数万分の1秒で注文

画像の説明 株取引、超高速の時代 、大量売買 東証の4割、存在感増す

株式の売買注文を、数万分の1秒の速さで繰り返す「超高速取引」が、東京市場で増えている。全体の取引量が増える効果があると、東京証券取引所は利点を強調する。だが、個人投資家は速さに太刀打ちできず、全体の規模や取引業者の詳しい実態がわからないため、市場に不安を与えているとの批判もある。

都内にある東証のデータセンターには、証券会社からの売買注文をさばく東証のコンピューターがある。ここが、超高速取引をする海外の機関投資家たちの東京での拠点だ。

センター内には、東証のコンピューターに加え、超高速取引をする海外投資家のコンピューター数百台がずらりと並ぶ。これらのコンピューターには、自動的に株式を売買するプログラムが仕組まれている。

物理的に東証のコンピューターに近いため、センターの外から、個人投資家らが証券会社を介して注文を出す場合と比べ、注文は100倍速い。

東証は、内外の投資家にコンピューターを置く場所を貸し出している。素早い注文に対応できるよう、大量の取引を処理できるようにシステムを4年半前に更新したのをきっかけに、1回の取引にかかるコストが安くすむため、海外投資家が次々に利用し始めた。

コンピューターを置く場所の利用料などは非公表だが、関係者によると安いものでも1社あたり年約1千万円はかかるという。豊富な資金を持ち、大量の取引をし、プログラムを開発する資金力のある海外中心の機関投資家20~30社が利用しているとみられる。

超高速取引を使ったとみられる注文による売買代金は増え続け、最近では東証で取引される株式の売買代金の4割前後になる。

実態は不明で、東京市場での超高速取引の全体量ははっきりとはつかめないが、取引が増えていることを示すデータがある。

東証は5月、超高速取引の「推計」を公表した。相場全体が大きく値下がりした昨年5月の2日間、東証1部の373銘柄の売買を調べたところ、注文金額の半分が「超高速」とみられ、売買代金の25・9%を占めていた。この2日間の売買代金から割り出すと、2・7兆円にのぼった。

■不透明・不公平、批判の声

株価を動かす情報を得てから注文を出すまでの速度は、超高速取引の方が圧倒的に速く、個人投資家や中小証券会社は太刀打ちできない。そのため、不公平ではないか、との批判が出ている。

ある中堅証券会社の幹部は「多額の資金をかけてでも超高速取引を続けるのは、それに見合う利益があるからだ」と指摘する。システム開発には数億円規模の資金が必要で、業者間の競争も激しい。幹部は「巨費を投じられる一部の業者だけに有利な状況があるのではないか。超高速取引が増えた市場には、不公平感を感じる」と話す。

日経平均株価の将来の価格を予想して売買する「先物取引」などでは、超高速取引の割合がさらに高まっている。超高速取引が株式売買の半分ほどを占める米国では、超高速取引業者に批判が強まり、規制すべきだという声が高まっている。

きっかけは、米国の作家が今春出した小説で、超高速取引の実態を詳しく紹介したことだった。ある取引所で出た買い注文を瞬時に察知し、別の取引所で先回りして同じ株の買い注文を出し、安い値段で買い、即座に売り抜ける、といった手法だ。こうした取引について米当局は、違法行為にあたる可能性もあるとして調査に乗り出している。

東証は、日本は東証に売買が集中し、別の取引所に先回りするのが難しいため、現実味がないとしている。東証の親会社である日本取引所グループの斉藤惇・最高経営責任者は「日本で米国の問題をそのまま議論し、超高速取引だからおかしいというのは困る」と話す。

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