バルト3国

画像の説明 「脱ロ」加速 ウクライナ危機、契機

旧ソ連のバルト3国が、ロシア依存からの脱却に取り組んでいる。天然ガスの輸入を減らすため、液化天然ガス(LNG)基地を建設。欧州の規格で3国を結ぶ高速鉄道の計画も立ち上がった。緊迫するウクライナ情勢を受け、「脱ロ入欧」の動きが加速している。

■LNG基地、輸入先多様に

バルト海に面したリトアニア西部の港湾都市クライペダ。その沖でLNG受け入れ基地の建設が進んでいる。船型の貯蔵・気化設備を置き、タンカーから移したLNGをガスに戻してパイプラインで陸地に送る仕組みだ。

2011年に始まったプロジェクトで、今年12月の完成を見込む。政府出資のエネルギー会社クライペドス・ナフタのロカス・マスリス最高経営責任者(CEO)は「いま天然ガスの100%をロシアから輸入している。ロシア依存から独立するため、リトアニアで最も重要な事業だ。政府首脳が毎月ここに来て、工事が予定通り進んでいるかチェックしている」と話す。

事業費の約14億リタス(約555億円)は、ナフタ社が販売するガスの料金が原資だ。リトアニア全体のガス料金の5%にあたるといい、いまよりガスを5%以上安く仕入れられれば、もうけが出る計算だ。マスリスCEOは「すでに効果が出ている。ロシアは今年、23%もガス価格を引き下げた」という。

基地が完成すれば、シェールガス開発が進む米国などからLNGを安く仕入れられる。ノルウェーからの輸入交渉も始めた。ラトビアなどへの販売も見込む。リトアニアのヤロスラフ・ネベロビッチ・エネルギー相も「輸入先が多様化できる」と期待を口にする。

天然ガスをロシアに全面依存しているエストニアやフィンランドでもLNG基地計画が進む。

欧州全体でも3割をロシアから輸入し、その半分はウクライナ経由のパイプラインで送られている。ロシアが09年、ウクライナへのガス供給を約2週間止めた際には、欧州各地で工場が操業を一時停止するなどの影響が出た。今年6月にもロシアがウクライナへのガス供給を止めた。「脱ロシア依存」は喫緊の課題だ。

ビリニュス大のロマス・シュラーダス教授は「ウクライナ情勢が各国を動かした。リトアニアに政治的影響を与えるため、ロシアが独占的立場を使いかねないからだ」と説明する。

■「入欧」へ同じ規格の鉄道

バルト3国を南北に貫く高速鉄道「レール・バルティカ」計画も動き出した。

今年6月、3国の首相が共同出資会社を設立することで合意した。来年2月までに計画をまとめ、24年までの完成をめざす。

エストニアの首都タリン、ラトビアの首都リガ、リトアニアのカウナスを通ってポーランド国境付近までつなぎ、最高時速240キロの鉄道を走らせる計画だ。

回り道となる首都ビリニュス経由への変更を主張したリトアニアに対し、1月にエストニアの前経済相が「愚か者」と批判してもめたが、カウナス―ビリニュス間に支線を通すことで一致した。総事業費は35億ユーロ(約4800億円)以上。そのうち85%程度が欧州連合(EU)の財政支援でまかなわれる予定だ。

バルト3国の鉄道は、ほとんどが旧ソ連時代に造られ、各国の首都や港湾都市とモスクワやサンクトペテルブルクを東西に結ぶ。線路の幅は1・52メートルと旧ソ連時代からの規格で、1・435メートルの欧州規格より広く、相互乗り入れはできない。レール・バルティカは欧州規格だ。

計画に携わっていたエストニアのコンサルタント、カウル・ラス氏は「90年代半ばごろに構想が浮上したまま進まなかったが、ウクライナ危機で3国の協力姿勢が強まった」と説明する。

エストニアのウルバ・パロ経済相は「フィンランドやスウェーデンからの貨物も欧州南部に運べるようになる。ロシアは政治的に不安定なので、欧州との結びつきを強めたい」と話す。

タリンと対岸のヘルシンキの間の約80キロを海底トンネルで結ぶ壮大な構想も持ち上がる。両市は共同で研究を始め、来年2月にまとめる予定だ。

とはいえ、バルト3国の経済は、欧州とロシアをつなぐ役割を果たすことで成長してきた面もある。

ラトビアのエコノミスト、リーヤ・ストラシュナ氏は「貨物は東西の移動がほとんどで、レール・バルティカができても多くの需要が生まれるとは言い切れない。政治的な意味合いが強い事業だ」とみる。

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