デタラメ

画像の説明 デタラメばかりだった財務省とエコノミスト

消費税率8%によって、景気は反動減のレベルを超えて大きく悪化した。2014年6月27日、政府が発表した家計調査内にある「消費水準指数」を見ると、2014年5月の消費水準指数は対前年同月比でマイナス7.8%。東日本大震災が発生した2011年3月のマイナス8.1%以来という落ち込みだった。最近33年間における最悪値が2011年3月だから、なんと2番目に悪い数字だ。

また、機械受注統計の国内民需(船舶・電力を除くベース)の対前年同月比を見ると、過去2回の消費税増税時(1989年、97年)よりも数字が悪い。

国内民需は、民間設備投資の先行指標である。GDP(国内総生産)は民間消費、民間設備投資、公的部門、海外部門などで構成されており、このうち民間消費と民間設備投資でGDPの7割程度を占める。民間消費と民間設備投資の両者に黄色信号が出たのは、日本経済に黄色信号のサインが灯ったことを意味する。民間消費と民間設備投資が悪いのだから、景気も当然、悪化する。

以前、安倍総理から「増税をしたらどうなるか」と尋ねられたことがある。「景気は悪くなりますよ」と答えたが、事実そのとおりになった。予想されたこととはいえ、なぜこのような事態になったのか。

周知のように、消費税増税法は2012年8月に当時の民主党政権と自民党、公明党との三党合意で決められた。安倍政権が誕生した時点で、増税は法律によって決まっており、安倍総理自身は増税に懐疑的だといわれたが、2013年10月1日に消費税率を8%に引き上げることを決めた。

増税決定のプロセスに影響を与えたのは、「とにかく増税したい」というだけの財務省の意向と「増税の影響は軽微」と言い張る増税御用学者、エコノミストの意見である。

思い返すと一年ほど前、「消費税を増税しても景気に与える影響は軽微である」といった人のなんと多かったことか。彼らは、自らの発言にどうやって責任を取るつもりなのか。本稿では過去にさかのぼり、増税ありきの主張を続け、国民経済を潰した人たちの非論理性を検証することにしたい。

2011年、東日本大震災の発生後に伊藤隆敏氏(東京大学教授)、伊藤元重氏(東京大学教授)と経済学者有志が「震災復興にむけての三原則」という提言を行なった。2011年5月23日現在で、賛同者には浦田秀次郎(早稲田大学教授)、大竹文雄(大阪大学教授)、斎藤誠(一橋大学教授)、塩路悦朗(一橋大学教授)、土居丈朗(慶應義塾大学教授)、樋口美雄(慶應義塾大学教授)、深尾光洋(慶應義塾大学教授)、八代尚宏(国際基督教大学客員教授)、吉川洋(東京大学教授)各氏が名を連ねている。

この提言のなかで、復興のコストを賄うには消費税の増税が必要だといっている。記述を引用しよう。

「消費税は、資本も労働も、生産意欲を減退させにくい税であることから、経済成長に与える影響が軽微である。消費税率を5%から10%に引き上げることで、現在の消費税収入を倍増させるとして、毎年約10兆円程度の歳入増になる」

「『増税か、国債か』、という選択肢の立て方が間違いだ。正しい選択肢は、『今生きている世代が負担するのか、将来世代が負担するのか』、ということである。低成長、人口減少のなかで、次世代にツケを回すのは止めよう」

「消費税増税は、消費意欲を減退させ、景気後退を招く、という批判がある。しかし、二つの意味で、この批判はあたらない。第一に、復興のための政府投資、民間投資がおこなわれるために、来年度は投資拡大が予想されている。消費が減退しても、投資拡大で、総需要としては相殺されるので景気悪化にはつながらない。第二に、消費税率の引き上げ後には、消費が落ち込むということが知られている。しかし、それは数カ月で回復するはずだ。一方、予定された引き上げ時期の前には耐久財を中心として駆け込み需要が生じるので、本格的な投資拡大に向けて、前倒しで景気を拡大する」

いまにして見ると、いかに出鱈目ばかりを述べていたかがわかるだろう。

まず、消費税率の引き上げによる消費の落ち込みを「数カ月で回復するはずだ」と臆断している時点で、すでに誤りだとわかる。「数カ月」というのは、常識的には3、4カ月を指す。今年の家計調査における消費支出は対前年同月比の実質で見てマイナス4.6%(2014年4月)、マイナス8.0%(同年5月)、マイナス3.0%(同年6月)、マイナス5.9%(同年7月)。4カ月目に入ってもマイナス状態である。「経済成長に与える影響が軽微である」という点も、2014年4月―6月期のGDP成長率が前期比年率換算でマイナス7.1%になった事実が反証している。

「消費が減退しても、投資拡大で、総需要としては相殺される」がウソだというのも明らかだ。現実を見れば、政府がいくら公共投資の予算をつけても、建設現場は人手不足で、工事を執行しきれない。いわゆる供給制約が起きている状態だ。

また2014年7月度の鉱工業指数を見ると、生産はマイナス0.7%、出荷はマイナス0.1%。在庫は2.9%増である。出荷が減り、在庫が増えている状況で、設備投資をしようとする経営者はいない。まず在庫を捌(さば)くのが先決である。したがって「民間投資がおこなわれる」という箇所も間違っている。

さらに「引き上げ時期の前には耐久財を中心として駆け込み需要が生じるので、本格的な投資拡大に向けて、前倒しで景気を拡大する」という記述を実感した人がいるだろうか。増税前の駆け込み需要を記憶している人は多いと思うが、それをもって「前倒しの景気拡大」という人など、提言を書いた当人を含めていまや誰もいないはずだ。要するに増税を通すためだけの方便、ウソ話だった、ということだ。

「『増税か、国債か』、という選択肢の立て方が間違いだ」という記述も間違い。大震災が起こったときに、増税で賄うような国はない(あったら挙げてもらいたい)。長期国債を使うのがセオリーである。「課税の標準化(タックス・スムージング)」という理論があるように、課税のインパクトは薄く伸ばして緩和させるのが基本である。仮に百年に一度の震災だとすれば、震災の経済に与えるショックを百年にわたって広く薄く負担し、軽減させるため、百年債を発行して100分の1ずつ償還する。

ところが、財務省と御用学者たちは復興税という経済にダメージを与えるやり方を選んだ。

東日本大震災後の混乱のなかで、「震災復興にむけての三原則」のような意見が、まともな経済ロジックであるかのように受け止められたのは恐ろしいことである。それは前述のように日本を代表する経済学者たちが賛同し、増税に太鼓判を押したからだ。その背後には、彼らに「次世代にツケを回す」という偽ロジックを吹き込んだ財務省の存在がある。

仕事にやり甲斐はあるのだろうか

「いまにして見ると出鱈目」な話はまだある。以下は、消費税率が8%に上がる前の『日本経済新聞』2013年8月31日付の記事「消費税と経済成長率(「大機小機」)」からの引用である。

「消費税と実質経済成長率の関係を点検するため、最初に2013~14年度にかけてどんな成長パス(経過)が予想されているかを確認しよう。

第一線のエコノミスト40人の経済予測を毎月調査している日本経済研究センターESPフォーキャスト調査(8月)によると、成長率予測の平均は13年度に2.8%、14年度0.6%となっている」

「14年度の成長率が見かけ上、かなり低下してもあまり心配はいらない。成長率低下の最大の理由は駆け込みの反動であり、これは、国民福祉に影響するようなものではないからだ。14年度は駆け込みの反動で住宅や自動車の需要が減るから、何らかの対策が必要だという議論がしばしば出るが、これは不必要なのである」

この記事を書いた人は、署名に「隅田川」と書いてある。誰かは知らないが、現下の成長率低下に対して「何らかの対策」は「不必要」といまでも本気で思っているとしたら、次の朝刊で同じ事を書いてみたらどうか。必ず「空気が読めない人」と思われるだろう。

隅田川氏は何にも勉強していないだろうから論外として、問題は「第一線のエコノミスト40人」のほうである。事実上「予想は大外れ」なのに、その後も「消費税増税の影響は甚大」とは口が裂けてもいわない。なぜか。そんなことをすれば、財務省は次の消費税増税ができなくなってしまうからだ。プロのエコノミストとしての誇りや分析などはどこかに捨ててしまい、財務省の口真似で「消費税増税の影響は軽微」と言い続ける。仕事にやり甲斐はあるのだろうか、と他人事ながら心配してしまう。

さらに、2014年のESPフォーキャスト調査を見てみよう。同年4―6月期の実質GDP成長率を「第一線のエコノミスト40人」が予測した平均値である。4月の調査ではマイナス4.04%、5月調査ではマイナス3.80%、6月調査でマイナス4.18%、7月調査でマイナス4.90%という見通しが記されていた。

ところが、8月12日発表の8月調査ではいきなり見通しがマイナス6.81%に落ち込む。どういうことかと訝(いぶか)しんでいると、ESPフォーキャスト調査が発表された翌日、内閣府がマイナス6.8%(一次速報値、前期比年率換算)という数字を出した。1カ月前まで予想していなかったマイナス6.8%が、内閣府の発表一日前には「想定内」になっている。不思議な事が起きるものだ。

タネを明かせば、GDP統計は家計調査や機械受注、鉱工業生産指数、建築着工統計など各省が毎月公表している各種統計を加工して作成される。だから、事前に各種統計を見ればある程度、GDPの結果がわかるのだ。直前に予想を修正して「想定内だった」と言い繕うのがエコノミストの常套手段である。

気温や降水量のグラフぐらい見たらどうか

さらに、増税派のエコノミストたちはGDPの落ち込みに対してどんな説明をしたか。口をそろえて「天候不順によるもの」といったのだ。

2014年10月1日、内閣府は経済財政諮問会議に対し、天候不順(低温・多雨)が2014年7―9月の個人消費に与える影響はマイナス0.2兆円からマイナス0.7兆円程度であり、7―9月期のGDPを年率換算でマイナス0.8~マイナス2.4ポイント押し下げる、と報告した。これは「お天気エコノミスト」の気象観測を受けての報告と見られる。

天気がそれほど景気と関係があるなら、エコノミストには気象予報士の資格取得を義務付けるべきだろう。国民は6月や7月の天気がどうだったかなど、漠然としか覚えていない。それをいいことに、いつの日も「天候不順」にして、消費税の増税が与えたダメージをごまかそうとする。図表1、2にあるように、今年7―9月の気温と降水量を見ると、例年と比べて特別に低温・多雨というわけではない。マスコミも統計に関しては赤子同然だから、お天気エコノミストの予報を鵜呑みにして報じてしまう。景気悪化を天気のせいにするなら、せめて気温や降水量のグラフぐらいサボらず真面目に見たらどうか。

増税による税収はすべて撒く

安倍総理は財務省とエコノミストに背中を押される格好で昨年10月1日、8%への消費税率引き上げを決定した。最後まで判断に迷われたことと思うが、今年はどうなるのか。

繰り返すが、経済学のセオリーからすれば増税の与える悪影響は甚大であり、そもそも増税しないのが最善のシナリオである。しかし、政治的な理由によってそれが叶わなかったとしたら、われわれは増税による悪影響を最も軽減する方策を考えるしかない。

では、景気の落ち込みに対して何ができるのか。私の答えは簡単明瞭だ。最善の手は「消費税の増税に対して消費税の減税を行なうこと」。次善の手は「増税によって税収が入ったら、そのお金をすべて国民に撒くこと」である。冗談だと思う人もいるかもしれないが、ロジックでいえば当然で、増税しなかったのと同じ効果を与えるからだ。もちろん増収分を国民に撒くといっても、財政支出一辺倒だと供給制約が発生してしまう。公共事業に予算をつけても、事業を行なう技能をもった人や組織には限りがあるからだ。さらに減税や追加の大幅金融緩和に踏み切るなど、ダメージを緩和するための第三、第四のサブシナリオを考えることもできる。

安倍総理も、消費税を10%にするかどうかの判断にあたっては増税のメインシナリオだけでなく、増税凍結のサブシナリオも念頭に置いているはずだ。安倍総理は今年10月1日、経済財政諮問会議の席上で「景気がどう回復するか、将来の見通しはどうか、十分に注視していく必要がある」と強調されていた(甘利明・経済財政担当大臣は相変わらず財務省とエコノミストのいうとおり「天候要因が大きく影響している」とやっていたが)。

第二次安倍改造内閣についても、マスコミは「谷垣禎一氏や二階俊博氏が党役員に入り、増税路線が確定した」と報じた。だが、これも臆断にすぎない。安倍総理が「消費税を10%にしない」と決断すれば、いつでも谷垣禎一氏を切り、増税見送りを宣言することはありうる。本当に強い為政者は政局が「どちらに転んでもOK」と考え、博打はしない。単一のシナリオしか頭にない人間は、想定外の事態が起きたときに墓穴を掘ることになる。

複眼シナリオで見ると、消費増税見送りのチャンスは、じつは9月の「石破の乱」にあった。石破茂氏との交渉が決裂してすわ倒閣、という事態になれば、消費税凍結が国民に信を問う格好の解散カードとなっていたからだ。しかし幸か不幸か、石破氏は政権内に封じ込められ、衆議院解散は沙汰やみとなった。

これからも増税をめぐり、安倍政権の周囲でさまざまな画策が生じるはずだ。財務省としては、石破氏のように自分の思いどおりになる与党議員を探して懐柔することだろう。地方議員には「もし増税が潰れたら予算づくりもやり直しになってしまう。あなたの地元の要望も通らない」と脅しをかけ、経団連には「消費税増税なくして法人税減税なし」という。

だが、そもそも私にいわせれば、税率と支出が結び付いて予算が青天井になる現行の仕組みが異常である。法人税は個人の所得税と重複する「二重課税」だから、もともと無駄な税金だ。マイナンバーなどで個人の所得をきっちり捕捉して増収を図るのがセオリーだ。

いずれにせよ、こうした動きを誰より注意深く見ているのは安倍総理自身である。マスコミは財務省のプロパガンダやお天気エコノミストの観測気球ばかり流さず、ロジックとファクトに基づく報道をすべきだろう。

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