「イスラム国」敵にまわした中国

103 (6) 懸命の親イスラム路線もウイグル弾圧で迫害国家に

新疆ウイグル自治区では中国政府のイスラム教徒に対する締め付けが強まり、不満が高まっている(AP)

緊迫したイラク情勢は新聞紙面を連日にぎわし、過激派の「イスラム国」がすさまじい勢いで勢力を拡大する中、米国は嫌々ながらも、再び軍事介入を始めた。その情勢が、イラクから遠く離れて一見、無関係にみえる中国にも深刻な懸念を引き起こしつつある。

新シルクロード開拓に影響

昨年11月、書いた「天安門炎上事件にみる中国の西進戦略」の中で、中国は今までの海路に頼る中東からのエネルギー供給に代わる陸路を開拓すべく、自国西部の新(しん)疆(きょう)から中央アジアを経由して中東に至る「新シルクロード」を開発する遠大な計画を推進していると述べた。

その計画のためにも、中国は中央アジア、中近東のイスラム諸国と友好関係を保つ必要があり、新疆地方のイスラム系ウイグル族の過激さを増す独立運動にも慎重に対処しなければならないとも指摘した。

実際、その後、中国は着々と中央アジア諸国との関係緊密化を進め、ロシアに取って代わって同地域の覇主の地位を手に入れつつ、同地域の天然ガス開発と輸入を実現し、大きなパイプライン網もほぼ完成した。

一方、アフガン戦争終結と中東までの供給路作りを視野に入れて、アフガニスタンやパキスタンとの関係構築にも余念はない。この遠大な計画はイスラム勢力圏を通るため、中国は今までアフガン戦争で中立を固く守り、欧米と対立するイラン、シリアなどを支持し、「イスラムの味方」とのイメージ作りに懸命であった。

ところが、硬直した少数民族政策の失敗や貪欲な漢族の現地進出などで、ウイグル族の不満は高まる一方で武装反乱が収まらず、むしろ悪化した。その反乱に対する武力弾圧で流血が繰り返されているうちに、中国は意に反して、すっかり「イスラムの民を迫害する国」というレッテルを貼られてしまった。

その結果、イラクとシリアをまたぐ地方で樹立された「イスラム国」のリーダーは7月、中国をイスラムの敵だと名指しして非難したうえ、イスラムの「兄弟」たるウイグル人を解放するために新疆を占拠すると公言した。中国領土の一部をもぎ取るとの脅かしは、現実味を欠くことは誰の目にも明らかである。

それでも、中国にとって深刻なのは、ただでさえ手を焼いているウイグル族の散発的反乱が今後、「イスラム国」のこの「宣戦布告」で勢いづき、中東・中央アジアからのイスラム過激派の支援や戦闘員の流入が急増しそうなことである。これではますます「中国対イスラムの戦争」という何としても避けたかった様相を呈してしまう。

そして、いったんイスラム過激派を敵にまわしてしまうと、中国の西進戦略の要である新疆から中東までの天然資源の新しい「シルクロード」の安全保障もおぼつかなくなる。中東から中国に石油やガスを直接運ぶパイプラインを構築しても、その途中のイスラム系諸国で過激派に狙われたらひとたまりもないだろう。

周永康失脚の波紋

このため、今まで中東ではことあるごとに欧米に楯突いてきた中国はこのところ、イラクに限っては過激派に対するアメリカの空爆に好意的に言及し始めている。

もっとも、この天然資源の「シルクロード」開発も、新疆のウイグル族に対する弾圧も、最近、中国で大きく取り沙汰されている大物政治家、周永康氏の汚職追求に影響を受ける可能性もある。

周氏は過去10年間、中国の石油産業と治安維持の双方に君臨してきた人物である。西進戦略の柱の一つである戦後アフガニスタン再建への中国の影響力作りも、同氏が一手に推し進めてきた。

彼の失脚が国内政治のみならず、今後、中国の西進戦略並びにウイグル族に対する政策にどのような影響が出るのか、注意して見守る必要がある。

さらに、「イスラム国」に拘束されたとみられる湯川遥菜さんの事件を挙げるまでもなく、「イスラム国」にどう対応するのか、日本も真剣に考えるときが来ているのは間違いない。

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