「なぜ我々が中国に搾取されねばならぬ?」

103 (1) 米国の裏庭“資源国”から上がる疑問の声

中国が中南米で存在感を強めている。中国の習近平国家主席は今年7月、ブラジルで行われた中南米・カリブ諸国首脳会議で「共に発展する運命共同体の構築に努める」と題した演説を行った。中南米各国への投資も熱を帯びる。米国の「裏庭」にくさびを打つ狙いもあるが、世界で中国が続ける「資源漁(あさ)り」の一環でもある。「なぜ中国に搾取され続けなければならないのか」。投資を受けた側の国からは、そうした疑問の声があがっている。

ウインウインの関係は本当か?

習主席は、中南米諸国の首脳が顔をそろえた7月17日の会議で、経済面での協力で、ウインウインの関係を築くことや、政治・文化面での交流などを発表。会議では、中国・中南米カリブ諸国共同体フォーラムの発足が発表された。人民網(電子版)などが伝えた。

ブラジルのルセフ大統領やキューバのラウル・カストロ国家評議会議長らが首脳の中に、中南米ベネズエラのマドゥロ大統領の姿もあった。習主席はこの後、21日にはベネズエラを訪れ、マドゥロ大統領と首脳会談を行い、油田開発や鉱物資源などに関する38もの協定に署名した。

国際石油資本の英BPの統計によると、ベネズエラの石油埋蔵量は2012年が2965億バレルで世界一。原油の生産量でも、メキシコに次ぐ中南米2位で、中国への原油輸出は13年で3054万トンに及ぶ。ただ、その多くは中国への債務返済に充てられている。

今回の中国との経済協定では新たに57億ドル(約5700億円)の融資が結ばれた。ただ、これには反発の声があがっている。

「世界で最大の石油埋蔵量を持つ私たちが、なぜ中国に多くの負債を抱える必要があるのか」

インターナショナル・ビジネス・タイムズ(アイビータイムズ、電子版)によると、反政府系のリーダーの1人で、大統領選でマドゥロ氏と争ったエンリケ・カプリレス氏は短文投稿サイトのツイッターにこう記した。中国による「資源漁り」への警告でもある。

世界最高層のスラム街をめぐる暗躍?

ベネズエラでは、あるビルと中国を結びつける報道があった。

ロイター通信などによると、ビルは、世界で最も高い「スラム街」とされる首都カラカスの45階建ての「ダビドの塔」。投資家のダビド・ブリレンブルグ氏が所有し、当初は金融センターになる予定だったが、金融危機と同氏の死去などの影響を受け1994年ごろから工事が中断。そのまま放置され、当時のチャベス大統領(2013年3月に死去)が07年にホームレスやギャングの構成員が移住することを許可した。

アイビータイムズなどによると、建物内で麻薬の売買が行われたり、誘拐・拉致の現場になったりするなど犯罪拠点となった。

貧困と暴力の象徴となったビルで今年7月22日、不法居住者約3千人の退去が始まった。退去者はカラカス郊外に政府が用意した低所得者向け施設に向かったという。

今回の退去の真意は分からないが、ベネズエラは犯罪発生率が高く、犯罪が横行している。その汚名の払拭(ふっしょく)というのは考えられるシナリオだが、それだけではないという。ロイター通信やアイビータイムズは地元紙報道としてこう報じた。

「ダビドの塔は中国の銀行に引き渡される」

犯罪天国を罠にかける?

米CNN(電子版)によると、ベネズエラで昨年1年間に暴力に関連して死亡したケースは2万5千件。ベネズエラの人口は約3千万人で、殺人事件は21分に1度起きている計算になるという。

また、米ギャラップ社が12年末までに134カ国・地域で実施した調査で、治安に対する市民の実感を調べたところ、ベネズエラでは74%が夜道を一人で安心して歩けないと回答。世界でトップとなった。

とくにカラカスでの殺人事件の発生率は高く、デーリー・テレグラフによると、10万人に109人の割合で起き、これは世界で3番目に高い。とくに200万人が住む東部のペタレ地区は南米一のスラム街とされ、犯罪の温床となっている。

アイビータイムズによると、中国への引き渡しの情報は反政府系の新聞が伝えた。これに対し、ベネズエラの担当大臣は、退去は人道的な理由で中国の企業とは関係ないと否定。マドゥロ氏も不法入居者の退去を勧告した際、ダビドの塔を破壊し、新たな団地をつくるか、金融センターとするかなどの提案を行ったとされる。

中国の銀行への引き渡し報道が事実なら、犯罪天国を手玉に取るような行為になるかもしれない。

中南米各国は中国からの資本流入と中国への輸出を、「成長のエンジン」としてきたが、これは言い換えれば「搾取」とも読み取れる。中国からの巨額融資を受けたベネズエラも、その罠(わな)に陥らない保証などない。

コメント


認証コード3129

コメントは管理者の承認後に表示されます。