アベノミクスに忍び寄る

俳句の日
スタグフレーション-
日本はとうとう、スタグフレーションのリスクを軽く見てはいられない状況になったのかもしれない。

過去1年、私は数回にわたってこのリスクを指摘した。日本には10数年ぶりに景気回復のまたとない機会が訪れていたが、13日に発表された無残な国内総生産(GDP)統計は、スタグフレーションが現実の脅威として目の前にあることを示唆した。

前期比年率で6.8%減少という4-6月実質GDPへの全体的な反応は、「もっとひどかったかもしれないんだから、肩の力を抜こう」という感じのようだ。意図もタイミングも悪かった4月の消費税率引き上げを受け、エコノミストの多くが7%余りの縮小を見込んでいたのだから無理もない。しかしGDP統計の詳細や最近の他のデータが示すのは、せいぜい良くても景気が弱々しく、インフレ率の上昇は続くというシナリオだ。

安倍晋三首相が就任して以降の日本銀行の異次元緩和や円の16%値下がりを背景に、6月の消費者物価は前年同月比で3.6%上昇した。所得や生産性も上がっているなら、これは問題ではない。しかし4-6月の個人消費がインフレ調整後で5%という落ち込み方は、1997年の消費税引き上げ時よりひどいと、オリエンタル・エコノミスト・リポートのリチャード・カッツ編集長は指摘する。

円安によって製造業にもたらされた利益が失われつつある兆候も見られる。トヨタ自動車は5日、今期の純利益は減少するとの業績予想を据え置いた。同社以外も、日本の大手自動車各社は消費税率の3ポイント引き上げによる影響を受けた国内販売の落ち込みに備えている。パナソニックなど電機メーカーも同様だ。

物価上昇の原因を無視するな

日本はデフレを克服したとする楽観は、現在の物価上昇が何によってもたらされているかという点を無視している。原子力発電所を全面稼動停止させた日本が、安い円でエネルギー資源を輸入するコストは高くつく。これと消費者の需要先行きが怪しいことが、インフレでも企業が賃金を引き上げない理由だろう。安倍首相は15年に再増税を検討しているのだから、向こう数カ月も期待できない。
テネオ・インテリジェンスの日本専門家、トバイアス・ハリス氏は「控えめに言っても、最新のデータは景気回復の脆弱(ぜいじゃく)さを一段と物語っており、安倍首相や日銀の黒田東彦総裁に行動を迫る圧力が強まるだろう」と話す。

スタグフレーションのリスクを吹き飛ばすにはどうしたらよいか。短期的措置として、日銀がさらなる流動性を市場に供給することは可能だが、これではインフレ懸念を悪化させるだけかもしれない。これまで以上に重要なのは、日本の競争力と生産性を高めるために必要な構造改革を安倍首相が断行することだ。貿易障壁を減らす取り組みを加速させ、税制を刷新、労働市場の規制を緩め、企業ガバナンスを高め、雇用につながる起業を促すことだ。

アベノミクスはこれまでのところ、刺激策多くして規制緩和ゼロを意味してきた。これは成長や信頼感の改善というよりもインフレを高める処方箋だった。このパターンを反転させるため安倍首相が速やかに行動しなければ、日本の景気を回復させたというより惨状を招いた首相として後世に名を残すことになるかもしれない。

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