「米国本土を偵察せよ」中国メディア

103 (1) 戦闘機の異常接近批判への反論は

南シナ海の公海上空で8月19日、中国人民解放軍の殲(せん)11戦闘機が偵察活動中の米軍P8対潜哨戒機に異常接近した。両機の翼は約6メートルの至近距離まで接近。

中国機は米軍機の前方や下方を横切るなど、挑発的飛行を繰り返したという。米側の厳重抗議を受けた中国側は、逆に米軍の偵察活動を批判し、妨害行為を正当化した。中国メディアには、「目には目を」式の主張も登場した。

異常接近は「米側に原因」

米国防総省のジョン・カービー報道官は8月22日の記者会見で、異常接近事案を公表し、中国軍機の行為を「非常に近く、極めて危険だ」と批判。米軍の偵察飛行は、「国際空域」での活動だとして問題がないことを強調した。国防総省は今年3月以降、同様の事案が少なくとも3度あったことも明らかにした。

現場は中国・海南島の東約220キロの空域。近くの空域では2001年4月、米中軍用機同士の衝突事故が起きた。このときは海南島から東南に約110キロの南シナ海上空で、中国軍戦闘機が米軍偵察機EP-3Eと接触して墜落、中国軍パイロット1人が行方不明となった。海南島に不時着したEP-3Eの搭乗員24人は2週間近く中国当局に拘束され、米中関係は緊張した。

13年前の事故の再現となってもおかしくなかった事案の発生に、米側は「明らかな挑発行為だ」(ベン・ローズ米大統領副補佐官)などとして、外交チャンネルを通じて厳重に抗議した。だが、中国側はほとんど意に介していないようだ。中国国防部の楊宇軍報道官は8月23日、「米側の中国に対する大規模かつ高頻度の近距離偵察こそが中米の空中、海上での軍事的安全を脅かし、偶発的な事故を招く根本原因となっている」と反論。米側に偵察活動の停止を要求した。

激化する主張

中国メディアは援護射撃に出た。中国共産党機関紙、人民日報系の国際情報紙である環球時報(電子版)は8月25日付の社説で、「米国は、国際空域と公海上での偵察活動は自由だ、という詭弁(きべん)をよく使う。中国は、米国に対中近距離偵察の『自由』をなくさせる決心をした。水面下での交渉が不調に終われば、中国は断固として妨害し、偵察活動する際の米軍のリスクを高めるよりほかない」と訴えた。

環球時報の主張はその後、さらに激しくなった。8月28日付(電子版)の社説は、米軍が頻繁に中国近海や大陸付近で偵察活動をしている現状を変える方法として、「中国は遠距離偵察能力の発展スピードを速め、なるべく早く米国本土近くを偵察できるようにして、中米の相互の近距離偵察のバランスをとるべきだ」と指摘。「米国が中国近海での偵察活動をやめないなら、中国は、(米国)本土を目標とした近距離偵察の味を米国に味わわせるしかない」と訴えた。

中国軍機の挑発行為の背景要因は何か。中国側には「これは中国の核心的な安全保障上の利益に及ぶ問題であって、米軍の偵察は基本的に敵対行為と見なしてよい」(環球時報)との認識がある。一方で、米メディアには、今年4月にオホーツク海の公海上空で米空軍の電子偵察機がロシア軍戦闘機の異常接近を受けた際の米側の「反応不足」が誘因となったとの見方がある。つまり、挑発したところで、大したリスクはないと中国軍に軽く見られてしまったというわけだ。

危険な力の空白

米国内では、今回の事案を教訓に、アジアでの米軍のプレゼンスの重要性について、再認識を促す議論も出てきた。保守系シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ政策研究所」のマイケル・オースリン日本部長は8月28日付米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)への寄稿でこう指摘している。

「この先10年でアジアにおける米軍のプレゼンスが、他地域での需要や継続的な予算削減によって、徐々に弱まっていくと、一体どんなことが起きるか。中東や東欧で広がった力の空白が、アジアでも生じるだろう。世界が見てきた従来の中国の行動様式に基づくと、力の空白ができれば、中国の行動はさらに攻撃的になるだろう」

中国の習近平国家主席(61)は今年4月、北京でチャック・ヘーゲル米国務長官(67)と会談した際、「新しいタイプの大国関係構築の大きな枠組みの下で、新しいタイプの軍事関係を発展させるべきだ」と述べていた。異常接近が「新しいタイプの軍事関係」の一端なのだろうか。中国の言行に矛盾はないか、常に注意が必要だ。

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