官僚主導の体制改めるチャンス 

画像の説明 衆院が解散され、安倍晋三政権2年間の信任が問われる。

安倍首相の解散は、表面だけをみると、消費税10%への引き上げをやるかやらないかだけを問う、一見、安易な政治行動のように見える。しかし、実態は中選挙区制選挙の時代から続く、官僚主導の政治形態を終わらせるかどうかの重大な節目になる選挙である。安倍首相が衆院解散の決意に至ったきっかけは、消費税導入について、財務省と党内の財務省応援団との対立が収まらないとみたからだ。

≪「民意に問う」と判断≫

安倍首相はアベノミクスを軌道にのせるには、あと3年程度の時間が必要だと判断している。これに対して、財務省は「財政再建」を重視し、「予定通りの引き上げ」に固執した。

財務官僚の根回しのすごさは政権中枢を担った人なら誰もが知っている。その財務省が本気になって予定通りの増税を迫ってきた。

閣内では麻生太郎財務相、党内では野田毅税制調査会長、二階俊博総務会長らが財務省の側にまわった。

官僚が議会を動かす力を持つに至ったのは、中選挙区制度の産物である。業界と結びついて議員に金の工面をすることで多くの便宜を図り、権限を発揮するという考え方がいまも強く残っており、政権公約さえも否定する。こういう発想や行動が、公約を掲げて信を問うという政党政治を妨げている要因となっている。

15年にわたるデフレや不況が続いたのは、財務省とそれに操られてきた政治家の責任だ。これに対して安倍首相は、これまでの路線を打ち破ったアベノミクスで大成功を収めたのである。

ただし、その道のりはまだ半分だ。5%から8%への消費増税の重みに、経済は耐え切れていない。7~9月期の国内総生産(GDP)の実質成長率は年率換算で1・6%減となり、2期連続のマイナス成長となった。ここで消費税の2%引き上げを行えば、景気が底割れしかねないと恐れた。

この現実をみながら、なお消費税再引き上げを主張する議論に対抗するには、「民意に問うしかない」と安倍首相は考えた。かつて小泉純一郎首相は一枚看板の郵政改革法案が参議院で否決されたとき、「民意を聞いてみたい」と衆院の解散に打って出て大勝した。

≪画期的に変わった外交政策≫

安倍首相が信を問うきっかけになったのは消費増税問題だが、安倍政治によって画期的に変えられたのは、外交・安保政策である。集団的自衛権の行使容認の決定により日米同盟を強化する一方で、「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」を展開し、2年足らずの間で50カ国以上を歴訪。積極的平和主義を推し進めた。

これまで戦後の日本外交は、どの国とも「良好な関係」を保ちたいというもので、三木武夫首相(当時)は等距離外交、福田赳夫首相(同)は全方位外交を説いた。特に中国に対しては日中国交正常化以降、“中国土下座外交”ともいうべき外交が展開された。

ある政治評論家から、第1次安倍政権ができる直前、「この人は善い政治家だが、中国が嫌うだろうから他の人が良い」というのを聞いて、私はがくぜんとしたことがある。

冷戦中、ソ連の意向をおもんばかってフィンランドは常にソ連寄りの首相を選んだという。

中国は1歩譲れば、次に2歩譲ることを強要する。日本の首相は占領終了後、30年以上も靖国神社に参拝してきた。ところが中曽根康弘首相の時代に公式参拝をめぐって日本国内がもめると「参拝するな」と押し込んできた。

今も首相の靖国神社不参拝を主張し、さらに沖縄県・尖閣諸島が中国領であると言い張っている。

≪欧米メディアの高い評価≫

中国に対して原則を譲れば果てしなく押し込まれる。こうした中国の傍若無人の態度には、東南アジアの国々も辟易(へきえき)している。

その中で、安倍首相は日中首脳会談を実現し、戦略的互恵関係の再構築を確認した。「中国を押さえ込むためのキックオフ」(産経新聞)とも指摘されている。

安倍外交の戦略の第1は、中国に軍事的に負けないように日米安保体制を強化する。第2は東南アジア諸国連合(ASEAN)と連携し、中国の膨張を防ぐこと。第3が豪州、さらにはインドとの準軍事同盟関係を築くことだ。

安倍首相就任当初、アメリカの新聞に「右翼政権」などと書かれたが、米欧メディアの評価はいま、格段に上がっている。安倍外交の成功を象徴しているといえるだろう。

安倍政権には消費税引き上げを先送りした後の経済動向や、原発の再稼働問題、安全保障政策など、重い課題がのしかかってくる。選挙に勝利し、それにどう対処できるかが焦点となる。

官僚主導の政治形態を払拭できるかが最重要課題だ。政権基盤をさらに安定化し、アベノミクスをより強固なものとできるか注目したい。

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