新電力

参入活況でも「原発ゼロ」がもたらす“自己矛盾”次々…
「原発再稼働で安く仕入れたい」本音と、営業建前「環境やさしい」すれ違いの新電力も
大阪ガスの泉北天然ガス発電所。発電した電気の一部を新電力エネットに販売している＝大阪府高石市
平成２８年の電力小売り全面自由化が決まり、新電力（特定規模電気事業者）の参入が相次ぐ電力市場。新電力側は「ガリバーとなっていた大手電力会社が独占してきた市場を切り崩す」と鼻息も荒い。市場の活性化や選択肢の増加で、電気料金の引き下げなどに期待がかかるが、ここに来て意外な“落とし穴”も浮き彫りになってきた。ここでもネックは電力不足だ。
ブームにわく新電力
「今後も安い電力を供給していく」
６月１１日、大阪市中央区で開かれた「大阪電力選べる環境づくり協議会」のセミナー。参加した新電力の担当者らは、口々にこう強調した。
大手電力会社の値上げなどを機に新電力に乗り換える企業や官庁が増加したのに伴い新電力も急増している。これまで約２８０社が届け出ており、この１年で約３倍に増えている。設立母体は、ガスや石油などエネルギー会社にとどまらない。食料品や化学、住宅、通信事業などさまざまな業種も参入し、さながら新電力ブームの様相を呈している。
新電力の武器は、大手電力会社よりも１割程度安くなる価格だ。新電力に参入したオリックスは「安くなければ、既存の大手電力から乗り換えてもらう意味がない」と言い切る。
平成２５年度に関西電力と契約を打ち切り、新電力に乗り換えた企業や官庁などの大口需要家は過去最高の２９８７件。ソフトバンク系発電会社のＳＢエナジーは「競争原理が機能して、市場のガリバーもびっくりし始めているのでは」と自信をのぞかせている。
顧客、電源…争奪戦激化
上昇気流に乗ったかにみえる新電力だが、威勢のいい話ばかりではない。
「課題の１つは電源」。電力市場に詳しい富士通総研の高橋洋主任研究員は、こう指摘する。
新電力といっても、大半が“大手頼み”…おまけに
大半の新電力は自前の電源を持たず、発電能力は国内全体の１％程度にすぎない。多くは、大手電力などから仕入れた電力を取引する「卸電力取引所」を利用している。ただ、取引所での取引量は国内の電力量全体の１％程度にとどまる。自前の商品（電力）を確保しておかなければ、価格競争力で優位に立つのは難しい。
東日本大震災以降、常態化している電力不足の影響で、大手電力会社が取引市場に回す電力は減少気味といい、新電力関係者は「市場で買う電力は今が最も高値になっているのでは」と指摘する。新電力のなかでも、自前の電源を保有する事業者は本業で大規模工場を運営している企業に限られている。
このため、電力不足が新電力の間の優勝劣敗を促進させている。「新電力のメリットを出せる顧客層は限られている。でも、その大半はすでに、大手の新電力に取られてしまった」。中堅の新電力の担当者はこうこぼす。
新電力が新規顧客として開拓を目指しているのは電力使用量が比較的小さいオフィスや学校、役所など。大手電力会社は電力使用量のピーク時で電気料金を算定するため、２４時間フルタイムで電力を使用し続ける工場と違って、夜間などに電力使用量が大幅に落ちるオフィスなどにとっては割高感があった。そこで、新電力は大手電力会社とは違った電気料金の設定でお得感を感じてもらい、契約につなげていく。大規模な工場などは供給面の不安から新電力を敬遠する傾向があることもあり、ターゲットは限定され、争奪戦が繰り広げられているという。
ある新電力は「これまでは対象外だった使用量の多い顧客層も狙っていくしかない」と話す。ただ、電力供給の事情が改善されないままでは、電力を安く調達して価格競争力を発揮できるかは不透明だ。
顧客争奪戦は、すでに大手電力会社も巻き込んでおり、サービスを競うようになっている。「電化厨房を導入したら割引率をアップするなど値引き攻勢を強めている」（電力業界関係者）という。
切り札は原発…
新電力設立の届け出が増えているとはいえ、経済産業省の調査などによると、実際に電力を販売している新電力は届け出の２割程度という。多くの新電力は、電力を供給していない休眠状態だ。
電力問題に詳しい常葉大経営学部の山本隆三教授は「大半の新電力は自前の電源が保有していないか、あっても出力数千キロワット級の太陽光発電。この程度の供給規模ならば電力小売りが全面自由化しても電気料金を下げる効果はないかもしれない」と心配する。健全な競争を促すためには、電力不足を解決するのが先なのだ。
新電力側からは「原子力発電所の稼働が進めば、もっとやすく電力を調達できる」（エナリス）との声が上がる。ただ、太陽光や風力など再生可能エネルギーによる「クリーン」な電力を供給することをセールストークにする新電力も少なくない。安く仕入れたい本音と「環境に優しい」と営業している建前がすれ違う新電力もでてきている。

• 次の記事　→
• ←　前の記事

コメント