中国不動産バブルの勝ち組、負け組

画像の説明 勝ち組は次々にマンションを購入

日本にとって近くて遠い国、中国――。日本人は、中国や中国人について語るとき、つい画一的なイメージを持ってしまう。しかし、中国人は極めて多様だ。特に若い世代と古い世代には、価値観に大きな隔たりがある。では、中国人の新世代エリートたちは、何を考え、どんな価値観を持っているのか。現地でのインタビューや鼎談などを通じて、キャリアから政治から恋愛まで、今どきの中国人の本音を探る。

中国人はマイホームを持つということに、並々ならぬ強い思いがある。それゆえ、中国の不動産バブルは、ごく一般の庶民の間にも勝ち組と負け組を生んだ。特に北京では、北京五輪とリーマンショックが一緒にやってきた2008年あたりを分水嶺に、マイホームをなんとか買った人と買えなかった人の明暗がよりくっきりと際立ってきたようだ。そんな負け組と勝ち組の2人の女性の話をレポートする。後編では「勝ち組」の運用哲学を聞いてみよう。

■前編はこちら

北京で研究職につくシングルマザーの郭さん(仮名)と最初に知り合ったのは10年前、日本でのことだった。出張に来ていた郭さんは型落ちした6万円の一眼レフカメラを買おうかどうしようか、かなり長い間迷っていた。その頃、彼女にとって6万円というのは月収の3分の2に相当する買い物だった。

その少し後、北京の郭さんの家に遊びに行った。「部屋が2つもあるのよ!」とうれしそうに案内してくれた彼女のマンションは、壁の漆喰の表面がはがれかかり窓枠がさびついた古い2DKで、お世辞にも「きれいな家」とは言いがたかった。

しかしそれからほどなくして「マンション買ったから見に来て」と誘われ、訪ねた部屋は、瀟洒なメゾネットタイプの新築だった。それほど広くはなかったが、アンティーク調の家具がきれいに並べられていた。

その後、彼女は買ったマンションを賃貸に出すことで、次々と手持ちの不動産を増やしていった。中国の経済成長の波に乗るというのはこういうことかと実感する発展ぶりだった。今年50歳になるという彼女に、夕食をごちそうになりながら、話を聞いた。

■底値で買って、5倍に値上がり

――今、所有のマンションは何軒?

10軒。5軒は市中心部の周辺で、残り5軒は郊外のベッドタウンにある。このうち未完成は2軒で、そのひとつはもうすぐ引き渡しがある。そこは息子にあげようと思っているの。彼は大学院生で寮暮らし。プライベートもないから、ずっと彼女ができないでいる。もういい年だから、ぼちぼちお相手も見つけてほしい。最後に買った1軒は昨年末、あなたと一緒に見に行ったところ。

――北京南部の開発中のエリアで、まだ何もなくて、地面に大きな穴を掘削中だったところですね。

そうそう。これから街ができる。引き渡しは2年後。ああ、それから昨年、家の近くに、地下室を1軒買ったわ。18平方メートルで10万元ちょっと。安いでしょ。家の数には入らないわね。今は物置がわりに使っている。将来、年をとって体が不自由になったら、お手伝いさんを雇ってここに住んでもらってもよいかなと考えている。

――中国では不動産投資熱を抑制するため、1家族当たり買える物件を制限しています。

中国で住宅を建築できる土地には使用権70年の住宅用地と、50年のオフィス兼住宅用地があって、制限があるのは70年物件のほう。私が買っているのは大手ディベロッパーが開発する50年物件で、これなら制限はないし、特に問題もない。

――1軒目を買ってからかなり値上がりしたと思いますが、いかがでしょう。

最初に購入したのが2003年で、大学街の物件だった。当時、37万元で買ったものが、今は200万元くらいになっている。それからほぼ毎年、買っていて、たとえば2005年に30万元ちょっとで買った物件を、2010年に売ったときには180万元だった。

これは息子の留学費用にしようと思ったのだけれど、結局、国内の大学院に進んだので、この資金で翌年、ベッドタウンにある80万元の物件を購入した。これがもうすぐ引き渡しされるマンション。

開発が始まったばかりのときに底値で買うと、その後の値上がりが大きい。2009年に51平方メートル40万元で買った物件は今、160万元になっている。今度、引き渡しされる80万元の物件は、150万元にまで上がっている。

最近は前ほどの値上がりはないけれど、昨年末に買った80万元の物件は、2年後の引き渡しのときに130万元、3年後には160万元くらいになっていると思う。これまで買った物件を平均すると、少なくとも5倍にはなっている。

■親から借金して利子をつけて返す

――郭さんは商売をしているわけでもなく、ごく普通の研究職でいわばサラリーマンですよね。なぜそんなにたくさんの家を買えるのですか。

最初に買った37万元の物件は頭金15万元を払って、残りを5年ローンにした。当時、私は職場から部屋を支給されていたので、自分はそこに住んで、買った物件は賃貸に出した。ローンの返済が毎月4000元で、賃貸収入は3200元だった。賃貸料も毎年上がっているし、研究職のほうの収入もあるのでやり繰りできた。2軒目、3軒目はちょっと大変だったけれど、ローンを払い終われば、家賃収入が次の資金になるので、そこから先はだいぶ楽になった。

中国人は貯金がゼロになることを怖がるし、借金することに抵抗がある。だから2軒、3軒と、続けて借金しながら買おうとは思わない。でも私は全然気にしない。借金、大好き。なぜなら今年使ったおカネが、来年、いくらになって返ってくるかを考えるから。

おカネは親からも借りた。私たちの親の世代はそれなりの貯金を持っている。一般に数十万元程度の貯金があるのは普通だと思う。老人はとにかく節約するからおカネが貯まる。年金もなかなかよいので、中には子の給料より親の年金のほうが高いということもある。

私の親はそれほど裕福ではないけれど、20万~30万程度なら貸してくれる。私はそれに利息をつけて返す。この話を中国人にすると、親に利息を払うなんて変じゃないかと言われる。でも、銀行ローンは利息がけっこう高い。その割には銀行に貯金をしていてもあまり利息がつかない。ならば、私は親から借りて、利息を親に払えばウィンウィンの関係になる。

――銀行の利息はどのくらい?

ローンの利息は何年で組むかによるけれど、だいたい7%を超える。10万元借りたら7000元以上を返さないといけない。銀行貯金のほうは、10万元を1年間預けて5000元の利息がつく程度。

ならば私は親に、たとえば10万元を借りて年間7000元の利息をつけて返せば、私も親もちょっとずつ得することになる。

■最初は風呂トイレ共同の部屋だった

――郭さんの話を聞いていると、少し頑張ればたくさん不動産を持てそうな気がしてきますが、私の周囲でそこまで買っている人はいません。

私にはどうしてもそうせざるをえない事情があったから。私は1989年に離婚し、1歳の子供を独りで育てなくてはならなかった。両親に経済的負担はかけられなかったし、実家は狭く、兄夫婦が同居していたので、私たち母子が出戻ることもできなかった。

それで私は職場から支給された「筒子楼」という、風呂トイレ台所が共同の寮のようなところに住んでいた。あるとき、洗い物をするため、子供を部屋に置いて、水場に行くと、私の姿が見えなくなった子供が突然、大声で泣き始めた。それを聞いて、本当に心が張り裂けそうだった。

その頃、大学時代の同級生が両親にマイホームを買ってもらった。彼女の親は政府高官で家も裕福だった。どれだけうらやましかったか。いつか絶対、独立したトイレと台所のある家を買おうと、それが私の夢になった。

でもそもそも月給2000~3000元では、子供すら育てられない。そこで専門分野を生かして、骨董の本の執筆を請け負い始めた。骨董ブームで、1冊書くと原稿料は2万8000元くらいになった。これを何冊か手掛けることで、生活費を稼ぎながら、マンションの頭金を貯めることができた。

同時に職場のほうでは報告書を山ほど書いて、ようやく、単独の部屋を支給してもらえることになった。あなたも来たことがあるあの2DKの古いマンションよ。私が今、たくさんマンションを買っているのは、あのときの体験があるからだと思う。今、この国で、資産を増やすとしたら、不動産ほど最適なものはないわ。

――そうは言っても、一般のサラリーマンで不動産投資にまで手が回る人はあまりいません。それどころか1軒目をなんとか買ったはいいけれど、ローン地獄に落ちるという話が社会問題にもなっています。

これは中国人のよくないところだと思うのだけれど、多くの人が家を買うなら市内の場所がいいところとか、100平方メートル以上の広い部屋とか、とにかく人に見せて「面子(メンツ)」の立つ物件を買おうと考える。彼らはまるで自慢するために家を買うみたい。そうなると価格は高くなり、ローンの返済に苦しむことになる。

それは車でも同じ。中国人は見栄えのよい外車を買おうとする。でも私は、マンションも車も実用第一。

――小さな国産車に、10年以上乗っていましたね。

夏利(シャーリー)に15年乗った。夏利にしたのは、当時、北京市のタクシーに採用されていた車種で、国産の中では信頼性が高かったから。家も同じ。まずは徒歩圏内に地下鉄駅のある新興住宅地で、40平方メートルくらいの小ぶりの物件を、まだ開発が始まったばかりのときに底値で買う。小ぶりの物件は、賃貸に出したときの利回りもよいわ。

私は新築マンションでいい物件があったとき、必ず周囲に声をかけるようにしている。そうしたらみんなでリッチになれるでしょう。多いときは7~8人のグループで、一緒に買いに行くんだけれど、2軒目、3軒目を買った人でもそれ以上になると、まあこのへんでよいかというふうになる。

中国の新築マンションは一から内装をして家具もそろえなければいけないので大変だし、人に貸すのも面倒だから。でも私はその手間をいとわない。それも大事だと思う。

■株と同じ、チャンスを見極めること

――特にこの5年ほどは不動産の高騰が激しく、そのために家を買いそびれたという人も少なくありません。私の友人夫婦は、貯金が40万元あるときに、買おうと思った家が53万元だったので、翌年もう少し貯金がたまってから現金一括で買おうと思っていたら、100万元に跳ね上がってしまったという話でした。2008年から2009年のことです。

確かに2008年には変動があった。私もその頃に家を買ったから覚えている。2008年の年末ぐらいに価格が下がり始め2009年の年初は最低価格だった。私はちょうど2009年2月ごろに57平方メートルの部屋を40万元で買った。その後、6月くらいにはまたすぐ上がり始め、私が買った部屋も今は160万元になっている。

これは株と一緒だと思う。株はつねにもっと高くなってから売ろうと思っていると、結局、チャンスを逃すことになる。不動産はおよそ5年周期で好調と停滞があるのでそれを見極めることは大切だし、何より周りに踊らされてはいけない。どんなときでも自分を保って実用第一でいかないと。

――このところまた不動産価格が下がっています。それにバブルがはじけるのではないかとずっと言われています。心配ではないですか?

まったく心配はしていない。なぜなら、私が買った物件はどれも交通の便のいいところで、必ず底値で購入しているから。最初の37万元の物件は一時250万元にまであがって、今は200万元くらいまで下がっている。でもたとえ150万元に下がったとしても、損はない。

影響を受けるのは、購入してすぐに転売するような人たちで、私のように長期でやっている者は、売れないときは売らなければいいし、そもそも売るつもりもない。

今、月給は手取りで1万2000元、これに対し賃貸収入は毎月4万元くらいあって安定している。仕事は好きなのでやめるつもりはないけれど、不動産収入があることは将来的に大きな安心になる。

中国の経済は改革開放以降、10倍に発展した。だから個人の収入も10倍にならなければ、負け組だと思うわ。

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