「政府のやる気」

103 (2) 対外発信のための予算大幅アップにみる

安倍政権になり、領土問題などに関する対外発信が強化されつつある。外務省のホームページには竹島と尖閣諸島の領有権の根拠を分かりやすくまとめた動画も掲載された。どちらのページも英語、ハングル、中文簡体を含む11か国語に訳されていて、動画にも同じように各国語版がある。

北方領土のページが英語にしか訳されておらず、動画もないのは現在のロシアとの微妙な駆け引きの中ではやむを得ないが、竹島と尖閣については政府の主張は明快で、いい感じだ。ところが、これが歴史認識のページになると、何とも歯切れが悪いというかすっきりしない内容になっている。

その元凶が「村山談話」「河野談話」であり、これから逸脱したことを書くわけにはいかない。たとえば、『歴史認識』のページには安倍総理の今年3月の参議院予算委員会での次の発言が最新情報として掲載されている。

参議院予算委員会(平成26年3月14日)における安倍総理答弁

平成26年3月14日

歴史認識については、戦後50周年の機会には村山談話、60周年の機会には小泉談話が出されている。安倍内閣としては、これらの談話を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる。

慰安婦問題については、筆舌に尽くしがたいつらい思いをされた方々のことを思い、非常に心が痛む。この点についての思いは、私も歴代総理と変わりはない。

この問題については、いわゆる「河野談話」がある。この談話は官房長官の談話であるが、菅官房長官が記者会見で述べているとおり、安倍内閣でそれを見直すことは考えていない。

さきほど申しあげたとおり、歴史に対して我々は謙虚でなければならないと考える。歴史問題は政治・外交問題化されるべきものではない。歴史の研究は、有識者、そして専門家の手に委ねるべきであると考える。

村山談話と小泉談話は日本政府の正式の見解だから、わが国は今後もこれをベースに、誤って認識された事実を正し、日本と日本人の名誉を取り戻していかなければならないのである。だから、中韓に負けない内外に対する発信力を持つことが必要なのに、今まではそこが我が国の大きな弱点でもあった。

安倍政権になってから少しづつ改善されている感じもあるが、先日各省庁から提出された来年度予算の概算要求を見ると、本気で発信力の強化に取り組もうとする姿勢がはっきり見えてきた。その中心になるべき外務省は「攻めの情報発信」を打ち出し、予算面でも思い切った増額を求めている。

外務省、英などに「ジャパンハウス」新設へ 対外発信の拠点整備急ぐ 新年度概算要求で

産経 2014.8.28

外務省による平成27年度予算の概算要求の全容が27日、分かった。複数の海外主要都市に情報・広報戦略の拠点となる「ジャパンハウス」を新設するなど、領土や歴史認識に関する日本の立場の発信を強化するため、約500億円を上乗せして計上した。中国や韓国による反日キャンペーンに対抗した「攻めの情報発信」を実現するほか、日本の魅力を発信する。

概算要求では、26年度当初予算比で719億円増の7380億円を計上。増額分のうち約500億円が最重要項目に掲げた戦略的対外発信予算となっている。

領土や歴史認識に関する日本の立場について国際社会に正しく理解してもらうほか、伝統芸能やクールジャパンといった日本の魅力の発信や海外の親日派・知日派の育成などを目指す。

対外発信強化の目玉として新たな拠点施設「ジャパンハウス」を掲げた。新施設を建設するほか在外公館の広報文化センターや日本文化センターも活用する。日本のマンガやアニメにとどまらず、日本の技術など幅広い「日本ブランド」を売り込む。海外進出する企業や自治体の支援も行う。

「ジャパンハウス」の最初の建設候補地は英国のロンドンが有力。ただ、「用地取得費だけで60億~70億円かかる」(外務省幹部)とされ、慰安婦像が設置された米グレンデール市に近いロサンゼルスや、ブラジルのサンパウロ、トルコ・イスタンブール、中国・香港も検討している。

このほか、NHK国際放送や在外公館長による広報活動の強化も要求した。中央アジアのタジキスタンなど9つの大使館と、フィリピンのセブなど6つの総領事館の新設も盛り込んだ。概算要求に10カ所以上の新設を明記したのは8年ぶりとなる。

719億円増のうち500億円が対外発信というところに、強い意気込みが感じられる。外務省のホームページの27年度予算要求の説明資料を見ると、表紙には『「地球儀を俯瞰する外交」を実現するために』と書かれているが、その為にも発信力の強化は必須だということなのだろう。

27年度予算概算要求 ~「地球儀を俯瞰する外交」を実現するために~)

重点項目として次の5つの項目が挙げられているが、その中でも一番最初に書かれているのが『戦略的対外発信』だ。

(1)戦略的対外発信

日本の「正しい姿」の発信(領土保全,歴史認識を含む),日本の多様な魅力の更なる発信(海外の広報文化外交 拠点の創設を含む),親日派・知日派の育成,在外公館長・在外公館による発信の更なる強化

特に領土保全、歴史認識を強調しており、大幅増額の目的がどこにあるかは明らかだ。様様な事業内容が書かれているが一つ一つに意味がある。既に実行に移している項目もあり、思い付きではない練られた戦略だと期待できそうだ。

ただ、領土保全や歴史認識など、日本の「正しい姿」に対する国民の認識の現状を考えると、発信する対象は海外よりもむしろ国内にあるとも言える。外務省の戦略と合わせて国内向けの発信戦略も必要だと思うが、そちらの方は内閣府が担当しており、昨年度予算の2倍近い額を要求しているようだ。

安倍政権になってからの今年度予算でもここまで戦略的にまとめられていないし、民主党政権下の予算では領土や歴史認識などどこにも出てこない。もちろん結果が出るかどうかはこれからの取り組み次第だが、政府のやる気は十分に感じられる内容ではある。

自民党の2013参院選の公約には「日本の対外的なイメージの向上、国際的地位の向上を図るため、国際人材を育成し、対外的な発信機能を強化します」と明記されている。安倍政権は前進後退を繰り返しながらも着実に前に進んでいるといえるのではないか。

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