東電・中電が「火力新会社」で基本合意

画像の説明 廣瀬、水野両社長が見せた微妙な温度差

電力会社の新たなモデルが誕生になるのか――。

10月7日、東京電力と中部電力による火力発電分野の「包括アライアンス」の基本合意締結が発表された。年度内に折半出資で合弁会社を設立、燃料部門の事業統合を進め、老朽火力発電所のリプレース(設備更新)も共同で取り組むことになる。

業界秩序崩壊の始まり

提携発表の記者会見で主導権を握った水野明久・中部電力社長(左)に対し、廣瀬直己・東京電力社長は時折複雑そうな表情をのぞかせた

地域の垣根を越えた電力会社同士の提携により、これまで発電から小売りまでを支配してきた電力業界の秩序が崩れることになる。

だが、前例のない画期的な提携であるにもかかわらず、記者会見にそろい踏みした両社長の答弁からは、両氏の置かれた立ち位置の違いが如実に見てとれた。

「われわれは火力発電を中心に据えた会社。将来的には、世界のプレイヤーと互角に戦っていくような姿を目指す」

提携の意義を問われ、端的にこう答えたのは中部電の水野明久社長。水野社長は質問に対し、東電の広瀬直己社長よりも主導的にマイクを握り、冷静に企業戦略の将来像を語る姿が目立った。

それもそのはず、今回の提携は中部電が「ここ数年取り組んできた戦略の一貫」(中部電関係者)を踏襲したステップだからだ。管内に原子力発電所を多数建設できなかった中部電は、原発事故の前から火力発電事業を根幹に据える決断をし、それゆえ燃料調達をめぐる世界との戦いを意識してきた。

そして、それを指揮してきたのがほかならぬ水野社長だった。

電力会社のトップの中で国際畑が長い水野社長の経歴は異色だ。ワシントン事務所に赴任中の1994年に世界銀行へ出向しているが、この出向は中部電が用意したものではなく、「自身が会社を辞める覚悟で採用試験に応募して合格したもの」(中部電関係者)というから、その“異端ぶり”は際立っている。

会見でも、「(合弁会社は)独自の独立した文化で運営していきたい」と、東電の影響を受けずに事業運営する意志を明確にした。

“分裂”する東京電力

一方で、丁寧な受け答えを見せながらも、胸中の複雑さがにじみ出たのが廣瀬社長だ。

「調達や運営の考え方が、当社の目指す理想に一番近い」と、中部電をアライアンスのパートナーに決めた理由を語ったが、東電全体の経営を考えると、諸手を上げて喜べない事情がある。

今回のアライアンスでは、火力部門は意気込みを見せる一方、小売り部門では中部電の首都圏進出を許すことになる。このため、小売り部門出身の廣瀬社長は、東電のシェア低下につながり、社内の“分裂”を進めるアライアンスには「途中まで消極的だった」(東電関係者)といわれる。

ただ、実は廣瀬社長も、平岩外四元会長の秘書として海外を飛び回った経験から英語での交渉も堪能で、東電きっての国際派。「社長になったのがこの苦境のタイミングではなければ、廣瀬さんこそ海外展開を目指すアライアンスの一番の適材だったかもしれない」(東電関係者)との指摘もある。

しかし、そもそも原発事故の賠償や廃炉で兆円単位の費用が必要な東電にとって、火力部門を切り出してでも企業成長に賭けないといけなくなったのは、紛れもない事実だろう。

この提携を、ただ消極的に受け止めるか、新たな挑戦に変えていけるのか。その覚悟が提携の成功を左右するのかもしれない。

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