中国「LINE封鎖騒動」の真相

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「グレートファイヤーウォール」はこうして作動した

無料メッセンジャーアプリ「LINE」が中国国内でアクセス不能になり、すでに1ヵ月が経過した。これまでも中国政府はグレートファイヤーウォール(防火長城)と呼ばれるネット検閲システムを利用し、「反政府活動」や「公序良俗」違反の温床になり得るネットサービスを監視下に入れ、場合によってはアクセス規制をしてきた。

「LINE」もついにその対象になった恰好だが、ここ半年の中国政府の動向と中国モバイルサービスはどのような展開になっているのか。

グレートファイヤーウォール(防火長城)
による情報統制

そもそもグレートファイヤーウォールとは、中国政府国家公安部により「公安活動のIT化」を目的とした金盾計画の中核として、1999年から開発が始まった大規模なネット検閲システムである。対象は「反政府活動」と「公序良俗」に反するネット上のサービスであり、規制対象となったウェブサイトやサービス企業へ警告、最悪の場合アクセス遮断となり、中国国内からは一切通信ができなくなる。

そのファイヤーウォールの通過基準は公式には明かされていないが、一般には以下の3点と言われている。

・特殊な暗号化などグレートファイヤーウォールによる検閲を回避している、と政府当局に判断されないシステム、サービスであること。
・企業が「自主的」に規制対象となるキーワード等項目を排除する防止措置がとられていること。
・政府からの「反政府活動」や「公序良俗」に反する情報排除への協力要請に応じること。

上記事項が守られていない、と中国政府に判断されると、警告やアクセス遮断がなされている。また規制対象となるキーワードは時期や治安情勢により流動的で、全国人民代表大会(中国における国会)前後や、天安門事件や香港返還など歴史的事件が発生した日付の前後など、メディアやSNSで話題が頻発する時期にキーワードの規制が極度に強化されるケースも多い。

出典:百度百科より。著者による日本語訳。直接的に反政府活動や公序良俗に反する内容でなければ、規制対象になる一時ブラックリスト対象になったとしても通常は警告・是正措置に従うことで永久ブラックリスト入りは回避できる

実際に制限対象となったサイトとしては、「反政府活動」の温床になり得ると判断された、中国政府への許認可を取っていない海外の報道に関するウェブサイト(BBCなど)や、法輪功や天安門事件批判などへのアクセスを可能にするグーグル、または「公序良俗」に反するアダルトやギャンブルに関するサイトなど多岐に渡る。

なぜLINEがこのタイミングでアクセス規制に?

また最近ではモバイル端末の利用増加に伴い、政府の監視が効きにくい海外企業だけではなく、中国版「LINE」とも言える「We Chat」も、主にウイグル族の間でデモ用途に利用されたため、中国政府が運営会社であるテンセントへ協力を要請し、テンセント側が応じた形だ。

このように、現状では特にモバイルメッセンジャーアプリなど、間接的に規制対象となり得るサービスについても、海外企業だけでなく中国最大手の企業においてもアクセスが遮断されており、規制対象となっている状況である。

なぜLINEがこのタイミングでアクセス規制となったのか?

LINEが中国に進出してから既に1年以上経過しているが、なぜ今このタイミングでアクセス規制が掛かり、中国での利用ができない状況になっているのか。

現状としては、中国政府が正式に理由を公表した訳ではなく、LINEもまた公式微博(ウェイボー、中国のSNS)にて、「アクセス障害が発生し問題を解決するため最善を尽くしている(2014年7月2日、意訳)」と発表したのみである。

2014年7月2日以降、LINEからのコメントはなく、ユーザーからは2万件以上のコメントが寄せられている

ただ、現在の中国国内事情やこれまでのLINEのプロモーション経過を俯瞰すると、以下のポイントで中国政府側からのアクセス遮断が掛かった可能性が考えられる。

まず第一にLINEは2014年から中国本土におけるテレビCMや路上広告を積極的に展開しており、7月2日以前はテレビ局の自主規制ないし中国政府からの検閲をクリアしていたので、LINEそのものが従来から規制対象になっていた訳ではない。

その上で、7月に入り規制対象となった可能性として挙げられるのが、6月4日の天安門事件の日として記憶されている日付の前後、および7月1日の香港返還記念日前後に、LINEのサービス内にて規制対象キーワードが多発し、またLINE側も自主規制ないし中国政府への協力要請に対し、充分に対応できなかった可能性がある、という点である。

2014年6月前後に話題となった、主に中国語を母国語としたと思われる集団によるLINEアカウントの乗っ取り及び詐欺事件への対処法として、中国では、LINEで「天安門事件」と返信することにより、グレートファイヤーウォールが反応し中国側のアクセスが遮断され詐欺行為を未然に防げる、というものが日本国内で話題となった。

このタイミングが中国で常時アクセス遮断対象キーワードとなっている過去に「六四天安門事件」が発生した6月4日前後と時期を同じくしたため、グレートファイヤーウォール側にて異常値として検出され、警告措置ではなくLINEサービス全体への即時アクセス遮断となったのではないか、という推測である。

中国政府の求めに応じない企業のサービスは遮断される

同様に、すでにLINEのシェアが40%を超え日本同様の利用頻度となっている香港にて、7月1日の香港返還前後に活性化された大規模な民主化デモに伴い、LINEをはじめ海外系SNSや写真共有アプリなどにおいて、通常検閲規制のない香港にてイレギュラーなアクセス遮断がなされており、中国政府がモバイルメッセンジャーアプリでのデマ等に対し、重大な問題であると認識していることがわかる。

すでに8月7日の時点で、中国政府から主にWe ChatやLINEをはじめとするメッセンジャーサービスについてのガイドライン、通称「微信十条(We Chat十ヵ条)」が発表され、上記問題についての政府公式見解及び規定が定められた。

これによると、「企業公式アカウントの実名制及び認可」「一般ユーザーアカウントの身分証明の必要性」「報道系アカウントの政府への届出」「サービスプロバイダーの政府当局への協力義務・記録保持・情報開示」が明文化されており、曖昧となっていた従来とは異なり、中国政府当局からモバイルメッセンジャーサービスについて「政治的問題に関する監督下に入る」という明確な意思表示となっている。

We Chatをはじめとするモバイルメッセンジャーアプリについて。ポイントは以下の通り
●(LINEを含む)中国国内を対象としたメッセンジャーアプリが政府監督下にあることを明文化
●一般ユーザーの身分証明提示の厳格化、企業アカウントの実名認証制
●時事問題についての報道アカウントは中国政府への新聞社登録が必要
●サービスプロバイダーは法令・社会主義を遵守の上、政府の要請に従いデータを保管し、要請に応じて開示すること

この規定に従い、中国で最も普及しているメッセンジャーアプリ「We Chat」も上述した通り、ウイグル自治区においてテロ用途に利用されたため、中国政府からの協力要請に全面的に応じ、自主的に情報提供、規制対象キーワード制限や一部アクセス遮断がなされている。

このような一連の中国政府としては看過する事のできない事象に対し、単なる技術的な面での是正が困難な事から、特にコントロールの効きにくい海外(香港含む)からのアクセスが多いLINEの全面遮断及びサービス是正勧告に踏み切った可能性が高く、単なるネットワークシステムの問題では無いため、復旧には相当な時間と対応工数が掛かるものと見受けられる。

スカイプ、リンクトインが中国で成功している理由

スカイプやリンクトインはなぜ中国で使えるのか

一方、同じ海外企業におけるメッセンジャー・コミュニケーションアプリとして有名なスカイプやリンクトインは、例外的に中国における継続的なサービス展開に成功している。

スカイプは、上述した中国政府の検閲時の要点や協力要請、自主規制を積極的に行っており、全国人民代表大会や香港返還記念日のタイミングなどを除き、比較的安定的なサービス提供に成功している。

またリンクトインは、LINE同様のメッセンジャーアプリに見えるが、中国で成功している主な理由は、「主な利用用途や機能がビジネス向け」「利用者も英語可能な高学歴層がほとんど」「利用者数が少なく影響が少ない」点であり、「反政府活動」や「公序良俗」を揺るがす事態になる可能性が低い、という点でグレートファイヤーウォールのアクセス遮断対象外となっている。

ただし、8月7日に発表された、通称「微信十条」により、今後スカイプやリンクトインに関してもサービス改訂がなされる可能性があり、安定したサービス提供が継続してできる、とは言い難い状況である。

いずれにせよ、LINEをはじめとした、中国にとって中国政府の検閲が効かないグローバルでの情報交換ができる海外系SNSアプリは、安定したサービス基盤を獲得することが容易ではないのが、現在の中国におけるネット市場の現状である。

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