米大学から締め出される中国「孔子学院」の現場…

画像の説明米が疑う中国政府“浸透目的”と“スパイ機能”

ジョージ・メイソン大学の孔子学院で中国語の授業を受ける生徒

米国の大学に中国政府系の文化機関「孔子学院」が浸透し、全米に100カ所近く設立されている。中国の語学と文化を教えるというのがうたい文句だ。しかし、中国の影響力を強めようという中国政府の戦略もちらつき、契約を打ち切る動きもある。何が問題なのか。ワシントン首都圏にある孔子学院の一つを訪ねた。

ジョージ・メイソン大学(GMU)の孔子学院はフェアファクス郡の広大なキャンパスの中心にあった。

「天冷了。我想買件毛衣」(寒くなってきた。セーターを買いたい)

地域住民や大学職員を対象にした中国語教室で5人の生徒が日常会話を練習していた。どこにでもあるような語学学校の風景だ。

「1980年代まではアジアの語学を学ぶとしたら日本語だったが、今はほとんどの米国人が中国語を選びます」

GMU職員のデービッド・ハーヴィーさん(26)は北京に2年間滞在した経験があり、中国語を忘れないために通う。

統計学を研究する大学院生(27)は「将来、中国人の同僚と仕事をすることになる」という理由で中国語の学習を続けている。

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「中国関連の協力が必要な学部などと共同で作業し、関係を築いています」

2009年に設立されたGMU孔子学院で米側の院長を務める高青氏(31)はこう強調した。その象徴がキャンパスにある4メートルほどの孔子像だ。

中国語を専攻する約200人の学生に語学を教え、一般向けのコースも割安の授業料で提供する。8人の教師は中国教育省直属の北京語言大学の教授や大学院生が派遣され、運用資金や教材を同省傘下で全世界の孔子学院を運営する中国の機関「漢(ハン)弁(バン)」が提供する。

こうした外国の機関による「学問の自由」への介入を嫌い、孔子学院を持っていたシカゴ大学やペンシルベニア州立大学が今年、相次いで漢弁との契約更改の打ち切りを決めた。

「大学の教育や研究を、外国政府の下請けに出したくなかったのです」

大学側に契約打ち切りを求めたシカゴ大学のマーシャル・サーリンズ名誉教授(83)は、請願活動を始めた動機をこう説明した。教授らの署名は110人分に上り、孔子学院は9月末、閉鎖に追い込まれた。

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ワシントンのシンクタンクが並ぶ地区にある、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)ライシャワー東アジア研究所。所長のケント・カルダー教授は、近所に現れた「孔子学院米国センター」に注目してきた。

昨年11月の開所式には中国の劉延東副首相が出席した。電話が通じないため日中に記者(加納)が2度訪ねてみたが、人の気配はない。

「孔子学院の公式の活動は語学教育だが、中国への好ましい認識を持たせて人脈を作り、場所によっては情報収集活動に従事しているのではないか」

カルダー氏は、中東での作戦を指揮する米中央軍が司令部を置くフロリダ州タンパに孔子学院があることを挙げ、こう指摘した。ワシントン首都圏にはGMUなど3カ所にある。

米国センターも近隣のシンクタンクや大使館に対する活動拠点だと、カルダー氏はにらむ。カナダ放送協会(CBC)によると、同国の情報機関、安全情報局の元高官も、孔子学院が情報収集の役割を担っている疑いがあると指摘した。

サーリンズ、カルダー両氏がともに問題視したのは、「中国共産党のプロパガンダ組織のメンバーで構成される」(サーリンズ氏)という漢弁傘下の孔子学院で、チベット問題や中国の人権状況などを議論する自由がないことだ。

GMU孔子学院の高氏は、学院でチベット問題を議論する機会はないといい、「語学プログラムの教師はそうした問題の専門家ではない。車屋で本を売っていないのと同じだ」と、理由を説明した。

しかし、サーリンズ氏の調べでは、孔子学院の教師は、問題あるテーマの議論を授業で避ける方法を学んでから派遣されるという。

ある種の検閲といえます。思想、表現、研究の自由に関する米国の基準に反している」。サーリンズ氏はそう語った。

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孔子学院 世界で展開する中国政府系の文化機関。言語や文化の普及を目的に、2004年から提携大学などへの設置が進み、14年11月現在で日本の14カ所を含めて約110カ国に430カ所ほどある。運営機関は中国教育省の傘下にある「漢弁」。資金、教員、教材は中国側から全面的に提供する。

ただ大学教育への関与による「学問の自由」との軋(あつ)轢(れき)もあり、米国大学教授協会やカナダ大学教員協会が契約更改を見合わせるよう勧告した。孔子学院を閉鎖する動きも広がっている。

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