日銀・異次元金融緩和第2弾の真の意図は?

画像の説明政府は12月1日までに消費税再増税の可否を決断へ

黒田日銀がバズーカ砲の第2弾をぶっ放した。市場とってはサプライズで、一気に株高、円安に動いた。この追加緩和は消費税再増税への支援策との見方もあるが、それは的を射ていない。次なる最大の焦点・消費税再増税の決断は予想より早まりそうだ。

今回は「3」という数字がキーワード

先週末に発表された「黒田バズーカ砲」の第2弾は、またもやすさまじい威力を見せた。黒田日銀が追加の金融緩和を発表した10月31日、日経平均株価は暴騰し755円高の1万6413円で引けた。

日本の流れを受けて海外の株価も上昇。ニューヨークダウも195ドル上げ、1万7390ドルで取引を終えた。「10月は何もしないだろうほとんどの人がたかをくくっていた日銀が追加緩和したことは、こちらでも一様にサプライズとの反応。初期の反応としては、すこぶる高く評価されている」(米国の日系投資銀行)。

まさにサプライズなのだが、7月~9月のGDP推計の第1次速報値(QE)が発表されるのは11月17日。その直前とも言えるこの時期に、日銀が追加緩和を実施したのはなぜか。焦点は、消費税再増税にどのような影響を与えるか、だ。

まずは簡単に、黒田総裁が言う「量的・質的金融緩和」第2段の内容を見てみよう。

昨年4月に導入した「量的・質的金融緩和」第1弾のキーワードが「2」だったとすれば、第2弾のそれは「3」と言える。第1弾では消費者物価の前年比上昇率2%を、今後2年間を念頭に達成するため、マネタリーベースおよび長期国債、ETF(上場投資信託)の保有額を、2年間で2倍に拡大し、買い入れる長期国債の平均残存期間(償還までの期間)を2倍以上に延長するというものだった。

それから1年半後に発表された第2弾では、マネタリーベースの増加ペースを現在の年間60~70兆円から、10~20兆円増やし、年間約80兆円とする。このため長期国債の買い入れを約「30兆円」増やして年間約80兆円とし、平均残存期間も最大「3年間」程度延長し、7年~10年程度とする。さらにETFとJ-REIT(不動産投資信託)についても、買い入れペースを「3倍」に上げ、それぞれ年間約3兆円、約900億円買い入れる。

要は「量的・質的金融緩和」を拡大することによって、昨年4月に打ち出した2015年度中の消費者物価上昇率2%の実現を後押しようというのが日銀の狙いだ。

予想に働きかけて景気を刺激する

再び予想に働きかける

マネタリーベースとは、日本銀行が供給する通貨のことで、具体的には、市中に出回っている流通現金と金融機関が日銀に保有する「日銀当座預金」の合計値。日銀は金融を緩和する際には、金融機関が保有する国債などを買い取りマネーを増やす。反対に、金融を引き締める際には、国債などを売却して金融機関からマネーを吸い上げる。その点で、マネタリーベースは中央銀行(日銀)が、直接、増減を調整できる。

「量的・質的金融緩和」の最大のポイントは、「予想(期待)」に働きかける政策という点にある。デフレが長く続いた日本では、「名目金利」はほぼゼロ。通常の「伝統的金融政策」では、金融を緩和する際にはマネーの量を増やして、例えば、マネーの価格である金利を5%から3%に下げることによって、景気を刺激する。

だが、名目金利がほぼゼロの日本では、これ以上、名目金利を下げる余地がない。そこで、日銀がマネタリーベースを増やし、人々に将来インフレになりそうだと予想させることによって「実質金利」を下げ、企業の設備投資や消費を刺激して、景気を拡大しようとする。だから、「非伝統的金融政策」と呼ばれることもある。

実質金利=名目金利-予想物価上昇率だから、名目金利がほぼゼロの日本の場合、予想物価上昇率がデフレ予想(つまりマイナス)からインフレ予想(つまりプラス)に転じれば、実質金利はマイナスになる。ごく簡単に言うと、預金に置いておくと預金の実質の価値が目減りするわけで、預金に置いておくよりも株や不動産など他の資産に投資するか、消費した方がよい、ということになる。

では、金融市場への影響はどうか。日銀の追加緩和の直前にあたる10月29日には、FRB(米連邦準備制度理事会)が、予定通りQE3(量的金融緩和第3弾)を終了した。FRBは金融緩和自体は続ける方針だが、市場は米国の名目金利が上がる方向だと予想するだろう。とすれば、実質金利は米国が上がり、日本は下がると見られるので、日米の金利差は拡大する。ということは、為替は円安・ドル高の方向に動く。

実質金利の低下で中期的に日本の景気が回復に向かうとすれば、株価も上昇の方向だろう。長期金利の指標となる国債(債券)は単純ではないが、日銀が買い支えるから価格は上昇か横ばい(金利は低下か低水準横ばい)。短期的には、円安・株高・金利安というのが、市場のメインシナリオだ。

経済政策に詳しい嘉悦大学の高橋洋一教授も「今回の量的緩和の拡大で、この4月の消費税率引き上げに伴うマイナス効果は相殺される」と見る。

実際は見通しの誤りを認めた!?

実際は見通しの誤りに対する修正

では、なぜこの時期に日銀は再度バズーカ砲をぶっ放したのか。

黒田日銀総裁は財務省の出身。これまでも消費税の再増税が先送りとなり、「財政の信認が失われると、対応が極めて困難になる」と、再増税を後押しする発言を繰り返してきた。市場では「追加緩和でデフレからの脱却と景気回復を後押しすることで、消費税再増税の環境をつくる」という見方が有力だ。「米国投資家のほとんどは、消費税は上げるべきという考え方だと思う。ごく一部には景気が悪いのに増税なんて有り得ないという意見もあるが、財政再建の頓挫は、アベノミクスの頓挫と受け取られかねない」(米国の日系投資銀行)。

一方、高橋教授は「今回の緩和は黒田総裁が消費増税の影響を見誤ったことを認めたということ。もっと早く追加緩和すべきだった」と手厳しい。実際、4月~6月のGDP成長率は前期比年率換算でマイナス7.1%と大幅な減少。7月~9月も民間の予想では、4%程度の成長予想から1~2%程度に下方修正されている。消費者物価上昇率も月を追うごとに上昇率が小さくなってきていた。

31日の会見で黒田総裁は、量的・質的金融緩和は効果を上げているとしたうえで、「短期的とはいえ、現在の物価下押し圧力が残存する場合、これまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延するリスクがある。こうしたリスクの顕現化を未然に防ぎ、好転している期待形成のモメンタムを維持するために緩和措置を拡大した」と、遅延リスクに対する「予防的な措置」であることを、何度も強調した。

だが、10月28日の参議院財政金融委員会では「家計・企業の両部門において所得から支出へという前向きの循環メカニズムが引き続き働くもとで、緩やかな回復基調を続け、駆け込み需要の反動などの影響も次第に和らいでいくと考えられます」と述べており、今回の発言とは明らかに整合性を欠く。金融委員会から追加緩和発表までに、政府とどのようなやり取りがあったかは不明だが、見通しの誤りに対して金融政策を修正したわけで、再増税実施へのカードを切ったという見方は当たらない。

実際、会見で再増税との関係を問われた黒田総裁は「消費税の再引き上げは、政府が経済動向を見て決めることで、我々の関与するところではない。決定に影響を与えようというつもりもないし、そのようなことにはならない」と、これまでとは打って変わった慎重な発言に終始した。

12月1日までに再増税の可否を決断

では、次の最大の焦点である消費税率の再引き上げはどうなるのか。来年10月には消費税率の再引き上げ(8%→10%)が予定されており、安倍首相は12月中にこれを実施するかどうかを決めるとしていたが、決定時期は早まりそうだ。

11月3日、都内で開かれたG1経営者会議であいさつに立った甘利明経済財政担当大臣は、消費税の引き上げについて、次のように述べた。

「(消費税再増税について)いまはニュートラル。政府としては、今回の消費増税の影響が想定内だとか、想定外だとか言っていないが、民間では想定外のことが起きていると報道されている。(デフレという)病気は治りつつあるが、何も対応しないと病気に戻るかもしれない。

大事なことはリスクが顕在化しないように手を打つこと。まず、消費税と切り離して景気対策を打ち、その後消費税を判断する。7月~9月のGDP第1次QE(速報)の発表は11月17日、第2次は12月8日。(判断を)12月8日まで引っ張ると、(15年度の)予算編成が大変になるで、12月1日がギリギリかなと考えている」

通常通り年内に政府予算案を決定するには、12月中ではなく前倒しで決めることが必要というわけだ。

景気が下振れしつつある今、単純に消費税の再増税は延期かと言うと、そうはいかない。15年10月からの再増税は、12年に時の政権担当だった民主党と自民党・公明党の3党合意を基にした、消費増税関連法で決まっている。たとえ延期であっても、法改正が必要で政治的には大きなエネルギーが必要になるからだ。もっとも無難なのが、景気対策を打ち、消費税は予定通り引き上げるというシナリオだ。

だが、景気対策で財政支出を増やし、消費税を引き上げるのであれば、財布を政治家と官僚に移すだけで、何のための増税かということにもなる。今年4月の消費増税は純粋の増税であったこともあり、反動減からの戻りは鈍く、量的・質的金融緩和の効果にマイナスの影響を与えたことは明らかになった。アベノミクスのすべての前提は、デフレからの脱却にある。安倍首相は消費税の再増税にどのような断を下すのか。まさにアベノミクスの成否を決める決断となろう。

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