもん」「美少女戦士セーラームーン」から「幽遊白書」「封神演義」まで、正規、海賊版問わず日本の作品に囲まれて育った。「将来を考えて」漫画から離れる友達が多いなか、「好きで選んだ」北京電影学院のアニメ芸術学科で出会う。卒業後、そろって北京のゲーム会社にデザイナーとして就職したものの、漫画が忘れられない。2人で組んで同人誌に発表したところ、講談社の編集者にスカウトされた。

「中国の漫画産業は成熟しておらず、会社勤めより不安定」と悩みつつも、「ここを逃すとチャンスはない」とプロに転じた。北京で2人で借りたアパートの一室が仕事場。中国では漫画は基本的にパソコンで描く。「日本式」な編集者との綿密な打ち合わせもこなしながら、毎日10時間ほど画面に向かう。

■日本の出版社、現地化に挑戦

「勁漫画」の発行部数は10万部。作家約20人はすべて中国人で、同人誌や新人賞の企画で発掘する。講談社の漫画の現地法人は約20人で、日本の編集者も常駐する。作家、編集者、雑誌、作品ともに「現地化」への挑戦は漫画業界ではめずらしい。NAVARの作品は日本の「別冊少年マガジン」へ逆輸入され、単行本にもなった。

この戦略の背景には、中国の外国漫画への厳しい審査がある。現地の出版社幹部によると、日韓など合計で年10本ほどしか認められない。暴力、性、政治などにかかわる検閲だけでなく、国内業界を保護する狙いもあるとみられている。

白石光行・講談社(北京)文化有限公司会長は「壮大な実験です。日本のノウハウを根づかせるとともに、アニメやゲームのコンテンツにつながるような作品を生み出し市場を広げたい」と話す。

■受験戦争、親に隠れて懸賞応募/雑誌販売に陰り、ネット配信へ

北京中心部にある「王府井書店」。6階まで売り場のある大型書店だが、漫画売り場は2階の児童書コーナーの片隅にひっそりとある。「ワンピース」「NARUTO」といった日本の人気マンガが並ぶ中、国産の漫画を手に取る子供はまだ少ない。

中国で漫画は、アニメとひとくくりにされ「動漫」と呼ばれる。北京電影学院中国アニメ研究院などがまとめた「中国動漫産業アニュアルリポート(2014年版)」は、全体の産業規模が13年に870億元(約1・7兆円)に達したとするが、多くはアニメが占めると見られる。漫画市場は12年に8・5億元(約160億円)との民間調査会社の推計もある。

中国政府は今世紀に入り、海外からの輸入を規制しつつ、国産の漫画・アニメへの財政補助などの振興策に力を入れてきた。だが、既に「作り過ぎ」とまで言われるアニメや、日本を上回る市場規模を持つとされるゲームと比べ、娯楽としての漫画の存在感は薄い。背景に、漫画を読む習慣が、受験戦争に追われる子供たちに根付いていないことがある。

漫画雑誌につきものの読者アンケートでは、学校の住所を書いて応募する子が多い。懸賞のプレゼントが当たった場合、自宅に送られて親に漫画を読んでいると知られるのが困るからだ。暴力や性についての表現をめぐる当局の検閲が厳しいことも、作り手をひきつけにくいとされる。出版社側も慎重になっており、「進撃の巨人」も翻訳出版を当局に申請していない。

それでも市場は年5%程度の成長を続けてきたが、ここへ来て事情が変わり始めた。雑誌の販売が下り坂に転じる現象が、中国にもやってきたのだ。業界関係者は「100万部を超えていた代表的な週刊誌『知音漫客』も、大台を割った」と指摘する。上位でも10万部程度の発行部数にとどまる雑誌が多く、一般的な定価の5元(約100円)では採算割れも起きかねない。

代わって期待がかかるのが、スマートフォンなどへのネット配信だ。日本勢も、集英社が騰訊(テンセント)、講談社が網易といった中国のネット大手のサイトから配信する試みを始めている。成功のかぎは、ここでも、「パワーがある作品が、一刻も早く出ること」(大手出版社)。

中国の漫画家の「長者番付」によると、印税収入が13年に1億円を超えた作家は、まだ3人。より多くのヒットを生んで、才能のある若者をひきつけるだけの収入を示すことも、業界の急務だ。

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