原発回帰、

画像の説明 その先は エネルギー 2014衆院選

原子の火が再びともる。きっと街はまた活気づく。

九州電力川内原発1、2号機がある鹿児島県薩摩川内市。「一日も早く再稼働してほしい」。市内でホテルを営む福山大作さん(64)は声を弾ませる。地元の同意手続きが完了し、早ければ来年2月にも再稼働する見通しだ。

2011年3月11日、東京電力福島第一原発事故。当時の民主党政権は将来の原発ゼロを掲げ、日本のすべての原発が止まった。川内原発の2基も11年9月までに停止。だが、12年12月に発足した第2次安倍政権は「原発回帰」にかじを切る。

川内原発では九電社員や下請け会社の作業員約1千人が働く。13カ月ごとの定期検査時は2千~3千人に膨らむ。市内の宿泊施設はほぼ満室になり、飲食店もにぎわう。川内商工会議所は、1基の検査に伴う経済効果を年間約6億円とはじく。

同原発に物品を納入している地元業者の一人は「定期検査までいかないと我々の商売は潤わない。地元の商工会メンバーで酒を飲むと、早く再稼働してくれという話になる。福島には悪いからおおっぴらには言いにくいが」と明かす。

薩摩川内市街にある仕出し店経営者の坂元昭紀さん(74)も「九電に元気がなければこの町も元気がなくなる」と話す。一方で、原発だけに頼る地域経済ではなく、自然エネルギーの開発や観光振興などが必要だとも感じている。

川内原発の次に再稼働の準備が進む福井県の関西電力高浜原発。高浜町でガソリンスタンドを営む田中康隆さん(58)は「大勢の知人が原発で働いている。再稼働は必要」。ただ、問題はその先だ。いずれ廃炉の時は来る。「需要が高まる廃炉技術などの拠点として高浜に原子力保安大学校の創設を」と提言している。

北海道泊村。全3基が止まっている北海道電力泊原発でも再稼働を目指した安全対策工事が進む。

原発が止まるまで、北海道電の原発依存度は約4割。同社は11月、昨年に続き電気料金を値上げした。「火力発電の燃料費が経営を圧迫している。原発を再稼働すれば値下げする」。それが同社のスタンスだ。

「止まっていれば安全なわけじゃない。早く動かして電気料金が安くなった方がいい」。地元の古宇郡(ふるうぐん)漁協の幹部はそう言う。

北海道滝川市の年金暮らしの男性(65)は、消費税が8%に上がったこの春から食事のおかずを減らし、家電のプラグをこまめに抜く。「再稼働の是非より、電気代のほうが心配だ」

昨年7月施行の新たな規制基準について、安倍首相は「世界で最も厳しい安全基準」と強調する。原子力規制委が新基準に適合すると判断した原発は、順次再稼働させる考えだ。

     □     ■

宮崎県中部の小高い丘に木々が切り出された土地が広がる。町内の70代の男性が計画した1メガワットの太陽光発電施設の予定地。造成工事は止まったままだ。

12年に始まった再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度で、電気を九州電力に買ってもらおうと1千数百万円を投じた。ところが9月、九電など5電力会社は買い取りの新規契約の中断を決めた。このまま太陽光発電が増えると送電線の容量をオーバーするというのが理由だ。「買い取りは国が進めた制度なのに」

原発を安定した重要電源と位置づける安倍政権。首相が「ベストミックス」という再生エネを含めた将来の電源構成は、原発再稼働が前提になる。

10年前から再生エネ普及に取り組むNPO法人「グリーンシティ」(青森県八戸市)の富岡敏夫理事長(68)は「せっかく高まった再生エネの機運。受け入れ量を増やす方向で議論してほしい」。同県十和田市で進める太陽光発電施設の計画も東北電力の買い取り中断でストップしている。

震災から3年9カ月。「原発回帰」の陰で、福島ではなお12万人が県内外に避難して年の瀬を迎える。

     ◇

安倍首相「原子力規制委員会の下で、妥協することなく安全性を高める新たな安全文化を創り上げます。その上で、安全が確認された原発は再稼働します」(13年2月28日、施政方針演説)

「再生可能エネルギーの導入状況、原発再稼働の状況などを見極め、できるだけ早くエネルギーのベストミックスの目標を設定していきたいと考えております」(14年4月11日、衆院本会議)

コメント


認証コード1394

コメントは管理者の承認後に表示されます。