「子に米国籍を」

画像の説明 「子に米国籍を」中国人出産ツアー

芝生の緑が鮮やかな住宅街のプールサイドで、妊婦たちがくつろいでいた。バーベキューの香ばしいにおいが漂うと、中国語の会話がいっそう弾んだ。

カリフォルニア州ロサンゼルス東部のローランドハイツ。中華料理店や中国系銀行が多い地区にある高級住宅地「フェザンハイツ」では、塀に囲まれた敷地の門から妊婦や乳母車を押す女性が出入りしていた。米国で出産するため中国から来た女性たちだ。

「生まれてくる赤ちゃんに、人生の選択肢を増やしてあげたいの」。北京から1カ月前に来たという女性(35)は話した。公務員。職場には、米国にいることを隠している。夫は建設会社を営み、中国生まれの長女は3歳。長男は米国で生まれれば、市民権(国籍)を得て「米国人」になる。

到着後、高級ブランドのバッグや洋服を買うため約1万ドル(約100万円)を使った。「店では客の9割が中国人妊婦だったわよ」。帰国前に大量の離乳食も買う。「中国製は安全ではない」からだ。

子どもに米国籍を取得させるための出産は、ネットで探した業者に手配を頼んだ。業者によると、費用は3カ月の滞在で10万元(約160万円)ほど。ビジネスクラスでの往復、食事や産後のケアなどで最良のサービスを受けるには、その3~4倍かかるという。

米国に移る別の手段として「投資移民」も、中国人を引きつける。米議会は1990年、時限立法で投資移民制度を作った。100万ドル(約1億円)、失業率の高い地域では50万ドルを投資し、米国人10人を雇うなどの条件を満たせば、投資家にビザを、ゆくゆくは永住権を与える。2015年まで延長され、恒久化されるとの観測もある。

カリフォルニア州サンフランシスコの東にあるオークランド。外国人投資家と投資案件をつなぐ連邦政府認定の受け皿「地域センター」を設立したトム・ヘンダーソン代表(65)は「中国人投資家のカネが失業率の高い町で雇用を生み、投資家は永住権を得る。ウィンウィン(ともに勝者)の関係です」という。

地域センターは、全米に300以上。オークランドでは設立から約2年半で2700万ドル(約27億円)の投資を集めた。99%が中国からだという。

オークランドの地域センターの胡珂星・中国代表(35)は「移民の理由を聞かれたら、ほとんどの人は教育のためと答える」と話す。「ただ、根底には中国の将来への悲観がある」とも指摘した。

19世紀半ば、米西海岸のゴールドラッシュで一獲千金を夢見た中国人が太平洋を渡った。20世紀末、中国から米国を目指した出稼ぎは、厳しい労働に耐えた。89年の天安門事件後、中国人学生が米国の留学先にとどまり、自由を求めて中国から米国へ逃れた。

いま、官僚や国有企業の社員ら中国の新しい富裕層が、一党支配の将来を見通せない中、出産や投資で米国に活路を求めている。

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