「美女軍団」

103 (6) 派遣中止に右往左往する韓国、正恩氏の計略? 選抜はシンデレラの道

韓国で19日に開幕する仁川アジア大会に北朝鮮が「美女軍団」と呼ばれる女性応援団の派遣とりやめを表明したことに韓国が揺れている。

金正恩(キム・ジョンウン)第1書記夫人も選抜された経験がある美女軍団は、過去の派遣で韓国の話題をさらい、「南北融和の象徴」と評される一方、「色仕掛けの宣伝工作」と警戒する見方が交錯する。韓国が派遣中止に右往左往すればするほど、スポーツを対外戦略に使おうとする正恩政権の術中にはまることになりかねない。

「対南政治工作隊」とケチ、「歪曲」と非難合戦

「南側(韓国)は応援団は『対南政治工作隊だ』とか、応援団の規模がどうとか、(北朝鮮)国旗の大きさがどうとか、(滞在)費用問題まで取り上げて実務協議が決裂した」

北朝鮮オリンピック委員会の孫光浩(ソン・グァンホ)副委員長が8月28日、北朝鮮国営の朝鮮中央テレビでこう主張した上で、「韓国側が派遣を望んでいないため、送らないことにした」と応援団の派遣とりやめを表明した。

応援団受け入れは「南北対話のきっかけ作り」と注目されていただけに、慌てたのは、北朝鮮と交渉してきた韓国統一省だ。

同省報道官は翌29日、「派遣を望んでいないというのは事実ではない」と釈明し、北朝鮮が「われわれが応援団参加に文句を付けたと歪曲(わいきょく)した」と反論した。

北朝鮮も責任転嫁にやっきになった。ウェブサイト「わが民族同士」に応援団参加経験者の言葉として「『朝鮮は一つだ』と声を上げ、北と南の選手と応援団が一つになっていく姿を忘れられない。南朝鮮(韓国)当局は神聖なスポーツ事業まで政治的に悪用しようとした」との寄稿文を掲載した。

朝鮮労働党機関紙、労働新聞も9月3日付で「応援団参加が民族の和解と団結を追求し、悪化した南北関係改善を助けて協議を盛り上げようと南朝鮮人民も積極的に歓迎した」と強調した上で、「南側が統一省報道官を前面に出し、歪曲だとか騒いで妨害した」と非難した。

25歳未満、身長165センチ超…女子大生や女優を選抜

北朝鮮は「民族和解」の演出に効果的だと分かりながら、なぜ応援団の派遣とりやめを表明したのか。

孫副委員長が理由に挙げているように「滞在費」問題がネックになったようだ。

北朝鮮は7月の南北実務協議で、過去最大規模となる350人の応援団を派遣する方針を示していた。

2002年の釜山アジア大会以降、過去3回の応援団派遣では、韓国側が全て滞在費を負担していた。だが、今回は国際慣例にのっとって北朝鮮側に費用負担を申し入れていたという。これに対し、北朝鮮側は7月中旬の協議で、テーブルを蹴って一方的に決裂を通告した経緯があった。

孫副委員長がいうように、韓国内で応援団を「対南政治工作隊」と警戒する見方が強かったことも確かだ。

釜山大会では、若い美女らによる一糸乱れぬ応援もようを目の当たりにし、韓国で「美女軍団旋風」が巻き起こった。彼女らは何を食べたかといった一挙手一投足までメディアが追った。北朝鮮への融和ムードが広まり、それに比例するように「金正日(ジョンイル)式色仕掛けに韓国が揺さぶられる」との懸念も高まった。

今回は、攻勢にさらに拍車が掛かっていたとされる。

米国のラジオ放送局、自由アジア放送(RFA)は、北朝鮮が7月、平壌の女子大生を中心に応援団員150人を募集したのに続き、8月にも「25歳未満、身長165センチ以上で文化・芸術系に従事する女優」という条件で150人を追加募集したと伝えた。

目指せ、ファーストレディー 基準は「江南スタイル」、整形も

今回、北朝鮮国内でも美女軍団に向ける乙女たちのまなざしが違っていたようだ。

金第1書記の夫人、李雪主(リ・ソルジュ)氏は05年の仁川アジア陸上選手権に応援団員の一人として参加したことで知られる。

この経歴をステップにファーストレディーに上りつめ、北朝鮮最大のシンデレラストーリーの主人公となった。

彼女を似せた服装は平壌などで即ブームとなるなど、常に若い女性たちのあこがれの的となっている。

韓国紙、中央日報によると、今回の韓国派遣応援団については、金第1書記が「南朝鮮で受け入れられる基準で選びなさい」と指示し、韓国セレブを示す“江南(カンナム)スタイル”の女性が選抜されていたとも伝えられる。

秘密警察の国家安全保衛部が選抜に当たり、身長やスタイルのほか、出身成分でもふるいに掛けられる。容姿が基準に達せず、整形手術を受けるケースもあるという。

平壌で、歌や踊りに加え、化粧法や話し方、歩き方をたたき込まれる集中合宿が行われ、思想教育も徹底されるという。

いざ派遣となると、保衛部要員によって韓国人らとの接触が常に監視され、02年の釜山大会では、帰国後に「南朝鮮ではわれわれよりも、いい暮らしをしている」と漏らした応援団員らが教化所送りになったといわれる。

入場券やスポンサーに打撃 北の“戦術”に後ろ髪

子供時代からバスケットボールといったスポーツに熱中してきた金第1書記だけに、スポーツ事業への力の入れようは並々ならない。スポーツを外交戦略の武器にしようとの姿勢も鮮明に打ち出している。

その表れの一つが、元プロレスラーのアントニオ猪木参院議員らを招待し、平壌で8月30、31日に開催したプロレス大会だ。1万人以上収容できる体育館を満席にさせ、日本メディアに対し、観客らに「日朝友好」を強調する“模範コメント”をしゃべらせていた。

対南攻勢の“切り札”といえる仁川アジア大会に対しては、さらに力がこもっていたようだ。7月には、大会に出場する男子サッカー代表の練習試合を観戦。「大会は、北と南の不信を解消する重要な契機だ。神聖なスポーツが政治の道具になってはならない」と述べ、実務協議で妥協姿勢をみせない韓国にクギを刺していた。

逆にいえば、そこまで「政治の道具」にしようとする北朝鮮が、応援団派遣のとりやめを表明するや、韓国側は大きく揺れた。

大会を主催する仁川市は「遺憾に思う」としながらも、あくまで応援団受け入れ準備を進めると説明した。

韓国の聯合ニュースは、応援団不参加で、競泳やサッカーといった北朝鮮が参加する14競技の入場券販売が打撃を受け、スポンサー集めなどマーケティングにも支障が出ると報じた。

美女軍団は、各国メディアの関心を集めるため、「広告効果も高まるとされたが、これも期待するのは難しくなった」との見方も示した。

朝鮮日報はコラムで、大会を「平和と統一のメッセージを国際社会に伝える大きなチャンス」とした上で、「韓国も形式面にばかりこだわらず、1日も早く改めて協議すべきだ」と政府に発破を掛けた。

統一省の柳吉在(リュ・ギルジェ)長官も9月4日、「いかなる国の選手団と応援団の派遣も歓迎する」と強調し、「北の選手団と応援団は、南北関係改善にも寄与する」と美女軍団に後ろ髪引かれるような発言をした。

応援団派遣に揺れることこそ、北朝鮮側の術中にはまっていると思えるのだが。

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